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グレン様の案内で店舗の候補地を巡った。
いろいろ見て回ったけど、最終的に選んだのは街はずれにある元貴族の別荘だ。
庭も広く、建物も小さ目な屋敷になっている。
広さは申し分ない。
お客さんについてはちょっぴり不安だけど、とにかく場所は決まった。
ここからは開店するまでの準備だ。
最初にやることは――
「よし!」
水の入ったバケツ。
布切れ、箒。
必要な掃除道具を準備し、私は別荘の玄関前に立つ。
グレン様の話によれば、ここを貴族の方が使っていたのは二年ほど前らしい。
その貴族は跡継ぎがおらず、次代に繋ぐことができなかった。
残った屋敷や財産は、交流のあった貴族だったり、一部の土地は王国に返還されたそうだ。
この別荘もその一つ。
誰も使わないからということで、土地と建物が王国に返還され、そのまま放置されている。
二年間放置されていたから、埃や汚れは当然溜まっている。
「わざわざ自分で掃除をするのか?」
「はい。そのつもりです」
掃除を始めようと意気込む私の後ろに、グレン様が顔を出す。
彼は呆れたような表情で続ける。
「お前がやらずとも、掃除も手配すればいいんだぞ?」
「いえ、自分でやりたんです。これから住む場所でもありますから」
「真面目な奴だ。俺も手伝ってやりたいところだが……」
「そのお気持ちだけでとても嬉しいです」
連日、グレン様には街や城を案内してもらったり、掃除道具も用意してもらった。
彼も帝王として忙しい身だ。
これ以上、私のことばかりに時間をかけさせたくない。
レーゲンさんも大変だろうし。
「夕刻にはまた顔を出す。外には兵士を待機させておくから、もし何か困ったことがあれば頼ればいい。なんなら掃除を手伝わせてもいいぞ」
「それは申し訳ないので、遠慮しておきます」
グレン様は笑みをこぼして去っていく。
たぶん本気で言っていたのだろうと思った。
一人になった私は、改めて別荘と向き合う。
「さ、頑張ろ」
まずは玄関の掃除から。
扉を開けたら埃が外にぶあーっと漏れ出す。
「こほっ、ごほっ……さすが二年分……」
改めて見ると、さすが貴族の別荘だ。
玄関だけでもワンルームのマンションくらいの広さがある。
現代ならこの広さで十分快適に暮らせそうだ。
私が生まれ育った現代の国は、家の中に入ると靴を脱ぐ。
この世界では家の中でも靴は履いたままだ。
その関係か、玄関にシューズボックスはない。
広々とした空間は殺風景で、意外と早く拭き掃除が終わった。
「この感じならいけるかも」
今日中に屋敷の掃除を終わらせることができたら、次の段階に進める。
そう思って意気込んでは見たものの……。
二時間後――
いろいろ見て回ったけど、最終的に選んだのは街はずれにある元貴族の別荘だ。
庭も広く、建物も小さ目な屋敷になっている。
広さは申し分ない。
お客さんについてはちょっぴり不安だけど、とにかく場所は決まった。
ここからは開店するまでの準備だ。
最初にやることは――
「よし!」
水の入ったバケツ。
布切れ、箒。
必要な掃除道具を準備し、私は別荘の玄関前に立つ。
グレン様の話によれば、ここを貴族の方が使っていたのは二年ほど前らしい。
その貴族は跡継ぎがおらず、次代に繋ぐことができなかった。
残った屋敷や財産は、交流のあった貴族だったり、一部の土地は王国に返還されたそうだ。
この別荘もその一つ。
誰も使わないからということで、土地と建物が王国に返還され、そのまま放置されている。
二年間放置されていたから、埃や汚れは当然溜まっている。
「わざわざ自分で掃除をするのか?」
「はい。そのつもりです」
掃除を始めようと意気込む私の後ろに、グレン様が顔を出す。
彼は呆れたような表情で続ける。
「お前がやらずとも、掃除も手配すればいいんだぞ?」
「いえ、自分でやりたんです。これから住む場所でもありますから」
「真面目な奴だ。俺も手伝ってやりたいところだが……」
「そのお気持ちだけでとても嬉しいです」
連日、グレン様には街や城を案内してもらったり、掃除道具も用意してもらった。
彼も帝王として忙しい身だ。
これ以上、私のことばかりに時間をかけさせたくない。
レーゲンさんも大変だろうし。
「夕刻にはまた顔を出す。外には兵士を待機させておくから、もし何か困ったことがあれば頼ればいい。なんなら掃除を手伝わせてもいいぞ」
「それは申し訳ないので、遠慮しておきます」
グレン様は笑みをこぼして去っていく。
たぶん本気で言っていたのだろうと思った。
一人になった私は、改めて別荘と向き合う。
「さ、頑張ろ」
まずは玄関の掃除から。
扉を開けたら埃が外にぶあーっと漏れ出す。
「こほっ、ごほっ……さすが二年分……」
改めて見ると、さすが貴族の別荘だ。
玄関だけでもワンルームのマンションくらいの広さがある。
現代ならこの広さで十分快適に暮らせそうだ。
私が生まれ育った現代の国は、家の中に入ると靴を脱ぐ。
この世界では家の中でも靴は履いたままだ。
その関係か、玄関にシューズボックスはない。
広々とした空間は殺風景で、意外と早く拭き掃除が終わった。
「この感じならいけるかも」
今日中に屋敷の掃除を終わらせることができたら、次の段階に進める。
そう思って意気込んでは見たものの……。
二時間後――
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