【完結】皆さまにお尋ねしたいことがございます

風見ゆうみ

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2  こうなったのかしら

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 アンジェリカの落ち込んだ様子を見て、気を良くしたワミーは話題を変える。

「お兄様、もうすぐ幸福度調査が行われる時期ね」
「……そうだな。今年こそは三位以内に入ってみたいけど、やっぱり無理かな」

 ワーミの質問に、ヒウロは大きなため息を吐いてから答えた。

「お兄様なら大丈夫よ。それに私が付いているわ」
「そうだな。僕にはワミーが付いているんだもんな」
「そうですよ!」

 見つめ合って微笑むふたりを見て、アンジェリカは呑気なものねと心の中で呟いた。
 
 アンジェリカたちが住んでいるフェカネス王国は貴族の扱いが他の国とはかなり違っている。それは国王の持論が、領民に愛されていない領主は必要ないというものだったからだ。
 ライエ王は毎年、18歳以上の国民全員に幸福度調査を行っている。それぞれの領民に領主の評価をさせ、独自の基準で幸福度を算出するのだ。 
 集められた用紙は、審査によって選ばれた平民が自分の住んでいない領地の集計を担当する。
 定められた加点方法で点数化し、領民の人数によって平均値を出す。アンケートには管轄してほしい貴族の名前も書くことができるし、改善してほしい点などの欄もあり、内容が目に余るものについては、王家直属の調査団が内偵に入る。極端に幸福度が低い場合は、領地を幸福度の高い領主に譲らなければならなくなるが、一定の幸福度に達すればそのようなことはないため、今のところ、飛び地の領地は存在していない。
 今までに爵位の没収はないが、よほどのことがあればあり得ることだと領主たちは忠告を受けていた。
 集計後は、上位の三家が発表され、その三家には褒美、もしくは最低点だった領民の多くが領主の変更を希望していた場合、その領地が与えられることになっている。
 
 アンジェリカの家は父の代から三位以内に入ることが多く、昨年も三位にランクインした。アンジェリカが普段から領民と共に行動することで、領民の不満をいち早く解決できているからなのだが、兄はなぜか自分の力だと思い込んでいた。
 アンジェリカは、結婚後にはヒウロのために、自分のできる限りのことをして支えていくつもりだった。だが、目の前で繰り広げられている光景のせいで、自分の力は必要ないかもしれないと思い始めていた。

「アンジェ、浮かない顔をしているな」

 ヒウロがアンジェリカに興味を示すと、気に入らないのか、すぐさまワミーが彼に話しかける。

「ねえ、お兄様、なんだか体調が優れないわ」
「それは大変だ。今日はもう帰るとしようか」
「うん。でも、その、アンジェリカ様を送っていくのよね?」

 アンジェリカの家とヒウロの家はかなり離れている。問いかけられた彼は、アンジェリカに言い放つ。

「大人なんだから一人で帰れるよな。俺たちはもう帰るから。また連絡する」

 今まで、一緒に出かけた時はいつもヒウロが送り迎えしてくれていた。今日もそうだと思っていたのだが、ヒウロはワーミの体調を優先し、アンジェリカを店に置いて帰ってしまった。

(一人で帰れないことはないけれど、馬車もないのに歩いて帰れってこと? それにテーブルの上に残された料理はどうするのよ)

 飲み物だけならいいが、サンドイッチやバケット。一口も口をつけていないスープや肉料理がそのままだ。

(ヒウロのお金とはいえ、食べ物を捨てるなんてもったいないわ。家に戻る前に教会に寄って帰りましょう)

 ここ最近、傷みやすい食べ物以外は店員に頼んで持ち帰れるようにしてもらい、孤児院など食べるものに困っている所に持って行くようにしていた。料理を持ち帰るための辻馬車ではなく、店が信頼を置いている出張馬車を店員に呼んでもらった。置いて帰られたのは初めてだが、料理を持ち帰ることは何度もあったので、店員も嫌がらずに対応してくれた。
 アンジェリカたちはワミーが来る前からの常連のため、店員たちは二人を陰ながら見守ってきた。妹ができてからのヒウロの変わりように呆れており、アンジェリカには皆が同情していた。

「本当にご結婚なさるのですか?」

 雑談するくらいまで仲良くなった若い女性店員に尋ねられ、アンジェリカは苦笑してうなずく。

「ええ。自分たちが希望したものでもあるのだけど、親が決めた婚約なの。彼はワミーさんのことを妹だと言い張るに決まっている。嫉妬した私が悪いと責められて終わりよ」

 アンジェリカの父は、1年ほど前から病に侵されて床に伏せっている。今は兄が代理として仕事をしており、決定権は兄にある。母は兄の言いなりで当てにならない。
 彼女と兄は折り合いが悪いだけでなく、兄はヒウロとの結婚を推奨していた。結婚したくないと伝えても却下されるのが目に見えている。

(お父様に心配をかけたくない。心労で病状が悪化なんてしたら、悔やんでも悔やみきれないもの)

 せめて父の前では幸せな自分を見せたい。アンジェリカはそう考えて店員に微笑む。

「愚痴を言ってしまってごめんなさい。それから、気遣ってくれて本当にありがとう。気持ちはとても嬉しいわ」
「余計なことを言ってしまい申し訳ございませんでした」
「いいの。心配してくれているのでしょう?」

 彼女の質問に店員は困ったような顔をしただけだった。平民の自分が貴族を心配するなんて失礼だと思ったようだ。それを察したアンジェリカは店員の気持ちに感謝をして、もう少しだけヒウロを信じてみることにした時だった。

 パンッ!

 何かが弾けたような音が響き、店員とアンジェリカは音が聞こえてきた方向に目を向けた。
 3卓あるテラス席の右端に若い男女が座っていたのだが、ピンク色のワンピースドレスを着た赤髪の女性が身を乗り出して、向かいに座る男性に平手打ちをした後だった。

「私と一緒にいるのに他の女性の話をするなんて信じられない!」
「え? い、いや、だって、君がお気の毒だって言うからそうだねって答えただけじゃないか」
「そういう言い訳はいいから。もういいわ。別れましょう!」
「そ、そんな! 待ってよ!」

 立ち上がって引き留めようとした男性の頬をもう一発叩くと、女性は彼を置いて去っていってしまった。

(もしかして、私とヒウロの話でこうなったのかしら)

 男の顔を確認すると、彼が何度かパーティーで何度か顔を合わせたことのある男爵だということに気がついた。
 今いる店はルズマ公爵の領地内にあるのだが、彼は若き公爵の側近で、名はリーアム・デイルという。公爵の名もリーアムというため、普段はデイルと呼ばれている。
 漆黒の艶のある短髪だが、前髪だけは目を隠すくらいに長い。その上に大きな丸眼鏡をかけているので、表情がわかりづらかった。長身痩躯のため、後ろ姿だけ見れば爽やかそうに見えるのだが、正面から見ると弱々しく感じられる。
 彼は「婚活男爵」と揶揄されており、婚約者ができても、すぐに相手から断られてしまうことで有名だった。

「うう。またフラレてしまった」

 がっくりと肩を落としたデイルを見て、自分のせいかと申し訳ない気持ちになったアンジェリカは、彼に話しかけることにした。

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