辺境の魔術師、悟りを開き大賢者となる←【理想】/【現実】→煩悩を捨てなきゃダメなのに、毎日弟子たちが無自覚に誘惑するからそろそろ限界です……

日之影ソラ

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強欲の章

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 どうやらこれまでの来訪者とは、少し事情が違うようだ。
 非常に切迫した表情をしている。
 心に余裕がない人間の仕草も見てとれる。
 話を聞く程度ならいいだろう。
 その前に、大事なことを聞いておくとしよう。

「一つ確認します。あなたは誰ですか?」
「失礼しました。私の名前はロール・フォルトーゼ。フォルテ王国、第三王子です」
「――!」
「お、王子様!?」

 リーナが大きく反応する。
 スピカとシアンも、声に出さないだけで驚いていた。
 ただの貴族かと思っていたら、とんだ大物だ。

「わかりました。お話は聞きましょう」
「ありがとうございます!」

 適当にあしらわなくてよかった。
 さすがに俺も、王国を敵に回したくはないからな。
 ホッとしながら、俺たちは王子を部屋に案内する。

 別室に移り、テーブルを挟んで向かい合う。
 レーナがお茶を淹れ、王子に振舞う。

「ありがとうございます」
「お、お口にあえば」

 レーナも緊張している様子だ。
 無理もない。
 王子がこんな場所に訪れるなんて、誰も予想できない。
 いや、そもそも本当に王子か?

「美味しいですね」
「あ、ありがとうございます!」
「……ロール殿下、とお呼びすればよろしいですか?」
「お好きに呼んで頂いて構いません、大賢者様」
「……その大賢者と呼ぶのは止めてください。俺はまだその域に達していませんから」
「では、なんとお呼びすれば?」
「アンセルで構いません。それが俺の名前です」 

 俺もレーナが淹れてくれたお茶を飲む。
 これを飲むと落ち着くし、身体が温かくなる。
 今日もいい味だ。
 
「アンセル様、お話を聞いて頂けること、感謝いたします」
「まだ聞くだけです。受けるかは内容次第ですよ?」
「構いません。どうかお聞きください」

 ロール殿下は語り始める。
 今から二か月ほど前の出来事を。

  ◆◆◆

 王国には代々、いくつもの宝が受け継がれ、保管されている。
 かつて大賢者を含む英雄たちが挑んだ破壊の化身。
 それを封じたとされる伝説の聖剣や、そのはるか昔から伝わる秘宝まで。

 その中で唯一、保管されているのではなく、封印されていた物が存在した。
 名を、【大罪法典】。
 大賢者たちが生きた時代に生まれた一人の魔導具師によって生み出された……この世で最もおぞましき魔導具が七つ。
 魔導具の領域を超え、意思すら宿った言わば呪具。
 人間が触れれば欲が増幅され、欲に溺れ、その呪具に乗っ取られる。
 その昔、破壊の化身と共に恐れられ、大賢者たちを苦しめた曰くつきの呪具が、何者かによって盗まれてしまった。
 
 七本同時に、まったく同じタイミングで。
 まるで呪具の意思に従い、相応しい使い手たちが集まったように。

  ◆◆◆

「呪具の行方を王国で調査しました。ですが……」
「見つからなかったと?」
「いえ、所在を掴み、回収に向かいました。その結果……誰一人として無事には帰りませんでした」
「――! 返り討ちにあったのですね」

 ロール王子は小さく頷く。
 相手は一人、仮に共に行動していたとしても最大七人。
 王国側も万全を期すために準備し、魔術師を含む一万五千人を動員。
 しかし、全ての作戦は失敗に終わった。
 呪具を回収するどころか、無駄な血を多く流させた。

「このままでは被害はより広がります。ですがただの魔術師ではあれにか勝てません。【大罪法典】は欲の化身です。欲のある人間では太刀打ちできない」
「……なるほど、だから俺ですか?」
「はい! 無欲を極めた大賢者の力を受け継ぎし者! 当代の賢者様……アンセル様なら、七つの呪具に打ち勝ち、回収できると考えました。ですからどうか、お力を貸してください」
「……」

 俺は少し考える。
 事情はわかったし、切羽詰まっている理由も把握した。
 俺に白羽の矢が立ったのもわかる。
 ただ……。

「すみませんが、協力はできません」
「――! なぜですか?」
「それは王国の問題でしょう? 俺たち一族の目的は、魔術を極めることのみ。それと無関係なことには協力できません」
「……無関係? それは違います」

 ロール殿下の表情が変わる。
 少しだけ強気に、ニヤリと笑みを浮かべている。

「今、あなたは聞きましたね? これは国家機密に相当する内容です。知ればもう、無関係な他人ではありません」
「――! 初耳ですね」
「はい。お伝えしておりませんでしたから。ですがもう、聞いてしまった事実は変わりません」
「……」

 この王子……見た目によらず太々しいじゃないか。
 国家機密をであることを隠し、後でその事実を伝える。
 最初から断られることを見越していたな?
 断れないように、俺の逃げ道を塞ぐための作戦か。

「それは脅しですか?」
「そう思って頂いて結構です」
「……」
「もちろん、王国から相応の報酬は支払われます。人生を三度繰り返して、遊び続けても余るほどの大金です」
 
 え、そんなにくれるの?
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