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21 言い訳はもう聞き飽きた
アンジェリカが反応する前に、ワミーが声を上げた。
「お兄様! アンジェリカ様を愛しているなんて嘘でしょう!?」
「嘘じゃない! 本当だよ!」
(本当に私を愛しているなら、ワミーばかり優先するなんてことないでしょう)
アンジェリカはこれ以上、ヒウロと話し合っても無駄だと感じ、離婚は今すぐには無理でも、別居期間が長ければ離婚は認められるので、そうするしかないと考え始めた。
(私がヒウロとの体の関係を求めていたら別だけど、私は今さら求めるつもりはない。そうなると、白い結婚では離婚理由としては認めてもらえないでしょう。思ったよりも時間がかかりそう。デイル様は待ってくれるかしら。結婚することくらいしか、私には恩返しなんてできないのに、ヒウロと離婚できないのでは意味がないわ)
ここで考えていても仕方がない。アンジェリカは、ルマとその友人たちに話しかける。
「今日はありがとうございました。お話が聞けて本当にありがたかったです」
「お役に立てなくてごめんなさいね。世間体のことをライキ伯爵は気にしているようだけれど、結婚式の話を聞いて、私の夫もあなたに同情していたわ。離婚しても、あなたが白い目で見られることはないはずよ。彼は自分の心配しかしていないわ」
「この国の貴族は男尊女卑の傾向が強いから、離婚はいつも女性に原因があると思われている。けれど、両陛下はそんな偏見のない国をつくろうとしているの。お二人の耳に入ったら、きっとあなたを応援してくれると思うから頑張って」
婦人たちに優しい言葉をかけられたアンジェリカは微笑んでうなずく。
「ありがとうございます。負けずに頑張っていこうと思います」
「みんな、付き合ってくれてありがとう。悪いけれど、ここは騒がしいから場所を移動しましょう」
ルマに促され、婦人たちはヒウロたちに呆れた視線を送りながら立ち上がり部屋を出ていく。さすがのヒウロたちも口論をやめたので、アンジェリカはワミーに話しかける。
「ワミー、話したいことがあるの」
「なんですか? 今さらお兄様が惜しくなったとか言わないですよね?」
「言わないから安心して」
「ならいいですよ。どこで話します?」
「ヒウロが出て行ってくれればいいだけよ」
「アンジェリカ、聞いてくれ。本当に僕はワミーに恋愛感情はないんだ! 君との初夜を迎えなかったのは、これからずっと一緒にいるんだから慌てなくてもいいと思ったからなんだよ!」
しつこく許しを請うヒウロに、アンジェリカは冷たい視線を送る。
「言い訳はもう聞き飽きた。あなたと話しても埒が明かない。あなたが出ていかないなら、私たちが場所を移動するわ。ワミー、付いてきて」
「お兄様、また後で話しましょう」
満面の笑みを浮かべているワミーに恐怖を覚えたヒウロは、体が固まってしまい、二人の後を追いかけることができなかった。アンジェリカは自室にワミーを招き入れ、ソファに座って向かい合うとお互いの目的を確認する。
「ワミー、あなたはヒウロと一緒になりたいのよね?」
「言っておきますけど、私はお兄様に甘えただけ。私を優先したのはお兄様の意思よ」
「それがわかっているから離婚しようとしているの。ワミー、変な嘘はつかなくていい。正直に答えて。ヒウロは自分からあなたに思わせぶりな態度を取ったり、あなたが誤解してしまうような行動をとっていた?」
「答えて何があるっていうの?」
「ヒウロが私と離婚しなければあなたは彼と結婚できない。私は彼と離婚したい。目的は同じでしょう?」
アンジェリカが微笑むと、ワミーは納得したようににんまりと笑う。
「アンジェリカさん。あなた、自分の好きな人を奪った相手を憎いと思わないの?」
「腹が立ったことはあるけれど、憎いと思ったことはないわ。人のものを奪おうとするあなたもあなただけど、妹が可愛いからといって、妻よりも妹を優先し、私を傷つけるような行動をとった彼も悪い。一度や二度ならまだしも、数えきれないほどだし、彼は反省する様子も見えない。だから、もういらない」
「あなたがもっと頑張れば良かったんじゃないの?」
「努力が足りなかったと言われるかもしれないけれど、私なりに努力はした。それにね、しなくていいことをしたのは、あなたとヒウロ。浮気をした人間や当事者じゃない一部の人は、された側にも原因があると言うけれど、それは浮気を正当化する理由にはならないというのが私の考え」
ワミーは胸の下で腕を組み、ソファにふんぞり返ってアンジェリカに尋ねる。
「で、私はどうすればいいの?」
「だから言ったでしょう。場所をセッティングするから正直なことを話してくれればいい。あなたの証言だけでなんとかしてみせるわ」
「わかりました。協力するわ」
満足そうなワミーを見て、アンジェリカも笑顔を見せる。
(慰謝料の出どころはどうせ同じ。彼女へ請求する分の慰謝料はヒウロにまとめてすることにしましょう。そのお金の一部は教会に寄付することにしたら、神父様へのお礼になるかしら)
先日の結婚式があまりにも酷かったため、教会の神父から個人的にアンジェリカ宛に手紙が届いていた。内容はその後を心配し、何かあれば力になれるよう努力するというもので、彼女は早速、その力を借りることにした。
ネカフェス王国では神父は貴族とはまた違う扱いだが、伯爵家よりも高い地位にある。さすがのヒウロも神の言葉には耳を傾けるはずだ。
(神父様はあの結婚式を無効にしなかったことを悔いていらっしゃるみたいだし、申し訳ないけれど協力してもらいましょう)
ワミーとの話を終えたアンジェリカは、とりあえず明日から別居生活を送るために、荷物をまとめることにした。
