パーティーの役立たずとして追放された魔力タンク、世界でただ一人の自動人形『ドール』使いになる

日之影ソラ

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第一章

18.貴族たちの集会

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 俺たちは馬車を預けて街を歩く。
 二人の完治能力を頼りに。

「さっきから騎士がウロウロいるな」
「あんまりジロジロ見ないほうがいいよ。不審者だと思われる」
「そん時は正々堂々剣で勝負すればいいじゃん」
「駄目だよ」

 デルタは結構好戦的だな。

「なんで? オレのほうが強いぞ」
「そうじゃなくて、争うことが問題なんだ。あれは帝国の騎士だから、もめると国に目を付けられる」
「国家権力ってやつー? めんどくさいなぁ」
「そうだね。そういうしがらみが嫌で冒険者になる人も大勢いるよ」

 国に頼り、国に守られるということは、裏を返せばずっと監視されているということでもある。
 帝国の意向に反する行為は罪とされ罰せられるし、そこには窮屈な事由があるだけだ。
 もちろん、まじめに生活していれば恩恵も得られるし、大抵の人たちは大丈夫なんだけど……。

「冒険者みたいに好き勝手やりたい人種は、国に従いたくないって思うことが多いんだ」
「マスターもそうなの?」
「うーん、俺はどっちでもないかな? 冒険者になったのも爺ちゃんへの憧れだし、帝国を疎ましくも思ってないから」
「興味なしってことか。なんかそれカッケーな!」

 そうか?
 格好いいのか……?
 よくわからないけど褒められているなら素直に喜んでおこう。

「ラスト様、デルタ、そろそろ集中しましょう」
「近いのか?」
「はい。おそらくシータは――」

 先頭を歩いていたアルファが足を止める。
 目の前に立っているのは、特に背の高い建物。
 五階建てだろうか?
 それに横幅も相当な広さだ。
 明らかに他の建物と違う。

「あそこにいるのか」
「はい」
「だな。ビンビン感じるぜ!」

 じゃあさっそく会いに行こう。
 と言いたいところだけど、あいにくそう簡単にはいかない。
 目の前の建物が他と違う理由はもう一つある。

「騎士が警備してる……」

 建物の周囲、入り口に騎士が配置されている。
 民間の建物だったら守る必要がない。
 つまり、あそこは民家や大衆の施設ではなくて、国か貴族が所有する建物ということになる。
 
「面倒だな。これに貴族か国も絡んでいるのか?」

 だったら下手な真似できないぞ。
 無理やり回収に乗り込むことはできるが、その場合は指名手配確定だ。
 少なくともこの国では、堂々と街中を歩けなくなる。
 冒険者も廃業だ。
 できるだけ穏便に、波風立てずに解決しないと。

「とりあえず一回入ってみればいいんじゃない? 案外入れてくれるかもしれねーし」
「……それもそうだな。よし」

 デルタの言う通り、まずは行って確かめよう。
 俺たちは建物に近づいた。
 正面の入り口に向かう。
 すると、俺たちを見つけた騎士がすぐに駆け寄ってくる。

「止まりなさい。ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
「そうなんですね。すみません、この街は初めてで勝手がわからなくて……ここは何の建物なんですか?」
「すまないがそれも教えられない。観光したいなら商店街のほうへ行きなさい」
「わかりました」

 俺はアルファとデルタに耳打ちをする。
 
「一旦離れるぞ」
「はい」
「おう」

 俺たちは帰るフリをして、近くの路地に身を潜める。
 
「怪しさぷんぷんだったな」
「そうね。どうしますか? ラスト様」
「……素直に入れてもらうのは無理だよね」
 
 あの感じ……知られるのもまずいことをしているんじゃないか?
 だとしたら正規の方法で入れてもらうことは難しい。
 関係者っていうのも、どこの誰で何の関係者かわからないし。

「忍び込むしかない……か」
「――あら? 面白い話をしているのね」
「「「――!?」」」
 
 全員が一斉に背後を向く。
 いつからいたのか。
 そこには見知らぬ銀髪の女性が立っていた。
 見るからに高そうな服を着て、どこかの貴族だろうか。

 聞かれた?
 今の会話を?
 一旦逃げるか、それとも――

「心配しなくても、貴方たちをどうこうする気はないわ」
「……どうして?」
「興味があるからよ。貴方たちが何をしているのか。面白そうだもの」

 そう言って彼女は笑みを浮かべる。
 一体どこまでが本気なのか。
 少なくとも現状、俺たちに害をなすつもりはなさそうだ。
 彼女の目的はわからない。
 だが今は……。

「……あなたは、あの建物の関係者なのか?」
「ええ。正確には、あそこで開催されるオークションに招待されたのよ」
「オークション?」
「あら? 知らないでここへ来たの? てっきり商品を盗みにきた悪い人たちかと思ったのに」

 軽い口調で彼女は言うが、そう思うならどうして話しかけてきたのか。
 つくづく行動の意図がわからない。
 発言も、どこかふわふわしていてつかみどころがない。

「盗人じゃねーよ! オレらは妹を返しにもらいに来たんだ」
「デルタ……」
「妹? もしかして、オークションに出品されるかしら?」
「その可能性が高いんだ」

 俺がそういうと、彼女は難しい顔をする。

「それは信じがたいわね。確かにあれは非公開のオークション、盗品なんかも含まれてるって噂はあるわ。けど、人身売買はこの国で最も重い罪になる。いくら隠れてやっていることでも、大勢が見ている前で重罪は侵さないわ」

 彼女の言うことはもっともだった。
 俺も、この国が人身売買を固く禁じていることは知っている。
 ただ、今の彼女は眠っている。
 眠っている状態なら、人ではなく人形として扱われる。
 問題は、そこをどう説明するかだが……。

 さすがに言えないな。
 彼女たちが千年以上前に作られたドールだなんて。
 
「いいわ。協力してあげる」
「え?」

 思わぬ返答に驚く。
 彼女はにこりと笑みを浮かべ、俺に言う。

「信じられないけど、その話が真実なら大事件よ。法を犯す者を私たちは許さない。だから手を貸してあげる」

 私たち……?

「私の付き人としてオークションに参加しなさい。ただし、一人だけよ。三人もつれていくことはできないわ」

 彼女からの提案。
 依然、彼女の本心は見えない。
 だけどこれはチャンスだ。
 帝国を敵に回さず、シータを助けられるかもしれない。
 だったら答えは一つだろう。

「わかった。協力してほしい」
「いい返事ね」
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