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第一章

10.マスターの資格

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 次々に迫るゴーレム。
 打撃に対する耐性を持つ敵にアルファは苦戦する。
 と、いうわけでもない。
 ゴーレムは衝撃を吸収していることがわかった。
 ならば吸収限界がある。
 限界まで打撃を加え続ければ、いずれ吸収しきれずに――

「はっ!」

 破壊される。
 単純だが、恐ろしい戦法。
 彼女の打撃力があればこそなせる業だと言える。
 そんな頼れる相棒に背中を任せ、俺は刀でゴーレムを斬っていく。
 斬撃への耐性はないらしく、俺は苦戦しなかった。
 攻撃もトロールやグラスホッパーに比べれば緩慢で容易に回避できる。

「次から次に来るな」
「目的地に近づいている証拠です。もうすぐですよ。気配がかなり強くなりました」

 戦いながら先を見据えるアルファに視線を合わせる。
 入り組んでいた道が一本に変わり、迷路の終点を思わせる。
 一体、また一体と倒しながら進んでいく。

 そして遂に――

 俺たちはたどり着いた。
 ダンジョンの最深部。
 地下とは思えない広々とした空間に。

「ここが……ダンジョンのゴール?」
「はい。ここに……あれは?」

 アルファが先に気付き、俺も後からその存在に気付く。
 何もない殺風景な部屋にポツリと、一体の鎧騎士が座っている。
 剣を携え堂々と。
 その鎧は、古くに作られたと思えないほど綺麗で、どこか新しさすら感じる。

「この魔力……やっぱり……」
「アルファ?」
「ラスト様、あれは――」
「――よくここまでたどり着いたな!」

 アルファの言葉を遮って、甲高い声が木霊する。
 室内だからよく響く。
 大きすぎて耳を抑えないと鼓膜がじりっと痺れそうだった。

「女の子の声? もしかしてあの鎧騎士が妹なのか?」

 思っていた見た目と全然違うぞ。
 
「いいえ違います。あれはデルタではありません。ただ……今の声とあの鎧に流れる魔力はデルタのものです」
「鎧に流れる魔力? どういうことだ?」
「あ、誰かと思ったらやっぱり姉上じゃん! 目が覚めたんだな!」
「やっぱりデルタなのね」

 アルファは鎧騎士に語り掛ける。
 動きはしないが返事はある。

「そうだぜ! ひっさしぶりだな~ 千年ぶり?」
「そうね。いい加減姿を見せてくれない?」
「へっへ~ 悪いけどそれはできないぜ。オレと会いたいなら、目の前のこいつを倒してからにするんだな!」

 その一言の直後、鎧騎士の甲冑に光が宿る。
 ギシギシときしむ音を出しながら、鎧騎士が動き出す。

「動いた!?」
「やっぱり、このダンジョンに流れる魔力を利用しているのね」
「さっすが姉上! その通りだぜ。なんか知らないけど、ちょうどいい所に魔力があったからな! 少し拝借させてもらってるんだよ。つっても目覚めるほどの量じゃねーし、こうやってダンジョンの設備を動かすくらいしかできねーけど」

 彼女は鎧騎士を通して自慢げに語っている。
 ダンジョンは魔術師の遺産だ。
 魔力で動く設備が備わっていて、絶えず魔力が施設内を循環している。
 彼女はその魔力を吸収し利用することで、意識だけ覚醒した。

「で、合ってるのか?」
「ああ、そうだぜ。姉上と一緒にいるってことは、あんたが姉上を目覚めさせたマスターだな」
「そうよ。この方が私のマスター、ラスト様よ。あなたのことも起こしに来たわ」
「そういうことか。だったら尚更、こいつを倒してからにしてもらおうか!」

 鎧騎士が剣を抜く。
 いきなり戦闘態勢に入って、アルファが俺を守るために前へ出る。

「どういうつもりなの? デルタ」
「試すんだよ。そいつがオレたちのマスターに相応しいやつか! オレは弱い奴に従う気はないからな!」
「何考えてるの? この人は私たちのマスターなのよ!」
「まだオレのマスターじゃないぜ! 姉上こそ、邪魔するなら容赦しないからな!」

 アルファの目つきが鋭くなる。
 俺には見せたことがない怒りの表情だ。

「わがまま言ってると怒るわよ」
「べ、別に怒ったって怖くないからな!」
 
 思いっきりビビっている声だったが……。
 姉妹で力関係が明確にあるのか?
 とにかく姉妹喧嘩はよくないな。

「待って、アルファ。ここは俺に任せてほしい」
「ラスト様?」
「彼女の言っていることも一理あるよ。マスターとか、まだよくわからないけど……俺も認めてもらえるほうが嬉しいから」
「――わかりました。ラスト様がそうおっしゃるなら」

 アルファの表情が柔らかくなる。
 それを見てホッとしたのか、鎧騎士から安堵の声が聞こえた気がした。

「というわけだから、俺が戦うよ」
「いいぜ。そうこなくっちゃな」
「デルタ! わかってると思うけど、あとでお尻ペンペンだからね?」
「うっ……ご、ごめんなさい」

 戦い前からしょんぼりしているが……大丈夫か?
 始まる前からちょっと心配になる。

「えっと、戦うんだよね?」
「あ、当たり前だろ! あんたの力を見せてもらうからな!」

 鎧騎士が切っ先を俺に向ける。
 敵意はない、殺意もない。
 だが、その佇まいから強者の貫録を感じる。

「お気をつけください。デルタは武具の扱いに関して、おそらく地上でもトップの使い手です」
「……わかった」

 そんな相手に勝てるのか?
 自信はないけど、やるだけやってみよう。
 せめて無様な姿を見せないように。

「そんじゃ、行くぜ!」
「ああ!」

 刀と剣がぶつかり合う。
 金属音が鳴り響く。
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