【完結】捨てられた私が幸せになるまで

風見ゆうみ

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20 ノースの本音(レイブンside)

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「悪かった! あの時は、しょうがなかったんだ!」
「しょうがなかっただと? そんな言葉で済まされると思ってんのか!」

 ノースが片手でベーゼフの首をおさえたまま、もう片方の手に手の平サイズの火の玉を浮かび上がらせる。

「あ…、あ、やめ…」
「大きな口を開けてくれてるけど、口の中に入れてほしいって事か?」
「や、や、や、めて、助けて…」
「落ち着け、ノース! 殺すなと言ったろ」

 涙と鼻水を同時に流し、助けを求めるベーゼフを見たレイブンが、小さく息を吐いてから言うと、ノースは火の玉を消して不機嫌そうに言う。

「口の中や喉を火傷したって、レイブンが回復魔法で治せるだろ」
「治したら、また同じ事をするんだろ? 拷問だぞ」
「父さんと母さんが死んでたら? それくらいしても罰が当たらないだろ」
「お前達の両親が生きてると信じてるなら止めろ」
「……へいへい」

 ノースはベーゼフの首をはなすと、ローテーブルを飛び越えて、レイブンの隣に立った。

「ちょっと冷静になるわ。レイブンが話を進めてくれ、って、それどころじゃあ、なさそうだな」

 ノースが鼻で笑ってから、ソファーにふんぞり返って座る。
 ベーゼフの方にレイブンが目を向けると、彼はソファーに座ったまま、口と目を大きく開け、気絶している様だった。

 レイブンは大きく息を吐いてから、ノースに言う。

「おい。気絶してるだろ。話せなくなったじゃないか。聞きたい事は山程あるってのに」
「まあまあ。いいんじゃね? どうせ、こいつは、父さん達の行方を知らないだろうしよ」
「……そうだな」

 レイブンは頷いたが、すぐに眉を寄せる。

「じゃあ、このゴミをしばらくどうするんだ。ここに放置しとくのか?」
「水をかけたら起きんじゃね? もしくは燃やす?」
「……」

(ノースの奴、まだ冷静になれてないな)

 そう考えた後、レイブンがノースに聞けていなかった事を思い出し、ちょうどいい機会だと思い、聞いてみる事にした。

「なあ、ノース」
「ん?」
「レティアには、お前が兄だって事、いつ伝えるつもりなんだ?」
「出来れば言いたくねぇんだよな。今更、俺がお兄ちゃんだよ、なんて言っても信じてもらえないだろ」
「そんな事はないだろ。俺だって知ったのはつい最近なのに信じてるんだから。そんなに自信がないなら、幼い頃の傷とか、そういうのはないのか? 父親の面影があるとか…」
「髪の色と瞳の色は父さんと同じだ。だけど、顔は母さん似なんだよな。ただ、レティアは幼かったから、はっきりと覚えてないだろ」

 吐き捨てる様に言うノースに、レイブンは彼の隣に座って言う。

「昔の思い出話とかあるだろ?」
「そりゃああるよ。だけど、あいつを家に送り届けずに、友達と遊びに行った事を悔やむ気持ちで一杯で、昔の良い思い出を思い出そうとしても、全部、その時の記憶に塗り替えられちまう」
「その頃は、お前だって子供だったんだ。遊びを優先したくなる気持ちは普通だろ。まさか、妹がさらわれるだなんて夢にも思ってなかったはずだ。だから、自分を責めるな。悪いのはヘーベル公爵達だ」
「いつも、手を繋いで帰ってたんだ。なのに、俺は手をはなしたんだよ…」

 ノースは両手で顔をおおい、背もたれに上半身を預けた。

(こいつはずっと、自分を責め続けたんだろうな…。だけど、レティアは兄の事を恨んでなんかない)

「ノース、聞いてくれ。慰めで言うんじゃない。レティアは兄に会いたがってる。お前が兄だと知っても、喜ぶだけで、お前を責めなんかしたりしない」
「……わかってるよ。だけど、俺自身が納得できねぇんだ」
「じゃあ、どうするつもりなんだよ? このまま、何も言わないつもりか?」
「別に言わなくても、レティアが幸せになれれば、それでいいだろ。お前の護衛でいれば、レティアの事も見守れる」
「お前が兄だと名乗り出た方が、レティアは幸せな気持ちになれるんだぞ?」

