辺境の魔術師、悟りを開き大賢者となる←【理想】/【現実】→煩悩を捨てなきゃダメなのに、毎日弟子たちが無自覚に誘惑するからそろそろ限界です……

日之影ソラ

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強欲の章

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 交渉金額が巨額過ぎて、内心ビックリしてしまった。
 しかし俺も賢者の意思を受け継ぐ者。
 お金なんかで靡いたりはしないのだ。

 俺とロール殿下は視線を合わせる。
 お互いに視線をそらさない。
 王子からも固い決意を感じる。
 これは話を聞いてしまった時点で俺の負け……。

「――! ロール殿下、ここへはお一人で?」
「え? はい。一人ですが」
「そうですか。なら、今日は特に来客が多いですね」
「――まさか!」

 直後、部屋が破壊される。
 壁と天井が砕け散り、無造作になった部屋に、一人の男が踏み入る。
 しゃれた格好に長い髪。
 そして右手に握っているのは……。

「鞭?」

 なんだあの鞭は。
 ただの鞭じゃないのは明白だ。
 膨大の魔力が宿っている。
 加えて異質、これまで感じたことのないような冷たくて濃い魔力だ。
 話を聞いたばかりだから確信する。
 間違いなく、あれが噂の……。

「【大罪法典】ですね、ロール殿下」
「……はい。すみません。逃げ切ったつもりだったのですが……」
「やーっと見つめましたよ! ロール殿下……いえ、ロール姫」
「姫……ってことはやはり」

 ロール王子は王子じゃなくて、姫様だ。
 俺の魔力感知は正しかった。
 これで間違っていたら自信をなくすところだったから、ギリギリ保たれたといってもいい。

「王子は偽装なんですね」
「すみません」
「構いません。王族が一人、こんな場所に来るには名と格好くらい偽装して当然ですから」
「いえ……私は一応、王子として国民には知られていまるので」
「――?」

 どういう意味だ?
 彼女は女性で間違いない。
 そのことを彼女自身も否定しないのに、国民もそのことを知らない?
 どうやら彼女には、まだ秘密にしている事情がありそうだ。

「その前に彼ですね。部屋を破壊されると困りますよ。入るなら玄関から来てください」
「はっ! あんたが噂の大賢者か? 思ったより若いんだな。けど残念、男に興味はないんだよ! 俺は女が大好きなんでなぁ!」
「煩悩の塊ですね」
「それが【大罪法典】です。彼は元は私の親衛隊で真面目な方でした。ですがあの呪具を手にしたことで人が変わってしまったのです。いえ……もしくはあれが、彼の本来の姿なのかも」
「その通りですよ姫様! 俺はずーっと思ってたんですよ。男のふりしてる姫様、とってもかわいくてたまらない! めちゃくちゃに犯したいって!」

 男は感情の制御ができていない。
 心が乱れ、煩悩に起こされている。
 故に魔力の制御もめちゃくちゃだが、それを補って余りあるほど膨大な魔力を呪具が宿している。

「姫様のことを公表してもよかったんですけどねぇ、それじゃ面白くないから、姫様を俺のペットにしようと思うんですよ。どうですか? 俺と一緒に毎日楽しく暮らしましょうよ」
「もちろんお断りです。私はどうしても、国王にならなければいけない。そのためなら私は……女だって捨てられる!」
「ロール姫……」

 揺るがない覚悟の瞳。
 相当な何かを抱えているな、この人は。

「くくっ、大した覚悟ですが無駄ですよ。そんな女々しい身体で、女を捨てられるわけがない! 思い出させてあげましょう! さぁ!」
「――え、な!」
「スピカ? シアン!?」

 突然、背後にいた二人がロール姫を拘束した。
 そんな指示は出していない。
 加えて様子もおかしい。
 まさか、精神干渉系の術式を受けていたのか?
 いつの間に? 

「リーナ! 二人を止めるんだ!」
「……」
「リーナ?」

 まさか彼女も?
 気づいた時に果て遅れで、彼女は拳に魔力を集めて俺を殴った。
 俺は両腕を胸の前でクロスして防御し、そのまま壁に激突する。

「くっ……」
「アンセル様!」
「気づくのが遅いな大賢者! とっくにその女たちは俺の手ごまだ!」

 男は鞭で地面を叩く。 
 すると地面がうねりはじめ、生物のような挙動で俺の手足に絡まってくる。
 うねうねしながら絡まると、再び元の硬さに戻り、身動きを封じる。

「これが……その鞭の能力ですね?」
「正解だぜ。こいつは【大罪法典】の一つ、【強欲】の鞭! 打ち付けた対象を無条件に従わせる。この効果は無機物にも有効だ!」

 無機物すら自在に操る?
 一つの魔導具で複数の効果を持つものなど存在しない。
 魔導具に付与される術式効果は一つだけだ。
 強欲の鞭は効果の解釈が広いのか?
 だからって、生物以外の無機物まで操り、さっきみたいに自然の法則を外れた動きもできるとは。

「中々強力……」
「お前はそこで大人しくしてな! 男に興味はねえーんだ。俺は女が大好きなんでねぇ! おら、こっちこい」

 リーナが命令に従い男の隣へ移動する。
 すると男は乱暴に、リーナの大きな胸を鷲掴んだ。

「――!」
「おーいいもんあるじゃねーか。こんな女を侍らせてたのか? 大賢者様も隅におけねーなぁ」
「……お前……」
「これからは俺が美味しくいただいてやるよ。さて、姫様はゆっくり遊ぼうなぁ」
「くっ、離して!」
「無駄だぜ。強欲の力で強化されてる。そもそも二人がかり、諦めて素直になれよ。お前は女なんだよ」

 操られたスピカとシアンによって、ロール姫は服をびりびりと破られていく。
 抵抗しても力で負けている。
 逃げ出せず、抜け出せない。
 涙目になりながら、それでも必死に抗う。

「ボクは……ボクはこんなことじゃ!」
「いい加減諦めろよ! 女は男にケツでもふってりゃいいーんだ!」
「――い、いや!」
「……おい」

 この瞬間、俺の中の何かが弾けた。
 と同時に、俺を拘束していた地面もまとめて破壊する。
 余計バラバラになった建物に土煙が舞い、俺は立ち上がる。

「拘束を……魔術は使えないよう手足は封じたのに?」
「お前……何勝手にリーナのおっぱい揉んでるんだ?」
「は?」
「俺だって……俺だってまだ一回も揉んだことないんだぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
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