9 / 28
9 自分の願いを叶えるために
しおりを挟む
アルフは無事に婚約破棄ができるまで、近くの宿屋に泊まると言うから、私の家に滞在してもらうことになった。表向きは私のお客様ではなく、カラムのお客様といった形だ。
「毒見役に話をしたことがウロイカ辺境伯に知られたら、僕に言われたことにすればいい」
「ありがとう。あの人は権力に弱い人だから、きっと文句は言えないわ」
今まではこんな言い方はしなかった。だってそれが当たり前だと思っていたんだもの。
だけど今は違う。レイネ様のためならば、彼は権力なんて関係ない。ただの人殺しよ。
彼に罪を重ねさせるのを止めるのではなく、彼のために犠牲になる人を救おう。
そう決意を新たにした次の日、私は毒見役の女性と話をした。
女性は拘置所に収容されており、若い女性のはずなのだが、心労のせいか中年の女性だったかと思うほどやつれてしまっていた。面会は職員が立ち会わなければできないので、話を聞かれてしまうのがネックだが仕方がない。
「本当に毒殺するつもりはなかったんですか?」
まずは当たり障りのない、事実として話されている部分から確認してみた。すると、生気を全く感じられなかったさっきまでとは違い、大きな声で彼女は訴える。
「私は毒なんて入れていません! 怪しいのはガンチャ様です! 珍しいスパイスが手に入ったからと、自分の皿の料理にふりかけたあとに旦那様にお渡ししたのです!」
「その話はしたのよね?」
「もちろんです! でも、ガンチャ様は私のことを嘘つきだと言いました。それは、奥様やロビン様も同じです」
「他にそれを見ていた人はいないの? メイドたちは?」
「……自分たちの身が可愛いのでしょう。私が逆の立場ならそうなってしまうかもしれませんので、気持ちはわからないではないですが」
女性は大きなため息をついて肩を落とした。
この人はメイドたちのこともそうだけど、ガンチャたちのことも憎いとは思っていないみたい。
「スパイスが手に入ったと言っていたのね?」
「そうです」
この話はガンチャからも聞いたことがなかったし、新聞にも載らなかった。もしかしたら、思っている以上にガンチャに手を貸している人がいるのかもしれないわ。
「絶対とは言えないけれど、あなたの無実が証明できるように努力してみるわ」
「ど、どうしてですか? あなたはガンチャ様の婚約者じゃないですか! しかも、もうすぐ結婚なさるのでしょう? 夫が殺人犯だったら、あなたの人生も滅茶苦茶になりますよ!」
「そうよ。だから、そうなる前に動くの」
「え?」
女性は呆気にとられた顔をしていたけれど、残念ながら今はまだ話すことができない。希望を持たせてあげたいけれど、確実になるまではやめたほうがいい。
面会室から出ようとした私は、言い忘れていたことがあって足を止めて振り返る。
「一つだけお願いがあるの」
「なんでしょうか」
「どんな圧力があっても嘘はつかないで。あなたが無実ならそうだと言い続けて。少なくともあなたの言葉を信じる人がここにいるから」
「……わかりました」
間はあったけれど、彼女は真剣な表情で力強くうなずいた。
その様子を見て、きっと私に言われなくてもそうしていたと思った。
もしも、拘置所にガンチャの手先、もしくは彼と繋がりのある人間がいたなら、ガンチャは何らかの動きに出るはず。そうなったら、私は余計に彼を疑う理由ができることになる。
帰りの馬車の中でそう考えていると、予想通り、次の日の朝にはガンチャから連絡が来た。
『父を殺した犯人と会ったそうだな。俺の妻になりたかったんじゃないのか? 俺を裏切るなんて許せない。結婚式は中止だ。君のせいだぞ。このまま調べれば、君との婚約の話もなくなるかもしれないぞ』
その文面を読んだ時、私は苦笑するしかなかった。
なぜ態度を変えたのか。それはレイネ様に結婚式を見られたくないから。元々、キマコマ公爵夫妻は招待していたけれど欠席の返事がきていた。
だけど、私から話を聞いたアルフが、公爵夫妻に話をしてくれたから、急遽、出席したいと連絡を入れてくれたのだ。
レイネ様が来ないと思っていたガンチャは、結婚式を完全にコピーしようとしていた。だから、本人たちに来られては困るのだ。
さすがにそんなことをしたら、レイネ様に気持ち悪がられると考えることはできるらしい。
婚約破棄はまだ無理だけど、とりあえず結婚式の中止を言い出したのは向こうだ。キャンセル料などをこちらの全額負担だとは言い出さないでしょう。もし、そうしろと言ってきたら、レイネ様にそのまま伝えてあげよう。
