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26 後悔しないようにね
驚いたのは、ヒウロだけでなくアンジェリカもだった。
(教会側に力があるとしても、婚姻を無効にするなんて、そんなことをできるものなのかしら。私にしてみればありがたいことだけど、それならもっと早く言ってほしかったわ)
そんなことを考えたが、口に出せるわけがないしあつかましくも感じ、アンジェリカはヒウロに向き直る。
「ヒウロ、もう諦めてくれるわよね? あなたに理解を示しているのは、あなたの友人だけよ」
「……っ! 誓いを阻んだのはワミーなのに、僕のせいになるのか?」
「それはあなたがワミーを優先した証拠よ。普通は神様の前で誓い合うのが普通なの」
「くそっ!」
ヒウロはアンジェリカではなく、ワミーを睨んだ。ワミーは慌てた顔をして首を傾ける。
「お兄様、怖いわ。どうしてそんな顔をして私を見るの?」
「うるさい! 全部、お前のっ!」
ヒウロは怒りの形相で何か言いかけたが、周りの視線に気がついて口を閉ざした。
(今までこんな風に怒り散らすところなんて見たことがなかった。これが彼の本性だったんだろうか)
アンジェリカは眉をひそめた後、用意していた紙とペンをヒウロに差しだす。
「離婚の協議書を渡すわ。今すぐサインをして私との離婚を認めてちょうだい」
「……わかった」
今までの抵抗が嘘のように、ヒウロはすんなりとアンジェリカとの離婚を認めた。足掻いても婚姻無効になるのなら、意味がないと悟ったようだった。
内容に目を通し、ヒウロはサインをして、アンジェリカに投げつけるように協議書を渡す。
アンジェリカは協議書を受け取り、胸に抱きしめて大きく息を吐いた。
(やっと終わった)
ヒウロが安心して息をついている彼女に話しかける。
「アンジェリカ、男爵なんかと一緒になっても不幸になるだけだ。気が変わったらいつでも僕の所に戻ってこい」
「あなたの元に戻ることなんて絶対にないわ」
アンジェリカが冷たい目を向けると、ヒウロは肩を竦める。
「仕方がない。君が僕に頼らざるを得ないようにしてやる」
ヒウロはそう言うと、アンジェリカの返事を待たずに、教会の出入り口に向かって歩き出した。そのまま出ていくかと思われたが、デイルの横まで来ると立ち止まって話しかける。
「男爵のくせに余計なことをしやがって。絶対に許さない。お前をつぶしてやる。幸福度調査で領民に酷い評価を受けるがいい」
「……僕の領民にですか?」
「そうだよ。男爵だって領民がいるだろう?」
(ヒウロはデイル様が自分の領地をルズマ公爵家に預けていることを知らないのね)
アンジェリカがそのことをヒウロに伝えるべきか迷っているうちに、デイルが答える。
「領民がいることはいますが、領地をひとまとめにしてもらっているので、僕自身が評価されることはありませんよ」
「じゃあ、そのひとまとめにしている領主をつぶしてやる。このクソ野郎! 覚えてろよ!」
ヒウロは暴言を吐いてスッキリしたのか、教会から出ていった。
「あの人にクソ野郎とは言われたくないですね」
デイルは立ち上がって呟くと、まだ残っていたヒウロの友人たちに話し掛ける。
「あなたはルズマ公爵家に喧嘩を売りましたね、と言っていたと、彼に伝えておいてもらえますか」
「わ、わかった」
三人のうちの一人がうなずいて立ち上がると、他二人と一緒に逃げるように教会から出ていく。
「本当にくだらないことに時間をかけてしまったわ。それに多くの人に迷惑をかけてしまった」
アンジェリカが呟くと、神父が優しく話しかける。
「あなたが幸せになれるのであれば、迷惑だとは思いません。これから改めて、あなたが幸せだと思える人生を歩んでいってください」
「……ありがとうございます」
アンジェリカは明るい表情で礼を言った。
(そうよ。幸せになって、それから恩を返していけばいいわ)
前向きな気持ちになったアンジェリカに、ワミーが話しかける。
「これでお兄様は私のものね。譲ってくれてありがとう」
「ワミー、ヒウロは優しい人間ではないわ。後悔しないようにね」
「するわけないわ。お兄様は私には優しいんだから!」
ワミーは満面の笑みを浮かべ、アンジェリカに別れを告げて去っていった。
アンジェリカはそんなワミーを見送っている際に、嫌な予感を覚えたが、その時は何も言わずにいた。
そして、その予感が本当のことであり、ワミーがヒウロから暴力をふるわれていることを知るのは二日後のことだった。
