パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ

文字の大きさ
9 / 30
第一章

9.ダンジョン

しおりを挟む
 ダンジョン。
 遥か昔、偉大な魔術師たちが作った宝物庫であり、終生を共にした安楽の地。
 彼らは自らが残した功績や成果物を他人から隠すため、侵入者を迷わせ阻む巨大建造物を作り上げた。
 というのが、現代に伝わるダンジョンのお話。
 実際のところは未だ解明されていない。
 一説には人ではない者が作ったものだとか、神から逃げるために悪魔が作り上げた隠れ家だとか。
 様々な説が提唱されている。

「まさかこんな近くにダンジョンがあったなんて」

 おそらく未発見のダンジョンだ。
 この森は街から非常に近く、多くの冒険者にとって絶好の狩場となっている。
 しかし近年、ここでダンジョンが発見されたという報告はない。
 
「おそらく周囲の木々のせいだと思います」
「木々?」
「この木々からわずかに魔力を感じます。近づく者を遠ざける天然の結界になっていますね」
「異様な雰囲気はそのせいか……」

 だから誰にも見つからなかったのか。
 近づきたくても無意識に身体が避けてしまうから。
 俺たちが見つけられたのは、ここに彼女の妹……デルタがいるから。
 その気配を辿ったおかげか。

「だけではありません。こういう結界は、魔力が多い者には効果が薄いんです。私はもとより、ラスト様だから平然と入って来られたんですよ?」
「そう……なのか」

 俺だから、そう言われるのは悪い気分じゃなかった。
 自分が特別な存在だと言って貰えている気がして。
 優越感というのだろう。
 今まで感じられなかったからか、どこか面映ゆい。

 俺は大きく深呼吸をする。

「ふぅ……行こうか」
「はい」

 こうして俺たちはダンジョンの階段を下りていく。
 前のパーティーにいる時に、数回だがダンジョン攻略に参加した。
 その時はすでに発見済みのダンジョンで、先人たちが作った地図のおかげで迷わなかったけど……。

「ひ、広いな」

 階段を降りてすぐ、まっすぐ続く廊下あった。
 どこまで続いているのか肉眼ではわからない。
 軽く手を叩いてみたら、綺麗に音が通り抜けていくのがわかった。
 おそらくかなり先まで続いている。

「迷わないようにしないと」
「その心配は必要ありません。私は一度来た道を記憶できます。行くべき方向も、デルタの気配を追えばいいですから」
「そうなのか。じゃあ、道案内は任せていいか?」
「はい! 私にお任せください」

 頼りになる相棒のおかげで、幾分気持ちが楽になった。
 未発見のダンジョンほど恐ろしい場所はない。
 本来なら、大規模な調査隊を編成して慎重に探索するのだが……。
 今回はその必要もなさそうだ。

「こっちです」

 迷路になっている道も、彼女の案内があれば迷わない。
 ダンジョンの中はとても静かだった。
 普通は侵入者を阻むため、様々なトラップや障害物が用意されているものだけど……。

「ここにデルタがいるってことは、このダンジョンは博士が作ったものなのか?」
「それは……わかりません」

 歯切れの悪い返事だった。
 彼女は申し訳なさそうに語る。

「実は、どうして自分が眠っていたのか……前後の記憶がないのです」
「そうだったのか?」
「はい。ですからなぜ彼女がここにいるのか、私がラスト様のおじい様から送られてきた理由もわかりません。申し訳ありません」
「謝らなくていいよ。むしろ平気? そういうのがわからないって不安になるんじゃないか?」

 自分のことがわからないなんて、俺だったら不安で夜も眠れない。
 だけど彼女はニコリと微笑み、首を振る。

「こうして目覚めることができた。妹とも会える。何の不安もありません」
「……そうか。強いな、アルファは」
「そんなことありません。ただ、私が不安に思うことがあるとすれば……ラスト様に捨てられてしまわないか、だけです」
「それは絶対にないから安心してくれ」
「はい。だから不安はありません」

 彼女は花が咲いたように笑う。
 この笑顔を守りたいと、俺はひそかに思う。

「止まってください! 何か来ます」
「なんだ?」

 ギギギギと何かが蠢く音が聞こえてくる。
 俺たちは身構える。
 そして――

 正面から一体のゴーレムが出現する。

「先手をとります」

 アルファがかける。
 ゴーレムの動きは緩慢だ。
 彼女の速さなら容易に不意をつける。
 瞬く間に接近し、腹部に向けて打撃を加える。
 トロールの腹を抉った一撃を喰らったんだ。
 これで――

「なっ……」

 破壊できない?
 彼女の打撃が通じないのか?

