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お姉様と室長さん。
二人と偶然に再会し、それぞれ聞きたかったことを聞き、伝えたかったことを伝えた。
偶然ではあったけど、満足している。
特に室長さんには感謝を伝えたいと思っていたから。
私はとてもいい気分だった。
スキップでしたいような気持ちで、廊下を歩く。
ふと思う。
これが運命だとするなら、次に出会うのは誰なのだろうか?
お姉様、室長さん……。
私にとって思い出深く、関わりがあった間柄。
残る人物と言ったら――
「やぁ、ルミナ。久しぶりだね」
「……」
やっぱりこの人か。
廊下の対角から歩いてきた人物が、私に声をかけた。
私は立ち止まり、小さくため息をこぼす。
「おや? もしかして僕のことは忘れてしまったかな?」
「……いいえ、お久しぶりです。ゼオリオ様」
忘れるはずがないだろう。
一応、私の婚約者だった人だ。
婚約はすでに破棄されている。
ただの他人でしかない。
「失礼します」
「つれないじゃないか。せっかく再会したんだ。もう少し話そう」
「……」
話すことなんてない。
私たちは他人だ。
家族でもなく、仕事仲間というわけでもない。
どうしてだろう?
この人に対しては特に、苛立ちを感じてしまうのは……。
「聞いたよ。エルムス殿下の元で街づくりをしているんだってね?」
「……はい。そうです」
「凄いじゃないか! 大抜擢だ」
「そうですね」
異様にテンションが高い。
こんなに高いのは初めて見る。
私と婚約をしていた頃でさえ、優しかった最初の一年でさえ、ここまでは一度も見せなかったのに……。
なんだか、嫌だな。
「驚いたよ。君がこんな大役に選ばれるなんてね」
「そうですね。私も驚きました」
「うんうん。そのおかげで目が覚めたよ! やはり僕には、君が必要だってね」
「……はい?」
この人は何を言っているのだろう?
「ルミナ、僕とまた婚約してくれないかい?」
「……」
本当に何を言っているのだろう?
婚約?
また?
もしかして忘れてしまったのかな?
「婚約を破棄したのは、ゼオリオ様です」
「そうだね。あのときの僕は間違っていたよ。君しかいないんだ」
「……お姉様との婚約はどうされるのですか?」
「リエリアさんとは婚約していないよ。仲良くさせてもらっていただけで、婚約者ではないんだ」
言葉が過去形だ。
まるで、今は違うみたいな言い方……。
私は訝しむ。
「それに、彼女も今はとても忙しいみたいでね? 毎日仕事に追われて、僕のことなんて相手にしてくれないよ」
「……」
そういうことか。
少しずつ、背景が見えてきた。
ついでに彼の薄っぺらい思惑も……ため息が出そうだ。
「君が一番だってことに気づいたら、君のことばかり考えていた。僕の相手に相応しいのは君しかいないよ」
「……はぁ……」
ついにため息が出てしまった。
特大のが。
私は呆れる。
一時期とはいえ、こんな男を信頼していたのか。
比べるのも失礼だけど、殿下とは大違いだ。
「もちろんお断りします」
「――! ルミナ?」
「何を驚いていらっしゃるのですか? 当然でしょう? まさか、承諾されると本気で思っていたのですか?」
「と、当然じゃないか! 君だって本心では、撚りを戻したいと思っていたはずだ。君は僕のことを――」
「なんとも思っていませんよ」
私はキッパリと言い切った。
ゼオリオ様は鳩が豆鉄砲をくらったような顔を見せる。
ここまでいくと滑稽だ。
彼は本当に、私が愛していたと思ってるのだろう。
ありえない。
少なくとも今の私が彼に向ける感情は……。
「とても不快です」
二人と偶然に再会し、それぞれ聞きたかったことを聞き、伝えたかったことを伝えた。
偶然ではあったけど、満足している。
特に室長さんには感謝を伝えたいと思っていたから。
私はとてもいい気分だった。
スキップでしたいような気持ちで、廊下を歩く。
ふと思う。
これが運命だとするなら、次に出会うのは誰なのだろうか?
お姉様、室長さん……。
私にとって思い出深く、関わりがあった間柄。
残る人物と言ったら――
「やぁ、ルミナ。久しぶりだね」
「……」
やっぱりこの人か。
廊下の対角から歩いてきた人物が、私に声をかけた。
私は立ち止まり、小さくため息をこぼす。
「おや? もしかして僕のことは忘れてしまったかな?」
「……いいえ、お久しぶりです。ゼオリオ様」
忘れるはずがないだろう。
一応、私の婚約者だった人だ。
婚約はすでに破棄されている。
ただの他人でしかない。
「失礼します」
「つれないじゃないか。せっかく再会したんだ。もう少し話そう」
「……」
話すことなんてない。
私たちは他人だ。
家族でもなく、仕事仲間というわけでもない。
どうしてだろう?
この人に対しては特に、苛立ちを感じてしまうのは……。
「聞いたよ。エルムス殿下の元で街づくりをしているんだってね?」
「……はい。そうです」
「凄いじゃないか! 大抜擢だ」
「そうですね」
異様にテンションが高い。
こんなに高いのは初めて見る。
私と婚約をしていた頃でさえ、優しかった最初の一年でさえ、ここまでは一度も見せなかったのに……。
なんだか、嫌だな。
「驚いたよ。君がこんな大役に選ばれるなんてね」
「そうですね。私も驚きました」
「うんうん。そのおかげで目が覚めたよ! やはり僕には、君が必要だってね」
「……はい?」
この人は何を言っているのだろう?
「ルミナ、僕とまた婚約してくれないかい?」
「……」
本当に何を言っているのだろう?
婚約?
また?
もしかして忘れてしまったのかな?
「婚約を破棄したのは、ゼオリオ様です」
「そうだね。あのときの僕は間違っていたよ。君しかいないんだ」
「……お姉様との婚約はどうされるのですか?」
「リエリアさんとは婚約していないよ。仲良くさせてもらっていただけで、婚約者ではないんだ」
言葉が過去形だ。
まるで、今は違うみたいな言い方……。
私は訝しむ。
「それに、彼女も今はとても忙しいみたいでね? 毎日仕事に追われて、僕のことなんて相手にしてくれないよ」
「……」
そういうことか。
少しずつ、背景が見えてきた。
ついでに彼の薄っぺらい思惑も……ため息が出そうだ。
「君が一番だってことに気づいたら、君のことばかり考えていた。僕の相手に相応しいのは君しかいないよ」
「……はぁ……」
ついにため息が出てしまった。
特大のが。
私は呆れる。
一時期とはいえ、こんな男を信頼していたのか。
比べるのも失礼だけど、殿下とは大違いだ。
「もちろんお断りします」
「――! ルミナ?」
「何を驚いていらっしゃるのですか? 当然でしょう? まさか、承諾されると本気で思っていたのですか?」
「と、当然じゃないか! 君だって本心では、撚りを戻したいと思っていたはずだ。君は僕のことを――」
「なんとも思っていませんよ」
私はキッパリと言い切った。
ゼオリオ様は鳩が豆鉄砲をくらったような顔を見せる。
ここまでいくと滑稽だ。
彼は本当に、私が愛していたと思ってるのだろう。
ありえない。
少なくとも今の私が彼に向ける感情は……。
「とても不快です」
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