(教会側に力があるとしても、婚姻を無効にするなんて、そんなことをできるものなのかしら。私にしてみればありがたいことだけど、それならもっと早く言ってほしかったわ)
そんなことを考えたが、口に出せるわけがないしあつかましくも感じ、アンジェリカはヒウロに向き直る。
「ヒウロ、もう諦めてくれるわよね? あなたに理解を示しているのは、あなたの友人だけよ」
「……っ! 誓いを阻んだのはワミーなのに、僕のせいになるのか?」
「それはあなたがワミーを優先した証拠よ。普通は神様の前で誓い合うのが普通なの」
「くそっ!」
ヒウロはアンジェリカではなく、ワミーを睨んだ。ワミーは慌てた顔をして首を傾ける。
「お兄様、怖いわ。どうしてそんな顔をして私を見るの?」
「うるさい! 全部、お前のっ!」
ヒウロは怒りの形相で何か言いかけたが、周りの視線に気がついて口を閉ざした。
(今までこんな風に怒り散らすところなんて見たことがなかった。これが彼の本性だったんだろうか)
アンジェリカは眉をひそめた後、用意していた紙とペンをヒウロに差しだす。
「離婚の協議書を渡すわ。今すぐサインをして私との離婚を認めてちょうだい」
「……わかった」
今までの抵抗が嘘のように、ヒウロはすんなりとアンジェリカとの離婚を認めた。足掻いても婚姻無効になるのなら、意味がないと悟ったようだった。
内容に目を通し、ヒウロはサインをして、アンジェリカに投げつけるように協議書を渡す。
アンジェリカは協議書を受け取り、胸に抱きしめて大きく息を吐いた。
(やっと終わった)
ヒウロが安心して息をついている彼女に話しかける。
「アンジェリカ、男爵なんかと一緒になっても不幸になるだけだ。気が変わったらいつでも僕の所に戻ってこい」
「あなたの元に戻ることなんて絶対にないわ」
アンジェリカが冷たい目を向けると、ヒウロは肩を竦める。
「仕方がない。君が僕に頼らざるを得ないようにしてやる」
ヒウロはそう言うと、アンジェリカの返事を待たずに、教会の出入り口に向かって歩き出した。そのまま出ていくかと思われたが、デイルの横まで来ると立ち止まって話しかける。
「男爵のくせに余計なことをしやがって。絶対に許さない。お前をつぶしてやる。幸福度調査で領民に酷い評価を受けるがいい」
「……僕の領民にですか?」
「そうだよ。男爵だって領民がいるだろう?」
(ヒウロはデイル様が自分の領地をルズマ公爵家に預けていることを知らないのね)
アンジェリカがそのことをヒウロに伝えるべきか迷っているうちに、デイルが答える。
「領民がいることはいますが、領地をひとまとめにしてもらっているので、僕自身が評価されることはありませんよ」
「じゃあ、そのひとまとめにしている領主をつぶしてやる。このクソ野郎! 覚えてろよ!」
ヒウロは暴言を吐いてスッキリしたのか、教会から出ていった。
「あの人にクソ野郎とは言われたくないですね」
デイルは立ち上がって呟くと、まだ残っていたヒウロの友人たちに話し掛ける。
「あなたはルズマ公爵家に喧嘩を売りましたね、と言っていたと、彼に伝えておいてもらえますか」
「わ、わかった」
三人のうちの一人がうなずいて立ち上がると、他二人と一緒に逃げるように教会から出ていく。
「本当にくだらないことに時間をかけてしまったわ。それに多くの人に迷惑をかけてしまった」
アンジェリカが呟くと、神父が優しく話しかける。
「あなたが幸せになれるのであれば、迷惑だとは思いません。これから改めて、あなたが幸せだと思える人生を歩んでいってください」
「……ありがとうございます」
アンジェリカは明るい表情で礼を言った。
(そうよ。幸せになって、それから恩を返していけばいいわ)
前向きな気持ちになったアンジェリカに、ワミーが話しかける。
「これでお兄様は私のものね。譲ってくれてありがとう」
「ワミー、ヒウロは優しい人間ではないわ。後悔しないようにね」
「するわけないわ。お兄様は私には優しいんだから!」
ワミーは満面の笑みを浮かべ、アンジェリカに別れを告げて去っていった。
アンジェリカはそんなワミーを見送っている際に、嫌な予感を覚えたが、その時は何も言わずにいた。
そして、その予感が本当のことであり、ワミーがヒウロから暴力をふるわれていることを知るのは二日後のことだった。
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