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キツツキと樵
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手当をしたことで痛みが和らいだのか。
ダン君は元気よく立ち上がった。
「もう大丈夫だ!」
「元気だね」
「男だからな! それに仕事もしなくちゃ」
そう言ってダン君は地面から斧を拾い上げる。
私が両手で持つのも大変だった斧を、片手で持ち上げて肩にかついだ。
見た目は子供でも、力は男の子だ。
私よりもよっぽど力持ちかもしれない。
それとも私がひ弱なだけ?
ちょっと心配になってきた。
今後のためにも筋トレとかしたほうがいいかな?
「助けてくれてありがとう! これで仕事ができる!」
「待った」
「え? 何?」
「君は怪我人だ。今は休まないとだめだよ」
働き始めようとしたダン君の肩を、ファルス様が掴んで止めた。
「大丈夫だって! もう平気だから!」
「ダメだ。ほら、血が滲んできている」
「え、あ……」
包帯の端っこから血がにじんでいた。
血止め薬は使っている。
痛みは和らいでも、傷が塞がったわけじゃない。
無理に動こうとすれば、また傷が開いて血が流れる。
「これくらいよくあることだって。魔物に襲われたの初めてだけどさ」
「小さな傷でも大きな病気に繋がるんだ。治るまでは安静にしていなさい」
「でも、仕事しないといけないし……」
シュンとするダン君。
そんな彼を見て、ファルス様が腕をまくる。
「貸して」
「え?」
「斧、僕が代わろう」
「お兄ちゃんが? やってくれるの?」
「うん。こう見えて僕、力仕事は得意なんだ」
ファルス様はダン君から斧を借りて、彼の代わりに木を切ることに。
斧を担いでファルス様が言う。
「すまないけど、少し待っていてくれるか」
「はい」
ファルス様なら、勇者ならそうするだろうと思っていた。
「今のうちに馬車を移動させておきます」
「助かるよ。ダン君、どの木を切ればいい?」
「あそこ! 切りかけなんだ!」
「よし」
ファルス様が樵をしている間に、私は街道で放置されている馬車を近くに移動させる。
まだファルス様のように走らせるのは無理だけど、馬を誘導することはできる。
ゆっくり、森の木々に引っかからないように近くへ。
街道の端に移動させて、他の通行人がきても邪魔にならないようにした。
一応、見張りとして折り紙の鶴を一羽置いておく。
急いで森に戻った。
「結構難しいな」
「へへっ、コツがいるんだ!」
意外にも、ファルス様は樵に苦戦しているようだった。
彼の力ならパワーで切り倒せそうだけど……。
「ダン君は凄いな。まだ子供なのに力持ちだ」
「凄いだろ! お兄ちゃんも勇者様ならもっと鍛えないとな!」
「ははっ、そうだな」
なるほど、わざとみたいだ。
ダン君の頑張りを、努力を褒めるために。
そういう見えない優しさに、ほっこりする。
「あ、お姉ちゃんおかえり」
「うん」
私はダン君の隣に座る。
「ねぇダン君、どうして樵をしているの?」
「それが俺の仕事だからだよ!」
「そうなんだ。歳は?」
「十三歳!」
思ったよりも子供だ。
この世界では、子供も働きに出ているのが普通?
私は長く王都で暮らしていたし、一応は貴族の出身だから一般家庭のことがよくわからない。
ファルス様がダン君に言う。
「その歳で働いているなんて、偉いね」
「へへっ、そうかな?」
「偉いよ。ご両親は何をされているのかな?」
「父ちゃんは小さい頃に事故で死んじゃった。母ちゃんはその時の事故で足が動かなくなったんだ。だから俺が働くんだ! 母ちゃんのために!」
「……そうか」
ファルス様の口ぶりから、彼の年齢で一人で働くことが普通じゃないのは感じていた。
予想はしていたけど、思ったよりも重い理由だ。
ダン君は明るく元気に答えているけど……。
「本当に偉いよ」
と、ファルス様が呟いた。
ダン君は元気よく立ち上がった。
「もう大丈夫だ!」
「元気だね」
「男だからな! それに仕事もしなくちゃ」
そう言ってダン君は地面から斧を拾い上げる。
私が両手で持つのも大変だった斧を、片手で持ち上げて肩にかついだ。
見た目は子供でも、力は男の子だ。
私よりもよっぽど力持ちかもしれない。
それとも私がひ弱なだけ?
