聖女三姉妹 ~本物は一人、偽物二人は出て行け? じゃあ三人で出て行きますね~

日之影ソラ

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長女アイラ

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 感染拡大は留まることを知らない。
 私が大聖堂で祈りを捧げる中、街では新たな感染者が出ている。
 一日、二日と経っても状況は変わらない。
 とは言え、死者の数は急激に減ってきているようだ。
 優先的に重傷者への祈りを捧げることで、お年寄りや子供たちの命を繋いでいる。
 まだまだ先は見えないけど、私の力が役に立っているなら、今はそれで満足しよう。

「アイラお姉ちゃん」
「……」
「アイラ」
「えっ、何?」

 夕食の途中、ぼーっとしていたら二人に呼ばれていた。
 気付けなかった私は誤魔化す様に笑う。
 二人は心配そうに私を見ている。

「病気の人を見てるんだよね? 凄く大変なんでしょ?」
「顔色が良くない」
「そ、そう? 私なら大丈夫よ」

 そうは見えないとでも言いたげな表情。
 現に疲れは溜まっている。
 あれを始めてから四日間で、一日に何百人も癒し続けているから。
 中には感染していなくても、不安だからという理由で訪れる人もいる。
 そういう人たちを追い返すわけにもいかず、念のためにとまとめて祈る。
 疲れないなんて嘘になる。

「ボクもお手伝いしようか?」
「ダメよ。サーシャもお仕事が忙しいんでしょ?」
「そ、そうだけど……」

 少し前から、魔物の活動が活発になっているらしい。
 街の近くでも大型の魔物が増えていて、冒険者も大忙しだと聞く。
 加えて治療薬作成用の素材集めも任されているから、サーシャも最近は忙しそうにしていた。

「わたしも……ごめん。今は他に手伝っていることがあって」
「大丈夫よ」

 カリナも忙しそうにしていた。
 以前から司書とは別のことをしているのは知っているけど、おそらくそっちの仕事が増えているのだろう。
 二人とも忙しいのはわかっている。
 それに最初から、二人に頼るつもりもなかった。
 なぜならこれは、私がハミルに頼まれていることだから。
 簡単に言えばただの意地。
 なんとしても私の力で役目を全うして、周囲からも認められる存在になりたい。
 そんな一心で毎日の疲れを吹き飛ばしていた。

 翌日からもお務めは続く。
 増え続ける感染者に対応するため、夜の九時まで大聖堂に残ることが増えた。
 朝も普段より早く始める。
 
 仕方がないから。
 頑張らなきゃ。
 いつか終わると信じて。

 いつかっていつ?

 どれだけ気を張っていても、疲労がなくなることはない。
 祈る、癒す、祈る、癒すの繰り返し。
 感染していなくても、不安だからという人も増えていた。
 良くない感情が芽生え始める。
 中途半端に期待して、私に縋ろうとしないでほしい。
 聖女らしからぬ思考が芽生え始めてようやく、疲労が限界に達する前だと気づく。

 それでも、私の役目は終わらない。
 私は裏庭で一人、夜空の星々を見上げながらつぶやく。

「会いたいなぁ」

 一瞬良い、一目見るだけでも構わない。
 彼に……ハミルに会いたい。
 そうすれば頑張れる気がするから。
 だけど、今の時間は夜の九時半。
 彼も王城で忙しく働いているのだろう。
 期待をするだけ無駄だとわかっていても、心は求めてしまうからどうしようもない。

「ハミル……」
「毎度思うけど、お互い考えていることが一緒だな」

 夜空から視線を下ろす。
 トンと飛び降り華麗に着地した彼は、ニコリと微笑んでこちらを見ている。

「こんばんは、アイラ」
「ハミル!」

 彼を見た瞬間、私の中の感情がはじけ飛んだ気がする。
 気付けば私は――

「うおっと!」

 彼の胸に飛び込んでいた。
 驚きながらも私を受け止めてくれたハミルは、そっと肩に手を回す。

「どうしたんだよ?」
「会いたかった……ハミル」
「ああ、そういうことか」

 何て素敵なタイミングなのだろう。
 やっぱり彼は私にとっての王子様だ。
 本当に会いたいと思った時、いつだって彼は私の前に現れる。
 想いが届いたのだと錯覚するほど、それは奇跡を通り越していた。

「俺も会いたかったよ。アイラ」
「うん」

 ハミルが私をぎゅっと抱きしめる。
 そのぬくもりに包まれているだけで、今までの疲れが癒されていく。
 聖女の祈りにも匹敵する彼の抱擁は、私にとっての薬だ。

 しばらく抱きしめ合って、落ち着きを取り戻した私は腰をおろす。
 隣にハミルが座って、私に言う。

「大変みたいだな」
「うん。そっちは?」
「こっちも大変だよ。城内でも何人か感染してしまって、仕事が増える一方だ」
「そうなんだね……」

 私ばかりが辛いわけじゃない。
 わかっていたつもりでも、自分ばかり考えてしまっていた。
 反省しなくてはいけない。

「だから俺も、お前に会いたいと思っていたんだ。一瞬でも会えれば、疲れも吹っ飛んでくれるだろ」
「私も同じ」
「そうか。じゃあどうだ? 疲れは多少癒えたか?」
「うん。ハミルは?」
「俺も、癒されたよ」

 手と手が触れ合う。
 この瞬間のために生きている。
 そう思えるくらい、私はこの人のことが好きなんだ。
 思えば出会ったその日から、私は彼に惹かれていたんだと思う。

「研究班が大方解析を終えている。あと数日で薬が完成しそうなんだ」
「本当?」
「ああ、だから……もう少し頑張れるか?」
「ええ、もちろん」

 こうして会いに来てくれたお陰で、やる気は十分に溜まった。
 終わりが見えるのなら尚更だ。
 あと少し、もう少しだけ頑張ろう。
 
 そして――
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