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長女アイラ
Ⅲ
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銀色の髪が風でなびく。
透き通るような瞳は、髪と同じ色をしていた。
男性とは思えない白くて綺麗な肌にも、見惚れる何かを感じてしまう。
「休憩中にすまないな、アイラ」
「いえ。王子はまた城を抜け出してきたんですか?」
「またとは失礼だな。まぁ……そうなんだが」
王子は目をそらしながらそう言った。
「あまりお城の人たちを困らせては駄目ですよ? 皆さんも心配されていると思いますから」
「ぅ……それを言われると返す言葉もないな」
「それから、急に高い所から降りてこないでください。あの時みたいに驚いて、怪我をしたら大変です」
「いやいや、あれはお前が勝手に転びそうになっただけだろ。それを俺が助けた拍子に怪我をしたんだから」
「急に声をかけたからですよ」
王子と私の出会いは、人気のない空き地だった。
今でもハッキリと覚えている。
そんなにロマンチックな出会いではなかったし、最初は王子だということも知らなかったけど。
「ここでは見ない顔だったし、何より綺麗な髪だったからな。それと、俺のことは王子じゃなくて名前で呼べと言っているだろう?」
「ハミル殿下?」
「それじゃ同じだ! お前はわざとやっているだろう?」
図星だったりする。
王子の反応が面白くて、悪戯が過ぎたかな。
「ハミル様」
「様もいらん。あと敬語も止めろと言ったはずだが?」
「それはさすがに失礼では? 他の人たちに聞かれたら」
「構わん。そもそもここは俺たちをよく知る者しかいない。敬語は堅苦しいから、正式な場以外は必要ない」
「じゃあ……ハミル」
「うん、それでいい」
ハミルは爽やかにはにかむ。
無邪気な笑顔を見ていると、心に風がすーっと抜けていくようだ。
「隣いいか?」
「もちろん」
ハミルは私の隣に座った。
一緒に同じ空を見上げながら、感慨にふけったように言う。
「空が染まって来たな」
「もう夕方だからね」
「まぁそうなんだが、城から見る空より、ここから見るほうが綺麗だな」
「ふふっ、いっつもそう言っているね。ハミルはお城が嫌いなの?」
「別に嫌いじゃないさ。ただ……俺は城よりも、城の外の街が好きなだけだよ」
そう言って、ハミルは大空に手を伸ばす。
言葉の節々に込められた思いが、私にも伝わってくるようだ。
「だからって何度も抜け出しちゃダメだよ」
「またそれか」
「怒られてもしらないからね?」
「ふんっ! ちゃんと執務はこなしてから出てきている」
ハミルは飛び出す様に立ち上がり、大きく背伸びをした。
「それに俺だって暇だから出てきているわけじゃないぞ」
「そうかな?」
「当たり前だ。街の様子はこうして時折見ておかないとな。案外、一日足らずで変わってしまう。王族として、国を治める者として、そこで暮らす人々の生活は直に見ておきたいんだ」
そんな風に言える彼を、私は凄いと思った。
ハミルは私の知っている王子とは全然違う。
傲慢で変態な王子しか知らなかった私にとって、ハミルはとても眩しくて格好良く見える。
「あと、お前に会いたかった」
「へっ――」
「何だ? その呆けた面は」
唐突に振られた話に動揺して、思わず変な声が出てしまった。
「きゅ、急にそんなこと言うから」
「事実だからな。最近の外出の目的の半分は、お前の様子を見に来ることだ」
「ぅ……そうなの?」
「ああ」
爽やかすぎる。
そんなセリフを臆面もなく言えるなんて……
あぁ、でもその辺りは私の知っている王子と同じなのか。
何だろう?
王子になる人は、そういう所は標準装備しているのかな。
どっちにしろ心臓に悪い。
「まぁ何せ、お前をここの聖女に推薦したのは俺だからな! ちゃんと働いているかチェックしないと、俺の顔がたたんだろ?」
「なっ、そんな理由なの?」
「まだな」
「まだ?」
「ああ、まだだ」
私はその意味を理解できなくて、キョトンとして首を傾げる。
するとハミルは、小さく笑って言う。
「まぁ良いさ。今は気にしないでくれ」
「そう?」
「ああ。いずれちゃんと言う。それよりどうだ? 最近の感じは」
「えっと、それなりに大変かな」
以前にハミルと話したのは一週間ほど前。
その間に起こったことを、私はハミルに話して聞かせた。
彼がここへ来るときは、いつも近況を報告し合っている。
「そっちは?」
「俺は変わらずだ。兄上が戻られるまでは、中々忙しい日々が続くだろうな」
「お兄さんはまだお隣の国に?」
「らしいな。俺も詳しくは聞いていないが」
王族のお仕事は大変だ。
私も直で見てきたから知っている。
向こうの王子はどうだったか知らないけど、少なくとも王様は多忙な人だった。
「だったら早く戻ったほうがいいのでは?」
「そうだな。そろそろ戻らないと、城の兵がこぞって探しに来る」
それは一大事だ。
ハミルは笑っているけど、全然笑い事じゃない。
「さて、では戻る。また来るからな」
「うん」
ハミルは壁を登って颯爽と去っていった。
