異世界生まれの鍛冶屋さん ~理不尽にクビ宣告された宮廷鍛冶師、敵国の魔王様にスカウトされ自分のお店を開業する~

日之影ソラ

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「……はぁ」

 私は盛大にため息をこぼす。
 今日中に終わるかも、なんて考えは甘かった。
 二時間かけてようやく玄関と部屋二つの掃除が終わる。
 おそらく全体の二割も終わっていない。

「広すぎでしょ……」

 貴族の屋敷をなめていた。
 この別荘、田舎の小学校くらいの広さがある。
 一人で掃除するなんて何日かかるか。
 やっぱり他人の手を借りて……。

「ううん! 自分でやるって決めたんだから!」

 ここは私のお店で、私が住む場所でもある。
 自分の場所くらい自分の手で掃除して綺麗にしたい。
 そう思って始めたのだから、今さら怖気づくわけにはいかない。
 私はパンと頬を軽く叩き、気合を入れなおす。

 それから数時間。
 西の空に夕日が沈むまで、私はせっせと掃除をした。
 
「はぁ……さすがに疲れたぁ」

 大きく深呼吸をする。
 最終的に掃除が終わったのは、玄関と四部屋だけだった。
 それも床や窓の掃除が終わっただけで、部屋の中にあった小物や布団とか、カーテンなんかの掃除は終わっていない。
 布系の製品は一度洗わないといけないだろう。
 それはまた今度、一旦は全部の部屋の床と壁、窓を掃除して回る。
 細かい部分は後回しだ。
 そうしないと、グレン様も困ってしまう。

「あ、鍛冶場の場所決めてない」

 掃除に集中しすぎて忘れていた。
 この屋敷のどこかに、鍛冶場を新しく作ることになっている。
 それは私の力じゃできないから、グレン様にお願いすることになっていた。
 グレン様からどこに作るか決めておいてほしい、と言われていたのにすっかり忘れていた。

「ど、どうしよう……」

 今から場所を考える?
 グレン様は夕方に顔を見せると思っていた。
 あと何分猶予があるだろう。
 さっそく動き出す。
 
 と、そのタイミングで玄関の扉が開いた。

「ソフィア、掃除は進んでいるか?」

 タイムアップ。
 時間切れはすぐに訪れた。
 グレン様は玄関を見回し、感心しながら言う。

「玄関は中々綺麗になっているじゃないか。よく一人でここまで……ん? どうかしたか?」
「す、すみません! 掃除に夢中で、鍛冶場の場所……考えてませんでした」
「ああ、そんなことか。急ぎじゃないから気にしなくていい。業者はすぐ手配できる。お前のペースに任せるよ」
「あ、ありがとうございます」

 グレン様が優しい人で助かった。
 そう言ってくれているけど、明日には目星をつけておこう。
 待たせるのも申し訳ない。
 それに、鍛冶場は私も一番拘りたい場所だから。

「鍛冶場以外も、店舗の見た目に改造はする。要望があればまとめておいてくれ」
「はい!」

 店舗開店まではまだかかりそうだ。
 でも、今からワクワクする。
 どんなお店になるのか。
 想像するだけでも楽しい。
 
「ところで、掃除は一人で終わりそうか?」
「――が、頑張ります」
「無理はするなよ? 意地を張るのと努力は別物だ。頼れるときは頼る。厚意に素直に甘えることは、悪いことじゃないぞ」
「……はい」

 この人は本当に、魔王なんて似合わないセリフを言う。

「で、どうする?」
「明日から、お手伝いをお願いできれば嬉しいです」
「わかった。手の空いている者に声をかけよう」
「ありがとうございます」

 他人の厚意に甘える。
 それが許される環境にいることを、改めて感じる。
 
「お前はもっと素直に甘えることを覚えるべきだな」
「……そう、かもしれませんね」
「かもじゃない。もっと甘えろ。甘えた分、ちゃんと返せばいいだけだ」
「そうですね。そうします」

 中々これが難しい。
 私にできることは、鍛冶だけだから。
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