 ノースは両手を顔からはなし、レイブンを見ると苦笑する。

「俺が言わなくても、お前が言いそうだな」
「レティアが望むならな。お前がどうしても嫌だって言うなら言わないけど。お前の口から言い出しにくそうだから、俺が言ってもいいと思ってるだけだ」
「レイブンはさ、自分が探してた家族が俺だったら、どう思う?」
「え? お前が俺の弟か兄だったらって事か?」

 突然の質問に、レイブンは驚いて聞き返した後、少し悩んでから答える。

「それはそれで受け止めると思う。その時になってみないとわからんけど」
「そんな曖昧な答えじゃ、余計にレティアに言い出せねぇよ。理由があったにせよ、俺は人に暴力をふるってる。そんな兄、嫌だろ」
「無抵抗の何もしていない人間にしたわけじゃないだろ。アメリアの時の件は別だが、それにだって一応の理由はある。もちろん、駄目だけどな。それ以外については、暴力をふるわざるを得ない、もしくはふるわれた時だけだろ? 基本、お前が人を傷つける時は、大事な人が関わってる時だけだ」
「慰めてくれてありがとな」

 ノースは笑った後、立ち上がり、気絶したままのベーゼフを指差す。

「でさ、どうすんの、これ。顔に落書きだけで終わらせるのは面白くねぇだろ」
「面白い、面白くないの問題じゃない。とにかく、こいつからは、お前達の両親の消息を、いつ、どこで途切れたかを確認しよう。死んだだの、殺しただの言ってるけど、信用できない」
「じゃあ、起こすかね」

 ノースは開いたままのベーゼフの口に、水魔法で水を入れようとしたので、慌てて、レイブンが止める。

「止めろ! 気絶した人間に水を飲ますな!」
「駄目なん? 苦しくて起きねぇ?」
「そういう問題じゃない! 気管に入るだろ! 絶対にやめろ!」
「いや、それで起きねぇかなって」
「やめろ! 命に関わるかもしれないぞ! しなくていい事までするな!」
「えぇ? もう、色々とやってるから良くねぇ? それに、さっきもお前が言ってくれた様に、酷い事は、悪人にしかやらねぇよ」

 ノースが不満そうに口を尖らせる。

(普段はここまでする奴じゃないんだけどな。まあ、相手が相手だからなんだろうな…。しょうがない)

「上手くいくかわからんけど、やってみるか」
「何すんの?」
「氷水をかける」
「え? そんな事やったら、ショック死するかもしれねぇじゃん。お前の考え方の方が怖いわ」
「お前に言われたくない」

 レイブンとノースが埒があかない会話を続けていると、扉が叩かれる音がした。
 レイブンが返事を返すと、中に入ってきたのはアメリアだった。
 魔道士がよく着ているローブではなく、今日は剣を腰に携え、騎士の格好をしていた。

「アメリア!」

 ノースが笑顔になり、アメリアに駆け寄っていくが、片手を伸ばして、アメリアは彼を制止する。

「近寄らないで。命令違反したんでしょう? 命令を守れない人は好きじゃないの」
「つ、冷たい。そんなとこも好きだけど」

(両親と別れて、一人で困っているノースに声を掛けたのが、アメリアなんだよな…。それから、ずっと、ノースはアメリアに片思いしてるけど、アメリアも何だかんだとノースを気にしてるし、この二人の関係もどうなる事やら)

 レイブンは、今、考えなくても良い事を、二人を見ながら、ぼんやりと思った。
 ノースはノースで、アメリアの言葉が本心ではないとわかっているのか、あまり気にしていないようで笑顔だった。

「レイブン様」

 アメリアはノースの言葉には反応せず、レイブンに向かって続ける。

「もう、体調は大丈夫です。凹んでなんていられません。レティア様の護衛に戻らせて下さい」
「アメリア。気持ちはわかるが、たぶん、レティアがまだ納得しない。ゆっくり休めてないだろ」
「ジッとしていられないんです!」
「あー、じゃあさ、こいつ、どうにかしてくれないか?」

 レイブンが気絶しているベーゼフを指差して言うと、アメリアは目を丸くした。
 


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