聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

日之影ソラ

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長女アイラ

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 アルデナ大聖堂。
 アトワール王国で最も大きな聖堂であり、王城前に構える純白の建物がそれだ。
 かつて王国誕生の際に貢献した聖人アーレスに捧げるために建造された聖堂。
 現在は司教と数名の修道女によって管理され、街の人々の生活の中で起こった小さな罪を懺悔し、神への祈りを捧げる場となっていた。
 大きさはパルプード大聖堂よりも小さい。
 見た目の綺麗さは、こちらのほうが上回っていると思う。

 私はこの大聖堂で、聖女として働いている。
 あの頃と同じように。

「おはようございます」
「聖女様、おはようございます」

 大聖堂に入って最初に出迎えてくれたのは、ここの司教様であるユレスさん。
 優しい顔立ちでいつもニコニコしている。
 今年で六十を超えるけど、まだまだ現役だと言っていた。
 
「あっ! アイラ様!」

 次に私へ駆け寄ってきたのは、修道女のミスリナ。
 淡い黄色の髪は、私と少し似ている。
 元気で人懐っこい性格は、サーシャと近いものを感じていた。

「おはようございます!」
「おはよう、ミスリナ。今日も元気があって素敵ね」
「ありがとうございます! アイラ様も変わらず綺麗で見惚れちゃいそうです」
「ふふっ、ありがとう」

 彼女は手に箒を持っている。

「お掃除中だったのかしら?」
「はい! もうすぐ終わるのでお待ちください」
「私も手伝いましょう」
「大丈夫です! アイラ様は皆さんが来られるまで身体を休めておいてください」
「私なら大丈夫よ? これでも体力には自信があるから」

 他の人が働いているのに、自分だけ待っているのは忍びない。
 そう思っている私に、ユレスさんが言う。

「聖女様には聖女様の役割があるように、彼女たちにも役割があります。全部を取ってしまえば、彼女たちが何もできなくなってしまいますよ」
「そういうことです! お掃除は私に任せて下さい!」
 
 ユレスさんの意見を聞いて、私は納得して頷く。
 確かに、手伝い過ぎるのも良くない。
 妹たちのいるせいか、私はちょっと過保護になっているみたいだ。

「じゃあお願いするわ」
「はい!」

 修道女はミスリナ一人ではない。
 この聖堂には七人の修道女がいて、一緒にお務めを果たしている。
 全員私より若くて、ミスリナが最年長だそうだ。
 サーシャより年下の子もいるのに、しっかりしていて凄いと思う。

「もう少し厳しいほうがいいのかな?」
「ご姉妹のことですか?」
「はい。過保護すぎるのもよくないのだなぁと思いまして」
「それは人によります。全員が当てはまることではないので、聖女様は無理に変わる必要はありませんよ」

 ユレスさんが優しくそう言った。
 この人が言うと、何でも正しいように聞こえる。
 年齢的なものなのか。
 この聖堂に来てからずっと、色々なことで相談にのってもらっている。
 
「さて、そろそろお務めの時間です」
「ええ。今日も頑張りましょう」

 定刻となり、大聖堂の門が開く。
 すでに入り口には待っている人がいて、開門と同時に中へと入ってきた。
 ここへ来る人たちは全員、何かに悩み、苦しみ、耐えている。
 そんな人たちを救い導くのが、聖女である私の役割。

「こんにちは、皆さん。順番に一人ずつ、私の前へ来てください」

 癒えぬ病を祈りで癒し、心の内に秘めた思いに耳を傾け、時に罪への償いを示す。
 神に選ばれた現身の聖女は、正しい行いを常にしなくてはならない。
 人々はそうであると信じている。
 彼らにとっての聖女を、私は演じ続ける。
 これまでもやってきたことだし問題はない。
 違いがあるとすれば、その動機だろう。
 今の私は、二人との生活を守るために働いている。
 平たく言えばお金のためだ。
 こんな話を彼らにしたら、きっと幻滅されてしまうのだろう。
 それでも構わない。
 だって私にとって、家族が一番大切な存在だから。

 勤めを終え、夕方には休憩に入る。
 聖堂内の片づけと掃除は、修道女たちがやってくれている。
 私はというと、聖堂裏にある小さな庭の椅子に腰かけ、身体を休めていた。

「ふぅ~」

 慣れていると言っても、やっぱり聖女として振舞うのは疲れる。
 肉体的な疲れはもちろん、精神的なストレスも大きい。
 こうして裏庭で一人佇んでいる時間は、何も考えなくて良いから楽だ。

 ううん、一つ違う。
 私がここにいるのは、別の理由もあった。
 口に出しては言わないけれど、心の奥では待っている。
 彼が来てくれることを。

 そして――

「今日もお疲れの様子だな? 聖女様」

 彼の声が聞こえて、私は斜め上に視線を向ける。
 裏庭を囲う壁を登って、銀髪の青年が姿を見せた。
 爽やかな笑顔で壁から飛び降り、私の前に歩み寄る。

「ふふっ、そういうそちらはお暇みたいですね?」
「何だ見てわからないか? この通りとても忙しいぞ」

 手ぶらでわざとらしく両腕を広がる。
 演技染みた彼の振る舞いを見て、私はクスリと笑った。

「こんにちは、ハミル王子」
「ああ」

 彼の名前はハミル・ウェルネス。
 アトワール王国の……第二王子様。
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