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5.顔合わせ

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「それじゃー明日また同じ時間に来てくれるかな?」
「ここに来ればいいのか?」
「ええ。担当する子たちを紹介するわ」
「了解した」

 シオンはソファーから立ち上がると、そのまま出口の扉まで歩いていく。
 アリアはその後ろ姿を見つめながら、感謝の言葉を伝える。

「シオン、ありがとね」
「別にいいさ。単なる成り行きだ」

 そう言って、シオンは背を向けながら手を振る。
 扉を開けて部屋から出ていくまで、アリアは彼を見つめていた。
 彼がいなくなってから、ずっと黙っていたエマが口を開く。

「アリア様、一つよろしいでしょうか?」
「ん? 何かな?」
「あの方とはどういうご関係なのですか?」
「ただの古い友人だよ」

 そう答えたアリアの顔をエマがじっと見つめる。
 納得してなさそうな表情を浮かべながら、さらに問いかける。

「それにしては厚く信頼されているようでしたが?」
「まぁね。彼には何度も助けられてるからね」

 アリアは自慢げに語る。

「アタシが知る限り、彼ほど頼りになる男はいないよ。ただ、それと同じくらい……」
「アリア様?」
「同じくらい敵に回したくない男でもあるのよ」

 アリアはそう言って、小さく笑っていた。
 そのまま窓の外を見つめる彼女に、エマは首を傾げている。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 翌日の朝。
 支度を済ませた俺は、言われた通りギルド会館へと足を運んだ。
 昨日と同じ時間と言うから、ピークよりも遅れている。
 ギルド会館の中は程よく人がいて賑やかだ。

「すみません。アリア、じゃなくてギルドマスターに呼び出されて来たんですが」

 と声をかけたのは昨日の受付嬢だった。
 彼女は俺を見るなりハッと驚き、低姿勢で返事をする。

「お待ちしておりました、シオン様」

 様って……本当に何を吹き込まれたんだ。

「すぐにお伝えして参りますので、少々お待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「はい。お願いします」
「かしこまりました」

 受付嬢が奥へと去っていく。
 俺は受付カウンターから少し離れた所に立ち、壁にもたれながら待つことに。
 待っている間、何となく周囲を見回して、彼らがいないことを確認する。
 あれから一日が経過している。
 リンドブルムの討伐は、ちゃんと成功したのだろうか。
 彼らも成長しているけど、アンデッド特攻なしでは厳しいだろう。

「……まぁ、死んでなければいいけど」

 なんてことを考えるのは、俺が甘いからなのだろうか。 
 追放した側の心配なんてするだけ無駄だと、昔アリアにも言われたことがあったな。
 わかっているけど、こればかりは理屈じゃないんだよ。
 俺は大きくため息をこぼす。
 すると――

「おい、あれ」
「ギルドマスターだ。出てくるなんて珍しいな」
「ああ、何かあったのか?」

 会館内がざわつきだす。
 気づいた俺が目を向けると、アリアが近づいてきていた。
 そうして目が合い、彼女はニッコリと微笑む。

「おまたせ、シオン」

 彼女が俺に声をかけた途端、ざわつきが一瞬なくなった。
 と思ったら、さっき以上に声があふれ出す。

「ついてきて。もう皆が待ってるわ」
「ああ」

 何を騒いでいるのか聞こえないけど、大体の予想はつく。
 そんな中を堂々と、彼女は気にも留めずに横切っていった。
 俺も後に続いて、階段に差し掛かる。

「アリア、何でわざわざ出てきたんだよ」
「ん? 君を呼びに来ただけだよ?」
「いや、他の奴に頼んでも……もういいや」
「ふふふっ、そんなに目立つのは嫌か?」

 アリアは面白がって笑う。
 この表情……わざとだったみたいだな。

「で、どこに向ってるんだ?」
「応接室だよ。昨日話した部屋の隣にあるの」

 アリアが立ち止まる。
 すでに応接室の目の前まで到着していたようだ。

「中にいるから、ちゃんと笑顔であいさつしてね?」
「善処はする。あんまり期待するなよ」

 アリアはニコリと微笑み、扉をノックする。

「入るよー」

 声もかけて、アリアは扉を開けた。
 金属が擦れる音をたてながら扉は空き、中の様子が見えてくる。
 間取りは昨日の部屋と似ている。
 ソファーと机があって、アリアが座っていた椅子と机がないだけだ。
 左側のソファーに、三人の女の子が座っている。
 彼女たちの視線がこっちへ向き、俺と目が合う。

「シオンはこっち」
 
 アリアに手招きされて、彼女たちと反対のソファーへ座る。
 そして、一呼吸おいてからアリアが話し始める。

「待たせてごめんね? さっそく紹介するよ」

 そう言って、アリアは俺に視線を向けて続ける。

「彼が君たちのアドバイザー、シオンだ。簡単に自己紹介してもらえるかな?」
「ああ」

 言われた通りに自己紹介を始める。

「初めまして。縁あって、ギルドマスターから君たちの指導を任されました。短い期間だと思うけど、これからよろしく」
「はい! よろしくお願いします!」

 元気な声で返してくれたのは、一番右に座っている赤毛の少女だった。

「よろしくー」
「……よろしく」

 他の二人も遅れて返事をした。
 灰色のポニーテールの少女は、俺の顔をじーっと見つめてくる。
 俺の顔に何かついているのだろうか。
 それとも昔どこかであったことがあるとか……
 
 すると、彼女は隣の水色のショートヘアの少女に顔を近づけ――

「おっさんだな」
「……うん」
「ちょ、ちょっと二人とも失礼だよ!」

 慌てて赤毛の少女が止める。
 その様子を見ていたアリアが、思わず吹き出して笑う。

「ぷふっ! 早々に言われたわね」
「笑ってる場合かよ」

 やれやれ。
 俺は一人、心の中で呟いていた。
 
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