ちょっと心配になってきた。
今後のためにも筋トレとかしたほうがいいかな?
「助けてくれてありがとう! これで仕事ができる!」
「待った」
「え? 何?」
「君は怪我人だ。今は休まないとだめだよ」
働き始めようとしたダン君の肩を、ファルス様が掴んで止めた。
「大丈夫だって! もう平気だから!」
「ダメだ。ほら、血が滲んできている」
「え、あ……」
包帯の端っこから血がにじんでいた。
血止め薬は使っている。
痛みは和らいでも、傷が塞がったわけじゃない。
無理に動こうとすれば、また傷が開いて血が流れる。
「これくらいよくあることだって。魔物に襲われたの初めてだけどさ」
「小さな傷でも大きな病気に繋がるんだ。治るまでは安静にしていなさい」
「でも、仕事しないといけないし……」
シュンとするダン君。
そんな彼を見て、ファルス様が腕をまくる。
「貸して」
「え?」
「斧、僕が代わろう」
「お兄ちゃんが? やってくれるの?」
「うん。こう見えて僕、力仕事は得意なんだ」
ファルス様はダン君から斧を借りて、彼の代わりに木を切ることに。
斧を担いでファルス様が言う。
「すまないけど、少し待っていてくれるか」
「はい」
ファルス様なら、勇者ならそうするだろうと思っていた。
「今のうちに馬車を移動させておきます」
「助かるよ。ダン君、どの木を切ればいい?」
「あそこ! 切りかけなんだ!」
「よし」
ファルス様が樵をしている間に、私は街道で放置されている馬車を近くに移動させる。
まだファルス様のように走らせるのは無理だけど、馬を誘導することはできる。
ゆっくり、森の木々に引っかからないように近くへ。
街道の端に移動させて、他の通行人がきても邪魔にならないようにした。
一応、見張りとして折り紙の鶴を一羽置いておく。
急いで森に戻った。
「結構難しいな」
「へへっ、コツがいるんだ!」
意外にも、ファルス様は樵に苦戦しているようだった。
彼の力ならパワーで切り倒せそうだけど……。
「ダン君は凄いな。まだ子供なのに力持ちだ」
「凄いだろ! お兄ちゃんも勇者様ならもっと鍛えないとな!」
「ははっ、そうだな」
なるほど、わざとみたいだ。
ダン君の頑張りを、努力を褒めるために。
そういう見えない優しさに、ほっこりする。
「あ、お姉ちゃんおかえり」
「うん」
私はダン君の隣に座る。
「ねぇダン君、どうして樵をしているの?」
「それが俺の仕事だからだよ!」
「そうなんだ。歳は?」
「十三歳!」
思ったよりも子供だ。
この世界では、子供も働きに出ているのが普通?
私は長く王都で暮らしていたし、一応は貴族の出身だから一般家庭のことがよくわからない。
ファルス様がダン君に言う。
「その歳で働いているなんて、偉いね」
「へへっ、そうかな?」
「偉いよ。ご両親は何をされているのかな?」
「父ちゃんは小さい頃に事故で死んじゃった。母ちゃんはその時の事故で足が動かなくなったんだ。だから俺が働くんだ! 母ちゃんのために!」
「……そうか」
ファルス様の口ぶりから、彼の年齢で一人で働くことが普通じゃないのは感じていた。
予想はしていたけど、思ったよりも重い理由だ。
ダン君は明るく元気に答えているけど……。
「本当に偉いよ」
と、ファルス様が呟いた。
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