この国の王子様は、とても活発で清々しい人だ。
そんな彼と出会えたことを、運命だと思いたい。
透き通るような瞳は、髪と同じ色をしていた。
男性とは思えない白くて綺麗な肌にも、見惚れる何かを感じてしまう。
「休憩中にすまないな、アイラ」
「いえ。王子はまた城を抜け出してきたんですか?」
「またとは失礼だな。まぁ……そうなんだが」
王子は目をそらしながらそう言った。
「あまりお城の人たちを困らせては駄目ですよ? 皆さんも心配されていると思いますから」
「ぅ……それを言われると返す言葉もないな」
「それから、急に高い所から降りてこないでください。あの時みたいに驚いて、怪我をしたら大変です」
「いやいや、あれはお前が勝手に転びそうになっただけだろ。それを俺が助けた拍子に怪我をしたんだから」
「急に声をかけたからですよ」
王子と私の出会いは、人気のない空き地だった。
今でもハッキリと覚えている。
そんなにロマンチックな出会いではなかったし、最初は王子だということも知らなかったけど。
「ここでは見ない顔だったし、何より綺麗な髪だったからな。それと、俺のことは王子じゃなくて名前で呼べと言っているだろう?」
「ハミル殿下?」
「それじゃ同じだ! お前はわざとやっているだろう?」
図星だったりする。
王子の反応が面白くて、悪戯が過ぎたかな。
「ハミル様」
「様もいらん。あと敬語も止めろと言ったはずだが?」
「それはさすがに失礼では? 他の人たちに聞かれたら」
「構わん。そもそもここは俺たちをよく知る者しかいない。敬語は堅苦しいから、正式な場以外は必要ない」
「じゃあ……ハミル」
「うん、それでいい」
ハミルは爽やかにはにかむ。
無邪気な笑顔を見ていると、心に風がすーっと抜けていくようだ。
「隣いいか?」
「もちろん」
ハミルは私の隣に座った。
一緒に同じ空を見上げながら、感慨にふけったように言う。
「空が染まって来たな」
「もう夕方だからね」
「まぁそうなんだが、城から見る空より、ここから見るほうが綺麗だな」
「ふふっ、いっつもそう言っているね。ハミルはお城が嫌いなの?」
「別に嫌いじゃないさ。ただ……俺は城よりも、城の外の街が好きなだけだよ」
そう言って、ハミルは大空に手を伸ばす。
言葉の節々に込められた思いが、私にも伝わってくるようだ。
「だからって何度も抜け出しちゃダメだよ」
「またそれか」
「怒られてもしらないからね?」
「ふんっ! ちゃんと執務はこなしてから出てきている」
ハミルは飛び出す様に立ち上がり、大きく背伸びをした。
「それに俺だって暇だから出てきているわけじゃないぞ」
「そうかな?」
「当たり前だ。街の様子はこうして時折見ておかないとな。案外、一日足らずで変わってしまう。王族として、国を治める者として、そこで暮らす人々の生活は直に見ておきたいんだ」
そんな風に言える彼を、私は凄いと思った。
ハミルは私の知っている王子とは全然違う。
傲慢で変態な王子しか知らなかった私にとって、ハミルはとても眩しくて格好良く見える。
「あと、お前に会いたかった」
「へっ――」
「何だ? その呆けた面は」
唐突に振られた話に動揺して、思わず変な声が出てしまった。
「きゅ、急にそんなこと言うから」
「事実だからな。最近の外出の目的の半分は、お前の様子を見に来ることだ」
「ぅ……そうなの?」
「ああ」
爽やかすぎる。
そんなセリフを臆面もなく言えるなんて……
あぁ、でもその辺りは私の知っている王子と同じなのか。
何だろう?
王子になる人は、そういう所は標準装備しているのかな。
どっちにしろ心臓に悪い。
「まぁ何せ、お前をここの聖女に推薦したのは俺だからな! ちゃんと働いているかチェックしないと、俺の顔がたたんだろ?」
「なっ、そんな理由なの?」
「まだな」
「まだ?」
「ああ、まだだ」
私はその意味を理解できなくて、キョトンとして首を傾げる。
するとハミルは、小さく笑って言う。
「まぁ良いさ。今は気にしないでくれ」
「そう?」
「ああ。いずれちゃんと言う。それよりどうだ? 最近の感じは」
「えっと、それなりに大変かな」
以前にハミルと話したのは一週間ほど前。
その間に起こったことを、私はハミルに話して聞かせた。
彼がここへ来るときは、いつも近況を報告し合っている。
「そっちは?」
「俺は変わらずだ。兄上が戻られるまでは、中々忙しい日々が続くだろうな」
「お兄さんはまだお隣の国に?」
「らしいな。俺も詳しくは聞いていないが」
王族のお仕事は大変だ。
私も直で見てきたから知っている。
向こうの王子はどうだったか知らないけど、少なくとも王様は多忙な人だった。
「だったら早く戻ったほうがいいのでは?」
「そうだな。そろそろ戻らないと、城の兵がこぞって探しに来る」
それは一大事だ。
ハミルは笑っているけど、全然笑い事じゃない。
「さて、では戻る。また来るからな」
「うん」
ハミルは壁を登って颯爽と去っていった。
この国の王子様は、とても活発で清々しい人だ。
そんな彼と出会えたことを、運命だと思いたい。
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