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第一章

13.ダンジョン報酬

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「マスターって体温高い? なんかあったかいな」
「そ、そうかな?」
「こらデルタ。ラスト様が困っているでしょう? いつまでくっついているの?」
「えぇ~ 別に困ってないよなぁ?」

 横から腕に抱き着いているデルタは、楽しそうな笑顔で尋ねてくる。
 俺とくっつくのがそんなの楽しいのか。
 そういう顔をされたら嫌とは言えないな。

「そうだね。困っては……ないかな?」
「ほらな。はぁー千年ぶりの人肌……落ち着くぜ」
「むぅー」

 アルファがムスッとした表情を見せている。
 あんな表情もできたのか。

「なんで姉上がカリカリしてんだよ。あ、さてはマスターを一人占めできなくなって拗ねてるんだろ!」
「な、そういうわけじゃ……」
「わっかりやすいな~ 姉上って意外と寂しがり屋だからな~ マスターも気を付けたほうがいいぜ? ちゃんとかまってあげないと拗ねちゃうからな」
「そうなのか。寂しがり屋……」

 じっとアルファと見る。
 視線が合うと、彼女は恥ずかしかったのか顔を真っ赤にした。

「デルタァ……やっぱりお仕置きが必要みたいね」
「なっ! 助けてマスター!」

 彼女はすぐに俺の後ろに隠れた。
 腰をガシっと掴み、俺のお背中からひょこっと顔を覗かせる。

「ラスト様に頼るなんて卑怯ですよ!」
「へっへーんだ! マスターバリアを突破してみろー!」
「この……次はラスト様が止めてもお尻ペンペンしますから。絶対にします」
「う、ほ、本気の目だ……」

 アルファの怒りの視線を感じ取ってデルタが震える。
 次は言葉通り止めても無駄そうな雰囲気だ。

「マ、マスター……信じてるからな?」
「善処するよ」

 無駄だと思うけど。
 そもそも煽ったのはデルタだし、今回は自業自得だな。

「さて、ここでやることは思ったし、帰ろうか」
「はい」
「おう! あ、そうだ。これどうする?」

 デルタが指をさしたのは、部屋に保管されていた宝箱。
 忘れていたが、ここはダンジョンの宝物庫。
 攻略者である俺たちには、ここの宝を持ち出す権利がある。
 一応何があるのか手分けして確認してみた。

「ほとんど金塊だ」
「高価そうな装飾品もありますね。魔導具とかはなさそうです」
「こっちもキンキラばっかだな」

 箱の中身の大半がお金になる物ばかりだった。
 ダンジョンと言えば特殊な道具が眠っているものだと思っていた俺は、ちょっぴりがっかりする。
 お金も十分大切だけどね。

「ねぇデルタ、どうして君はここにいたの?」
「ん? それがよく覚えてないんだよな~ 気がついたらここにいたっていうか。眠る前の記憶がどうにも抜けてるみたいでさ」

 デルタは頭に手を当てながらうーんと考えている。
 思い出せないポーズも可愛らしい。
 俺はアルファと顔をあわせる。

「私と同じみたいですね」
「そうだね」

 二人とも、眠りにつく前の記憶が曖昧だ。
 どこか不自然さを感じつつも、今はこれ以上わからない。
 そのうち思い出すことに期待しよう。

「そんでどうする? 全部持って帰る?」
「全部は……さすがに厳しいんじゃないかな」

 箱の数は全部で十二。
 一つだけでも相当な大きさと量だ。
 一人一箱持ったとしても、持ち出せるのは精々三箱まで。
 とてもじゃないがこの人数で全部は……。

「できますよ」

 と、悩む俺にアルファが言った。

「私ではなく、デルタの能力なら」
「デルタの?」
「おう。オレの能力の一つに、ものをたくさん収納する力があるんだ。これくらいの量なら全然持っていけるぜ」
「そんな便利な力があるのか」

 デルタはこくりと頷く。
 戦闘用とは別の能力らしく、メインは他にあるそうだ。
 そっちの能力は使う機会までお楽しみだという。

「で、どうする?」
「お願いするよ。せっかく手に入れた宝だし、持ち帰って換金しよう」
「よっし、んじゃ吸い込むぜ」
「吸い込む?」

 デルタは前かがみになり、身体を丸める。
 口から息を吐き出してるように見える。

「吸い込むってまさか……」
「いっくぞぉ!」

 そこから彼女は思いっきり息を吸う。
 予想通り吸い込むとはそういう意味だったらしい。
 恐ろしい吸引力で風が生まれ、次々と彼女の口に吸いこまれていく。
 宝箱は彼女の口元に近づくとぎゅっと縮小され、消えていった。

「ふぅ、吸った吸った」

 デルタはポンポンとお腹を叩く。

「お腹に収納したのか?」
「ん? そういうわけじゃないけど、物は別空間に入れたんだ。口で吸いこむのが入り口なんだよ」
「な、なるほど……」

 びっくり人間……いや人形だからできることか。
 ただただ驚かされたよ。

「そんじゃさっさと帰ろうぜ! 姉上帰り道おしえてよ!」
「まさか自分で覚えてないの? ここのダンジョンを間借りしていたのに?」
「細かいこと覚えるのは苦手なんだよ。姉上は知ってるだろ?」
「……そうだったわね」

 いろいとあったが、デルタと一緒に歩くアルファは嬉しそうだ。
 その横顔を見られて心から安堵する。
 彼女への恩返しを、一つだけできたんだ。

  ◇◇◇

 ダンジョンから帰還した俺たちは、その足で冒険者ギルドに向かった。
 元々受けていたトロール討伐のクエスト達成報告に加えて、ダンジョンの発見と攻略を伝える。

「だ、ダンジョン!? 本当なんですか?」
「ええ。森の奥にありました」
「ダンジョンだって?」
「おいおいまじか」

 受付嬢が大きな声を出すから周りにも聞こえたらしい。
 周囲からヒソヒソ声が聞こえる。

「あれってさ、魔導パーティーのお荷物だったやつだろ?」
「そんなやつがダンジョン発見して攻略したって?」
「さすがに嘘だろ」
「なんだここ、感じ悪いな」
「あははは……」

 デルタは知らないから仕方がない。
 ここでの俺の扱いは、あまりいいものじゃないからな。
 信じられないという気持ちもわかる。
 だけど。

「換金をお願いできますか? デルタ、頼む」
「わかった。スゥー」

 収納した物を出す方法は入れる時と逆。
 吐き出すだけだ。
 彼女の口から風と共に宝箱が出される。

「こ、これは……」
「ダンジョンの宝です」
「しょ、少々お待ちください! ギルドマスターに報告してきますので!」

 受付嬢は慌てて奥へと走っていく。
 周りの人たちもざわつき始めた。
 事実だと知って、俺を見る目が変わっていく。

 この日をきっかけに、俺と二人の名前が冒険者の間で囁かれるようになった。
 パーティのお荷物だった男が、美少女二人と快進撃を遂げている、と。
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