「お兄様! アンジェリカ様を愛しているなんて嘘でしょう!?」
「嘘じゃない! 本当だよ!」
(本当に私を愛しているなら、ワミーばかり優先するなんてことないでしょう)
アンジェリカはこれ以上、ヒウロと話し合っても無駄だと感じ、離婚は今すぐには無理でも、別居期間が長ければ離婚は認められるので、そうするしかないと考え始めた。
(私がヒウロとの体の関係を求めていたら別だけど、私は今さら求めるつもりはない。そうなると、白い結婚では離婚理由としては認めてもらえないでしょう。思ったよりも時間がかかりそう。デイル様は待ってくれるかしら。結婚することくらいしか、私には恩返しなんてできないのに、ヒウロと離婚できないのでは意味がないわ)
ここで考えていても仕方がない。アンジェリカは、ルマとその友人たちに話しかける。
「今日はありがとうございました。お話が聞けて本当にありがたかったです」
「お役に立てなくてごめんなさいね。世間体のことをライキ伯爵は気にしているようだけれど、結婚式の話を聞いて、私の夫もあなたに同情していたわ。離婚しても、あなたが白い目で見られることはないはずよ。彼は自分の心配しかしていないわ」
「この国の貴族は男尊女卑の傾向が強いから、離婚はいつも女性に原因があると思われている。けれど、両陛下はそんな偏見のない国をつくろうとしているの。お二人の耳に入ったら、きっとあなたを応援してくれると思うから頑張って」
婦人たちに優しい言葉をかけられたアンジェリカは微笑んでうなずく。
「ありがとうございます。負けずに頑張っていこうと思います」
「みんな、付き合ってくれてありがとう。悪いけれど、ここは騒がしいから場所を移動しましょう」
ルマに促され、婦人たちはヒウロたちに呆れた視線を送りながら立ち上がり部屋を出ていく。さすがのヒウロたちも口論をやめたので、アンジェリカはワミーに話しかける。
「ワミー、話したいことがあるの」
「なんですか? 今さらお兄様が惜しくなったとか言わないですよね?」
「言わないから安心して」
「ならいいですよ。どこで話します?」
「ヒウロが出て行ってくれればいいだけよ」
「アンジェリカ、聞いてくれ。本当に僕はワミーに恋愛感情はないんだ! 君との初夜を迎えなかったのは、これからずっと一緒にいるんだから慌てなくてもいいと思ったからなんだよ!」
しつこく許しを請うヒウロに、アンジェリカは冷たい視線を送る。
「言い訳はもう聞き飽きた。あなたと話しても埒が明かない。あなたが出ていかないなら、私たちが場所を移動するわ。ワミー、付いてきて」
「お兄様、また後で話しましょう」
満面の笑みを浮かべているワミーに恐怖を覚えたヒウロは、体が固まってしまい、二人の後を追いかけることができなかった。アンジェリカは自室にワミーを招き入れ、ソファに座って向かい合うとお互いの目的を確認する。
「ワミー、あなたはヒウロと一緒になりたいのよね?」
「言っておきますけど、私はお兄様に甘えただけ。私を優先したのはお兄様の意思よ」
「それがわかっているから離婚しようとしているの。ワミー、変な嘘はつかなくていい。正直に答えて。ヒウロは自分からあなたに思わせぶりな態度を取ったり、あなたが誤解してしまうような行動をとっていた?」
「答えて何があるっていうの?」
「ヒウロが私と離婚しなければあなたは彼と結婚できない。私は彼と離婚したい。目的は同じでしょう?」
アンジェリカが微笑むと、ワミーは納得したようににんまりと笑う。
「アンジェリカさん。あなた、自分の好きな人を奪った相手を憎いと思わないの?」
「腹が立ったことはあるけれど、憎いと思ったことはないわ。人のものを奪おうとするあなたもあなただけど、妹が可愛いからといって、妻よりも妹を優先し、私を傷つけるような行動をとった彼も悪い。一度や二度ならまだしも、数えきれないほどだし、彼は反省する様子も見えない。だから、もういらない」
「あなたがもっと頑張れば良かったんじゃないの?」
「努力が足りなかったと言われるかもしれないけれど、私なりに努力はした。それにね、しなくていいことをしたのは、あなたとヒウロ。浮気をした人間や当事者じゃない一部の人は、された側にも原因があると言うけれど、それは浮気を正当化する理由にはならないというのが私の考え」
ワミーは胸の下で腕を組み、ソファにふんぞり返ってアンジェリカに尋ねる。
「で、私はどうすればいいの?」
「だから言ったでしょう。場所をセッティングするから正直なことを話してくれればいい。あなたの証言だけでなんとかしてみせるわ」
「わかりました。協力するわ」
満足そうなワミーを見て、アンジェリカも笑顔を見せる。
(慰謝料の出どころはどうせ同じ。彼女へ請求する分の慰謝料はヒウロにまとめてすることにしましょう。そのお金の一部は教会に寄付することにしたら、神父様へのお礼になるかしら)
先日の結婚式があまりにも酷かったため、教会の神父から個人的にアンジェリカ宛に手紙が届いていた。内容はその後を心配し、何かあれば力になれるよう努力するというもので、彼女は早速、その力を借りることにした。
ネカフェス王国では神父は貴族とはまた違う扱いだが、伯爵家よりも高い地位にある。さすがのヒウロも神の言葉には耳を傾けるはずだ。
(神父様はあの結婚式を無効にしなかったことを悔いていらっしゃるみたいだし、申し訳ないけれど協力してもらいましょう)
ワミーとの話を終えたアンジェリカは、とりあえず明日から別居生活を送るために、荷物をまとめることにした。
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