辺境の魔術師、悟りを開き大賢者となる←【理想】/【現実】→煩悩を捨てなきゃダメなのに、毎日弟子たちが無自覚に誘惑するからそろそろ限界です……

日之影ソラ

文字の大きさ
23 / 30
色欲の章

しおりを挟む
「――!?」
「三人がいなくなったよ!」
「油断したな……こういう面倒な仕掛けもあるのか」
 
 相手の領域に踏み込んだ瞬間だ。
 リーナたち三人が姿を消し、俺たちだけが残された。
 おそらくリーナたちは三人一緒に移動させられたか、どこかに隠された。
 俺とロール姫が一緒なのは、彼女が俺の手を握っていたからだ。

「どうするの? このまま進む?」
「しかないな。さっさと呪具を回収しよう。彼女たちなら大丈夫だ。幻術への対処法は心得ている」
「信頼しているのね」
「ああ。それに、彼女たちに何かある前に、俺が決着を付ければいいだけの話……?」

 街も霧のような煙で覆われている。
 人間の気配はなかった。
 しかし魔力は感じ取れる。
 魔力の中心が徐々に、こちらに近づいているのを感知する。

「姫様は俺の後ろに」
「何かわかったの?」
「まだ……でも、来るよ」

 コトン、と足音が響く。
 ここまで近づけば、ロール姫にも感じ取れる。
 煙の中から一人の女性が現れた。
 見た目でしかわからないが年上っぽくて、どこか妖艶で不気味な女性……。
 右手には煙管をもち、煙を吹かせている。
 
「驚いたわ。私の煙に逆らえる人間がいるなんて。全員捕えたつもりだったのに」
「――俺も驚いたよ。そちらから姿を見せるとは、よほど自信家らしいな」

 間違いない。
 あの煙管こそが呪具だ。

「煙管か。中々おしゃれな武器だな」
「そうでしょう? 私もこの見た目は気に入っているわ。【大罪法典】の中でも、これに選ばれたことは幸運だったわね」
「その幸運もここまでだ。呪具を渡してもらおう。女性相手に手荒な真似はしたくない」
「あら、優しいのね? それによく見たらとっても素敵な顔、好みのタイプだわ。ねぇ、あなた私の恋人にならない?」

 ……え?
 今なんて言った?
 聞き間違えか?

「何を言ってるんだ?」
「恋人になってほしいのよ。一目ぼれしちゃったわ」
「……」

 聞き間違えじゃなかった。
 告白されたぞ。
 人生で初めて女性から!
 いつになく心が高ぶり熱くなるのを感じる。
 
「惑わされないでよ」
「と、当然だ」
「じー……」
「大丈夫だ!」

 俺はこれでも大賢者の後継だ。
 心の乱れはそのまま煩悩。
 制御しろ。
 高ぶるな、静まれ。

「嬉しい誘いだけど、丁重にお断りさせてもらおうか」
「あら、残念ね。本気だったのよ?」
「っ……」
「ちょっと、惑わされてませんか?」
「平気だ」

 女性の誘いを初めて断ってしまった。
 なんという喪失感。
 しかし俺は動じない。
 相手は俺を誘惑し、心を乱そうとしているだけだ。
 そう、本気で俺に告白することなんて……ない……うわぁ、自分で考えるほど空しくなる。

「何を言われても俺は靡かない。大人しくそれを渡すんだ」
「残念。せっかく十五人目の恋人候補が見つかったと思ったのに」
「……十五人目?」
「ええ。素敵な男性は全員私の恋人にしているのよ。あなたもそうしてあげようと思ったのに」

 この尻軽女がぁ!
 俺を純粋な心を弄びやがったなこの野郎!
 と、心が荒ぶりそうだったのでぐっと堪える。

「でも安心して? あなたもきっと、私に魅了される……いいえ、何も考えなくてよくなるわ」
「――!」

 この甘い匂い……まさか。
 視界が歪む。
 油断だ。
 これまでの会話も、この匂いから意識を逸らすための演技だったのか。

「さぁ、夢の世界へご招待しましょう」
「くっそ……」

  ◇◇◇

 意識が目覚める。
 身体が少し重い。
 瞼も。
 ゆっくり目を開けると、そこは懐かしき道場、俺の寝室だ。

「ここは……」
「先生!」

 リーナがいる。

「師匠、こっち見てよ」

 その隣にシアンも。
 二人がいるなら当然、彼女もいる。

「せんせー、楽しいことしよーよー」
「スピカも……」

 三人がベッドで横になる俺の上に、裸で乗りかかっている。
 俺は瞬時に察する。
 これは幻だ。

「本物のお前たちは、そんなはしたない格好をしない」
「どうして?」
「師匠だってこうしたかったでしょ?」
「せんせーのこと、スピカたちは大好き! だから何されてもいいよ」

 俺を誘惑している。
 無自覚ではなく、意識的に。
 それが逆に、現実との乖離を生み、俺の中で確かな確信を抱かせる。

「無駄だ。俺を惑わすことはできないよ」

 俺を幻術にかけたことは驚いている。
 魔力を完全に制御している俺を惑わせる術があるなんて思わなかった。
 新しい体験だ。
 俺もまだまだ修行が足りないと自覚できたよ。

「もう終わりにしよう」
「いいのかな?」
「――ロール姫?」

 彼女が隣に立っている。
 当然のように彼女も裸で、女性であることを隠しもしていない。
 そんな彼女は指をさす。

「ほら、見て」
「――!」

 気づけば俺に誘いをかけていた彼女たちはいなくなり、見知らぬ男と幸せそうに抱きしめ合っていた。

「君が拒絶するから、みんな他の男に取られちゃったよ」
「……」
「私もほら、こんなに求めていたのに……残念ね」

 ロール姫も見知らぬ男たちに囲まれて、幸せそうな笑みを浮かべる。
 俺の元から、慕ってくれていた弟子たちが、頼ってくれた姫様がいなくなる。
 独りぼっちになり、他人と幸せな笑みを浮かべる彼女たちを見せられる。

 幸福からの、絶望。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

わけありな教え子達が巣立ったので、一人で冒険者やってみた

名無しの夜
ファンタジー
教え子達から突然別れを切り出されたグロウは一人で冒険者として活動してみることに。移動の最中、賊に襲われている令嬢を助けてみれば、令嬢は別れたばかりの教え子にそっくりだった。一方、グロウと別れた教え子三人はとある事情から母国に帰ることに。しかし故郷では恐るべき悪魔が三人を待ち構えていた。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...