「アルファ!」

 ゴーレムが反撃する。
 見た目のわりに素早い動きで彼女を腕で叩きつける。
 一瞬だけ回避が遅れた彼女は、衝撃で俺の元まで転がる。

「っ……」
「大丈夫か?」
「はい」

 そう言いつつも怪我をしている。
 額からは血が流れていた。

「頭を打ったのか」
「大丈夫です。私たちドールには自動再生が備わっています。魔力が枯渇しない限り傷は治ります」

 話している間にも血は止まっていた。
 どうやら軽い傷なら一瞬で治癒してしまうらしい。
 一先ず安心だが、問題は目の前にある。

「君の攻撃が通じなかったのか」
「おそらく打撃の衝撃を吸収するようです」
「打撃……だったら!」

 俺は刀を抜く。
 意図を察してくれたのか、先にアルファが飛び出し、ゴーレムの注意を引いてくれた。

「今です!」
「おお!」

 その隙に背後に周り、刀で両断する。
 予想通り、打撃は吸収できても刀の鋭い一撃は対応できなかったようだ。
 ゴーレムの核ごと両断したからもう動くことはない。

「お見事でした。ラスト様」
「アルファもありがとう。注意を引いてくれて」
「いえ」

 俺は刀を鞘に納める。
 その様子をアルファはじっと見ていた。

「ラスト様のその剣、刀というものですよね?」
「うん。爺ちゃんが昔使ってたものを貰ったんだ。昔から見様見真似で練習してたんだけど、中々上手くなれなくてね」
「そうですか? 今は凄く様になっていますよ?」
「ありがとう。それもたぶん、アルファと出会えたおかげだ」

 俺がそういうと、アルファは嬉しそうに微笑んだ。
 その直後、再び異音がする。

「またゴーレムか。しかも今度は複数」
「この魔力……もしかして」
「アルファ?」
「いえ、今は突破しましょう!」

 迫るゴーレムを前に、俺たちは武器を構える。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

妹が聖女に選ばれました。姉が闇魔法使いだと周囲に知られない方が良いと思って家を出たのに、何故か王子様が追いかけて来ます。

向原 行人
ファンタジー
私、アルマには二つ下の可愛い妹がいます。 幼い頃から要領の良い妹は聖女に選ばれ、王子様と婚約したので……私は遠く離れた地で、大好きな魔法の研究に専念したいと思います。 最近は異空間へ自由に物を出し入れしたり、部分的に時間を戻したり出来るようになったんです! 勿論、この魔法の効果は街の皆さんにも活用を……いえ、無限に収納出来るので、安い時に小麦を買っていただけで、先見の明とかはありませんし、怪我をされた箇所の時間を戻しただけなので、治癒魔法とは違います。 だから私は聖女ではなくて、妹が……って、どうして王子様がこの地に来ているんですかっ!? ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした

有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

【完結】勇者PTから追放された空手家の俺、可愛い弟子たちと空手無双する。俺が抜けたあとの勇者たちが暴走? じゃあ、最後に俺が息の根をとめる

岡崎 剛柔
ファンタジー
「ケンシン、てめえは今日限りでクビだ! このパーティーから出て行け!」  ある日、サポーターのケンシンは勇者のキースにそう言われて勇者パーティーをクビになってしまう。  そんなケンシンをクビにした理由は魔力が0の魔抜けだったことと、パーティーに何の恩恵も与えない意味不明なスキル持ちだったこと。  そしてケンシンが戦闘をしない空手家で無能だったからという理由だった。  ケンシンは理不尽だと思いながらも、勇者パーティーになってから人格が変わってしまったメンバーのことを哀れに思い、余計な言い訳をせずに大人しく追放された。  しかし、勇者であるキースたちは知らなかった。  自分たちがSランクの冒険者となり、国王から勇者パーティーとして認定された裏には、人知れずメンバーたちのために尽力していたケンシンの努力があったことに。  それだけではなく、実は縁の下の力持ち的存在だったケンシンを強引に追放したことで、キースたち勇者パーティーはこれまで味わったことのない屈辱と挫折、そして没落どころか究極の破滅にいたる。  一方のケンシンは勇者パーティーから追放されたことで自由の身になり、国の歴史を変えるほどの戦いで真の実力を発揮することにより英雄として成り上がっていく。

処理中です...