【完結】もう二度とあなたを選ぶことはありません

風見ゆうみ

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9  自分の願いを叶えるために

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 アルフは無事に婚約破棄ができるまで、近くの宿屋に泊まると言うから、私の家に滞在してもらうことになった。表向きは私のお客様ではなく、カラムのお客様といった形だ。

「毒見役に話をしたことがウロイカ辺境伯に知られたら、僕に言われたことにすればいい」
「ありがとう。あの人は権力に弱い人だから、きっと文句は言えないわ」
 
 今まではこんな言い方はしなかった。だってそれが当たり前だと思っていたんだもの。

 だけど今は違う。レイネ様のためならば、彼は権力なんて関係ない。ただの人殺しよ。
彼に罪を重ねさせるのを止めるのではなく、彼のために犠牲になる人を救おう。
 そう決意を新たにした次の日、私は毒見役の女性と話をした。

 女性は拘置所に収容されており、若い女性のはずなのだが、心労のせいか中年の女性だったかと思うほどやつれてしまっていた。面会は職員が立ち会わなければできないので、話を聞かれてしまうのがネックだが仕方がない。
 
「本当に毒殺するつもりはなかったんですか?」

 まずは当たり障りのない、事実として話されている部分から確認してみた。すると、生気を全く感じられなかったさっきまでとは違い、大きな声で彼女は訴える。

「私は毒なんて入れていません! 怪しいのはガンチャ様です! 珍しいスパイスが手に入ったからと、自分の皿の料理にふりかけたあとに旦那様にお渡ししたのです!」
「その話はしたのよね?」
「もちろんです! でも、ガンチャ様は私のことを嘘つきだと言いました。それは、奥様やロビン様も同じです」
「他にそれを見ていた人はいないの? メイドたちは?」
「……自分たちの身が可愛いのでしょう。私が逆の立場ならそうなってしまうかもしれませんので、気持ちはわからないではないですが」

 女性は大きなため息をついて肩を落とした。

 この人はメイドたちのこともそうだけど、ガンチャたちのことも憎いとは思っていないみたい。

「スパイスが手に入ったと言っていたのね?」
「そうです」

 この話はガンチャからも聞いたことがなかったし、新聞にも載らなかった。もしかしたら、思っている以上にガンチャに手を貸している人がいるのかもしれないわ。

「絶対とは言えないけれど、あなたの無実が証明できるように努力してみるわ」
「ど、どうしてですか? あなたはガンチャ様の婚約者じゃないですか! しかも、もうすぐ結婚なさるのでしょう? 夫が殺人犯だったら、あなたの人生も滅茶苦茶になりますよ!」
「そうよ。だから、そうなる前に動くの」
「え?」

 女性は呆気にとられた顔をしていたけれど、残念ながら今はまだ話すことができない。希望を持たせてあげたいけれど、確実になるまではやめたほうがいい。
 面会室から出ようとした私は、言い忘れていたことがあって足を止めて振り返る。

「一つだけお願いがあるの」
「なんでしょうか」
「どんな圧力があっても嘘はつかないで。あなたが無実ならそうだと言い続けて。少なくともあなたの言葉を信じる人がここにいるから」
「……わかりました」

 間はあったけれど、彼女は真剣な表情で力強くうなずいた。
 その様子を見て、きっと私に言われなくてもそうしていたと思った。

 もしも、拘置所にガンチャの手先、もしくは彼と繋がりのある人間がいたなら、ガンチャは何らかの動きに出るはず。そうなったら、私は余計に彼を疑う理由ができることになる。

 帰りの馬車の中でそう考えていると、予想通り、次の日の朝にはガンチャから連絡が来た。

『父を殺した犯人と会ったそうだな。俺の妻になりたかったんじゃないのか? 俺を裏切るなんて許せない。結婚式は中止だ。君のせいだぞ。このまま調べれば、君との婚約の話もなくなるかもしれないぞ』

 その文面を読んだ時、私は苦笑するしかなかった。

 なぜ態度を変えたのか。それはレイネ様に結婚式を見られたくないから。元々、キマコマ公爵夫妻は招待していたけれど欠席の返事がきていた。
 だけど、私から話を聞いたアルフが、公爵夫妻に話をしてくれたから、急遽、出席したいと連絡を入れてくれたのだ。

 レイネ様が来ないと思っていたガンチャは、結婚式を完全にコピーしようとしていた。だから、本人たちに来られては困るのだ。

 さすがにそんなことをしたら、レイネ様に気持ち悪がられると考えることはできるらしい。

 婚約破棄はまだ無理だけど、とりあえず結婚式の中止を言い出したのは向こうだ。キャンセル料などをこちらの全額負担だとは言い出さないでしょう。もし、そうしろと言ってきたら、レイネ様にそのまま伝えてあげよう。

 それにしても、やはり拘置所の人間とガンチャはつながっている。彼女が口封じされないように、アルフが手を打ってくれたから、そちらは任せよう。

 私ができることをさくさく進めていかないとね。
 
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