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「優れた鍛冶師であるかどうかに、性別は関係ありませんよ?」
「……ふっ」

 グレン様が笑った。
 その通りだと、視線が言ってくれているような気がする。
 私は続けて、小さなカバンからナイフと取り出す。
 
「例えばこのナイフ、私が打ったものです」
「なんだそりゃ? 果物の皮でも剥くのかよ」
「そういう用途にも使えます。でもこれ、あなたが担いでいる大剣よりも斬れますよ?」
「は? んなわけねーだろ? こいつは俺の相棒だぜ? こいつで数多の魔物を斬り裂いてきたんだ。そんなちっぽけなナイフに負け――」
「だから、試しましょう」

 鍛冶師としてのプライドが、私を突き動かしている。
 普段ならほとんどにしない挑発に、大男もイラついた様子だった。

「いいぜ、じゃあ試してやるよ。外でな」
「はい」
「……の前に、これ解除しやがれ」
「おっとすまない。自力で抜け出す力もなかったか」
「この……」
 
 追加でグレン様にも煽られ顔を真っ赤にした大男と一緒に、私たちは険悪なムードのまま店の外に出た。
 私と大男は向き合う。

「ルールは簡単です。私がこうやってナイフを持っています」

 切っ先は上へ、刃を正面に向けて胸の前で突き出す。
 ここから動かさない。
 ただ、構えておくだけでいい。

「ここに向かって斬りかかってください」
「おいおい正気か? そっちが折れたら嬢ちゃんに届くぜ? 死ぬかもしんねーぞ」
「大丈夫です。折れるのはそっちですから」
「――そうかよ。じゃあ死んでも文句言うんじゃねーぞ!」
「はい」
「逆に折られても文句を言うなよ」

 グレン様も煽って、余計に大男は苛立つ。
 グレン様が止めないのは、結果が見えているからだろうか。
 信頼してくれているのは嬉しい。
 私も、微塵も心配していない。
 一目見ればわかる。
 剣の切れ味、強度、将来性。
 そして……使い手の技量も、すべて。

「いくぞおらぁ!」

 大きな掛け声と共に大剣を抜き去り、大男は思いっきり振り下ろした。
 死ぬぞと忠告してくれた優しさは、立て続けの挑発で消えてなくなったようだ。
 本気で振り下ろした。
 そして、カキンと音が鳴り響き、刃が刺さる。

「……う、嘘だろ……」
「だから言ったじゃないですか。折れるのはそっちだって」

 突き刺さったのは、地面に。
 彼の大剣は私のナイフと衝突し、真っ二つに折れた。
 大男は驚愕している。
 こんな結果になると一切予想できなかったのだろう。
 私や殿下は、最初からわかっていた。

「なんで……」
「その剣、ちゃんと手入れしてませんでしたよね?」
「――!」
「どれだけ優れた剣でも、永久に使えるわけじゃありません。使えは刃こぼれするし、錆びていくものです。だからこそ、日々の手入れが大事なんです」
「……」

 大男は唖然としていた。
 折れた剣を見ながら。
 驚愕の中に、悲しさを感じた私は、少し申し訳なく思う。
 相棒と言っていたし、大事にしていたのは事実だろう。
 手入れの仕方は間違っていたかもしれないけど。

「お詫びにこれ、あげます」
「え……」

 私はナイフを手渡した。
 せめてもの慰めに。

「今度お店をオープンするので、よかった来てください。その大剣、私が打ち直します」
「……い、いいのかよ」
「はい。折ってしまったお詫びです」
「……あ、ありがとよ。その……馬鹿にして悪かった」

 ああ、なんだ。
 ちゃんと謝れる人なんだ。
 だったら大丈夫。
 あの意地悪な勇者とは全然違う。

「いえ、気になさらないでください」
「店がオープンしたら必ず行く。このナイフは、その時に返させてもらうぜ」
「はい」

 こうして私はお店を回転させる前に、お客さんを獲得した。
 予想外ではあるけど、悪くない成果だ。
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