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 某日。
 勇者エレインと王女エレナは一室で語り合う。
 愛ではなく、一人の女性について。

「ソフィアの居場所がわかった?」
「はい。騎士を使って調べさせましたが、どうやらヴァールハイト王国にいるようです」
「ヴァールハイト? 敵国じゃないか」
「はい」
「まさか敵国に逃げているなんて……国民としての自覚がないようだね。やっぱり追放して正解だったんじゃないか?」
「私もそう思います」

 勇者エレインは敵国に逃げ込んだソフィアに苛立ちを覚えていた。
 しかし自業自得である。
 その影響で、自分が不利を被ることも、すべて彼女が悪いと思い込んでいる。
 
「ヴァールハイトのどこにいるかはわかったのかい?」
「おそらく帝都のどこかに。密偵からの目撃情報もありますので、確かでしょうね」
「そうか。なら行こう。僕自らが迎えに行くんだ。彼女も泣いて喜ぶに違いないさ」
「その通りでございます」

 思い込みの激しい二人。
 互いの妄想、理想が重なって、余計に自信過剰となっていく。
 もはや彼らの思い違いは、行きつくところまで行かねば解消されない。

「ですがお気を付けください。あの地には魔王が……エレイン様の宿敵がいます」
「わかっているさ。戦いは避けよう。聖剣が修理できていない今、戦えば僕といえど無事では済まないからね。だから先に、ソフィアを連れ戻す」

 エレインはニヤリと笑みを浮かべ、妄想を語る。

「愛人にでもすると言えばすぐ戻るさ。そうして聖剣を修理させれば、魔王だって怖くない。そろそろ本気で倒してしまおうかな」
「なんて凛々しいお方なのでしょう。ソフィアさんも罪な人ですね」
「まったくだよ。彼女には深く反省して、今後は僕に尽くしてもらわないとね。少しくらいなら……可愛がってあげてもいかな」
「私のこともお忘れにならないでくださいね」
「忘れるわけないだろう? いつでも君が一番だよ、エレナ」

 膨らんだ妄想と、共依存の愛。
 強固に見えてガラス細工のようにもろく、叩けば一瞬で砕け散る。
 これより勇者エレインは、単独でヴァールハイト王国へと潜入する。
 鍛冶師ソフィアを見つけ出し、連れもどすために。
 彼は未だに思いもしない。
 きっと彼女は、一人孤独で、食べるものもなく飢えていると思っている。
 彼女の隣に、魔王と呼ばれる男がいるなど、夢にも思わない。
 現実が妄想を打ち砕くまで、残りわずかである。
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