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第二章

21.手に入れたい場所

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「おいラスト! いつまで突っ立てるんだ!」
「ご、ごめん。すぐに行くから」

 怒鳴られ、罵られ。
 それでも彼らの後を付いていったのは、どうしてだろうか。
 怖かったからか?
 見捨てられることが。
 一人になってしまうことが。
 だとしたら俺は、どうしようもない臆病者だ。
 今に疑問を感じながら、おかしいと思いながら変えようとはしなかった。
 変わる努力もできていなかった。

 時折、まだ夢に見る。
 あの頃の思い出を。
 決して華やかではなかった日々を。

 後悔があるからか?
 違う。
 これは戒めだ。
 もう二度とあそこには戻らないための。
 そして、彼らはあんな風にしてしまったのは、俺にも原因があったから。
 ごめんなさい。
 俺たちは互いに気づけなかった。
 間違ってしまった。
 だから、これからは別々の道を歩んでいこう。
 大丈夫、彼らにはそれぞれ俺にはない才能がある。
 俺も、もう大丈夫。
 素敵な出会いがあったから。
 彼女たちと一緒なら、俺はどこまでもいける。
 やれることは一つずつ増えていく。

 ああ、そろそろ目覚める時間だ。
 彼女たちが呼んでいる。

  ◇◇◇

「ラスト様、もう朝ですよ」
「おーい! いつまで寝てんだよマスター!」
「すぅー……」
「お前もさっさと起きろシータ! なんで一緒になって寝ようとしやがるんだ!」

 賑やかな声が聞こえる。
 誰かがカーテンを開けてくれたのだろうか。
 差し込む朝日がまぶしい。
 けど、その温かさが心地よくて、まだ眠っていたいと思ってしまう。
 意識はうつろだ。
 起きているようで、眠っている。

「全然起きないわね」
「マスターって寝起き弱いよな~ しゃーない。シータ、あれやれ」
「えぇ~ 仕方ないな~ ごめんね、お兄ちゃん」

 シータは呼吸のリズムに合わせて、俺の耳元に息を吹きかける。
 もちろん、ただの息じゃない。
 冷気を込めた冷たい息。

「氷天、ふぅー」
「ひゃう!」
「あ、起きた」
「おはようございます。ラスト様」

 冷たさと変な感覚にぞわっとして飛び起きた。
 目を開けるとベッドの横に三人がいる。
 長女アルファ、二女デルタ、三女のシータ。
 ドール三姉妹が集結している。

「も、もっと普通に起こしてくれないかな?」
「だってマスター、呼んでも全然起きなかったし」
「お兄ちゃん、面白い声でてた。ひゃうって」
「うっ……」

 次からは自分で起きよう。
 普通に恥ずかしい。

「朝食の準備ができています。着替えて一緒に食べましょう。ラスト様」
「ああ、そうするよ」

 着替え終わった俺は三人と一緒に食卓を囲む。
 テーブルに並んだ料理。
 一人でいたころは朝食なんて取らなかったし、時間の無駄だと思っていたけど。

「朝しっかり食べるのもいいことだな」
「何を当たり前こと言ってんだ?」
「朝を抜かすとその日の活力がでませんからね。しっかり食べてください」
「むしゃむしゃ、ぐーすぴー」
「おいこら寝るな」

 朝食そのものがいいっていうより、この団らんとした雰囲気が好きだ。
 一人じゃない。
 みんなで食卓を囲んでいるから、いいものだと思える。
 そんな気がする。

「これおいしいな。店の料理と変わらないくらい美味い」
「ありがとうございます」
「作ったのはオレだけどな」
「わ、私も手伝ったでしょ?」
「ほとんど見てただけだろ?」
「だ、だってデルタが一緒に作らせてくれないから……」

 そんなことしたら失敗するじゃん……。
 と、デルタが小声で呆れている。

「デルタって料理得意なんだな」
「まぁな!」

 正直意外だった。
 イメージ的にはがさつっぽくて、料理なんて全然できない感じなのに。
 反対にアルファのほうが壊滅的にできないらしい。
 前にも聞いた気がするが、彼女は不器用だった。

「得物の扱いは得意だからな。斬ったり焼いたりは余裕だぜ」
「なるほど。本当に美味しい。毎日食事が楽しみになるよ」
「へっへ~ 期待しててくれよ、マスター」
 
 嬉しそうなデルタの横で、悔しそうにむくれるアルファ。
 シータはマイペースにうとうとしている。
 姉妹は全然似ていない。
 こうして並んでみると明らかだ。
 だけど……。

「絵になるなぁ」

 なんでだろう。
 三人は一緒にいるべきだと直感的に思う。
 そうあるべき存在だと。

 朝食を済ませた俺たちは冒険者ギルドに向かった。
 いつも通りにクエストを受注し、森に入る。
 功績をあげて大抵のクエストは受注できるようになったし、資金もたくさんある。
 働かなくてもいいくらいに。
 それでも俺たちは冒険者だから、今日もクエストで魔物と戦う。

「一匹目」
「おらよっと!」

 アルファがこぶしを叩き込み、デルタが剣で両断する。
 そしてシータの魔術で逃げる魔物を追撃する。

一擲いってき

 細長い鉄の針を生成し、逃げる魔物の後頭部を突き刺した。
 三人は危なげなく魔物を倒していく。
 この程度の相手なら、俺が加勢する必要すらない。
 だから俺は、俺に向かってくる敵にのみ集中できる。

 チャキと、刀に触れ。

「スゥーッ!」

 相手の足が地面から離れた瞬間に合わせ、居合をかます。
 魔力をまとい極限まで高められた肉体。
 力の使い方にも慣れてきた。
 何もかもが順調。
 怖くなるほど、自分の成長を実感して握ったこぶしを見つめる。

「軽くなったな」

 心も、体も。
 もしも昔の俺が、今の俺を見たらどう思うかな・
 なんてことを考えながら、刀を鞘に納める。

「帰ろうか」
「はい」
「おう」
「はーい」

 これが今の俺で、新しく手に入れた居場所。
 誇らしい仲間たちとの日々だ。
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