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第一章

17.鉄の街

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 街を出てひたすら北へ進む。
 雪降る山脈を超えた先に温かさを期待したが、どうやら無駄だったみたいだ。

「寒い……」

 山を越えてからいっそう寒さが厳しくなった。
 今も風と雪が止まない。
 寒さと積雪の影響で、馬車の速度もゆっくりになっている。

「大丈夫ですか? ラスト様」
「あーうん。君たちこそ平気なの? 俺よりよっぽど薄着だけど。特にデルタは」

 彼女は馬車の操縦をしているから、外で手綱を引いている。
 寒さを直接受ける場所だ。
 心配になって様子を見たが、本人はけろっとしている。

「オレなら平気だぜ!」
「私たちドールは環境の影響を極力受けないように設計されていますので。寒さにも暑さにも強いんです」
「そうなんだ……」

 便利な身体だな。
 寒くてブルブル震えている今は、人ではない身体がうらやましい。

「そんなに寒いならオレの服着るか? あんまないけど」
「い、いやそれはいい」
「遠慮するなって。オレは服なんてなくても平気だからさ」
「全然平気じゃない。そんなことされたら俺が困る」

 俺が目のやり場に。

「そうか? じゃあもうしばらく我慢してくれよな! 結構近づいてきてるぜ!」
「そうなのか?」

 俺は隣にいるアルファにも視線で確認する。
 彼女はこくりとうなずく。

「シータの気配が強くなっています」
「この先にいるってことで間違いないか」
「もっと離れてる感じしたんだけどな~ 結構近かったのか?」
「そうね。考えられるのは、向こうも移動しているのか……」

 シータが顎に手を当て考えている。
 俺はカバンから地図を取り出し、広げながら彼女に問う。

「シータはすでに目覚めてるってことか?」
「いえ、それはないと思います。もし目覚めていればわかりますから。眠った状態で、誰かが持ち歩いているのかなと」
「そういうことか。って、それって大丈夫なのか? 彼女の身体を悪用されたりとか」
「それも心配いらねーよ! オレたちの身体には自動迎撃機能がついてるからな」

 自動迎撃機能。
 平たく言えば、眠っている間に攻撃されると、勝手に反撃してくれる能力らしい。
 彼女たちは眠っている状態でも、最低限の魔力を保有している。
 その魔力を感じることで、お互いの位置がわかる。
 完全な覚醒はできないが、残った魔力を消費すれば一時的に目覚めることができるそうだ。

「つまり二人が気配を感じれるってことは、まだ危害を加えられてたわけじゃないってことか」
「はい。もとより私たちの肉体は特殊ですから、知らない人が好きにいじったりはできません」
「あるとしちゃ! オレらの身体でエロいことされるくらいだな! ま、そんな物好きいねーだろ!」

 デルタは暢気に笑っているが、俺としてはそこが一番心配なんだよ……。
 二人の容姿を見た後なら、シータという最後の妹も綺麗な見た目をしているに違いない。
 邪な男が手に入れたら……と思うと、心配だ。

「早く見つけて起こさないとな」

 誰かが持ち出しているなら、その目的も気になる。
 だが、逆に人の手で運ばれているなら、どこにいるかの見当も付けられる。
 俺は広げた地図に視線を向ける。

「この先にあるのは……これか。イージス」
「なんですか?」
「街の名前だよ。街そのものが要塞みたいになってるって噂の……別名、鉄の街」
「なんか名前だけ聞くと窮屈そうな街だな~」

 実際どういうところなのか俺も知らない。
 俺でも行ったことがない場所だ。
 ただ、事前に知っている情報通りなら、あまり目立つような行動はしないほうがいい。
 あそこは帝国の影響が強い街だから。

 しばらく進み、整備された道に出る。
 ようやく落ち着いた雰囲気の風景になって、白い景色の中に似合わない灰色の壁が見えた。

「お! なんだあれ」
「あれがイージスだよ」

 鉄の街イージス。
 周囲を高い鉄の壁に覆われた街。
 入り口は東西に一か所ずつある門だけだ。
 受付では検問がある。
 荷物の確認と身分証の提示。
 俺たちの場合は冒険者証を見せればいい。

「よし。通っていいぞ」

 衛兵から許可をもらい、俺たちの馬車は街へと入る。
 出発前にギルドに頼んで二人分の証明書を発行してもらって正解だった。
 これがないと怪しまれて街に入れない。

「ここがイージス……なんかオレらの街と全然違うな」
「そうね。建物もみんな鉄でできてる? それにちょっと温かい気がするわ」
「寒さ対策がしっかりしてるからね」

 街の中は快適だ。
 建物が鉄でできているのも、熱を逃がさないため。
 街の中が温かいのは、いたるところに温風を発生させる施設があるから。

「見ろよマスター! でっかい煙突があるぞ」
「焼却炉の煙突だね。あそこでいろんなものを燃やして、そこで発生した熱を街に回してる。だから温かいんだ」

 街の中心には鉄を加工する工場があるそうだ。
 だからか街全体がちょっぴり鉄臭い。

「アルファ、デルタ」
「はい。かなり近いです」
「この街でドンピシャだな!」
「よし……」
 
 この街のどこかに二人の三女、シータがいる。
 もう少しで、アルファの願いを叶えてあげられるぞ。
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