それにしても、やはり拘置所の人間とガンチャはつながっている。彼女が口封じされないように、アルフが手を打ってくれたから、そちらは任せよう。
私ができることをさくさく進めていかないとね。
「毒見役に話をしたことがウロイカ辺境伯に知られたら、僕に言われたことにすればいい」
「ありがとう。あの人は権力に弱い人だから、きっと文句は言えないわ」
今まではこんな言い方はしなかった。だってそれが当たり前だと思っていたんだもの。
だけど今は違う。レイネ様のためならば、彼は権力なんて関係ない。ただの人殺しよ。
彼に罪を重ねさせるのを止めるのではなく、彼のために犠牲になる人を救おう。
そう決意を新たにした次の日、私は毒見役の女性と話をした。
女性は拘置所に収容されており、若い女性のはずなのだが、心労のせいか中年の女性だったかと思うほどやつれてしまっていた。面会は職員が立ち会わなければできないので、話を聞かれてしまうのがネックだが仕方がない。
「本当に毒殺するつもりはなかったんですか?」
まずは当たり障りのない、事実として話されている部分から確認してみた。すると、生気を全く感じられなかったさっきまでとは違い、大きな声で彼女は訴える。
「私は毒なんて入れていません! 怪しいのはガンチャ様です! 珍しいスパイスが手に入ったからと、自分の皿の料理にふりかけたあとに旦那様にお渡ししたのです!」
「その話はしたのよね?」
「もちろんです! でも、ガンチャ様は私のことを嘘つきだと言いました。それは、奥様やロビン様も同じです」
「他にそれを見ていた人はいないの? メイドたちは?」
「……自分たちの身が可愛いのでしょう。私が逆の立場ならそうなってしまうかもしれませんので、気持ちはわからないではないですが」
女性は大きなため息をついて肩を落とした。
この人はメイドたちのこともそうだけど、ガンチャたちのことも憎いとは思っていないみたい。
「スパイスが手に入ったと言っていたのね?」
「そうです」
この話はガンチャからも聞いたことがなかったし、新聞にも載らなかった。もしかしたら、思っている以上にガンチャに手を貸している人がいるのかもしれないわ。
「絶対とは言えないけれど、あなたの無実が証明できるように努力してみるわ」
「ど、どうしてですか? あなたはガンチャ様の婚約者じゃないですか! しかも、もうすぐ結婚なさるのでしょう? 夫が殺人犯だったら、あなたの人生も滅茶苦茶になりますよ!」
「そうよ。だから、そうなる前に動くの」
「え?」
女性は呆気にとられた顔をしていたけれど、残念ながら今はまだ話すことができない。希望を持たせてあげたいけれど、確実になるまではやめたほうがいい。
面会室から出ようとした私は、言い忘れていたことがあって足を止めて振り返る。
「一つだけお願いがあるの」
「なんでしょうか」
「どんな圧力があっても嘘はつかないで。あなたが無実ならそうだと言い続けて。少なくともあなたの言葉を信じる人がここにいるから」
「……わかりました」
間はあったけれど、彼女は真剣な表情で力強くうなずいた。
その様子を見て、きっと私に言われなくてもそうしていたと思った。
もしも、拘置所にガンチャの手先、もしくは彼と繋がりのある人間がいたなら、ガンチャは何らかの動きに出るはず。そうなったら、私は余計に彼を疑う理由ができることになる。
帰りの馬車の中でそう考えていると、予想通り、次の日の朝にはガンチャから連絡が来た。
『父を殺した犯人と会ったそうだな。俺の妻になりたかったんじゃないのか? 俺を裏切るなんて許せない。結婚式は中止だ。君のせいだぞ。このまま調べれば、君との婚約の話もなくなるかもしれないぞ』
その文面を読んだ時、私は苦笑するしかなかった。
なぜ態度を変えたのか。それはレイネ様に結婚式を見られたくないから。元々、キマコマ公爵夫妻は招待していたけれど欠席の返事がきていた。
だけど、私から話を聞いたアルフが、公爵夫妻に話をしてくれたから、急遽、出席したいと連絡を入れてくれたのだ。
レイネ様が来ないと思っていたガンチャは、結婚式を完全にコピーしようとしていた。だから、本人たちに来られては困るのだ。
さすがにそんなことをしたら、レイネ様に気持ち悪がられると考えることはできるらしい。
婚約破棄はまだ無理だけど、とりあえず結婚式の中止を言い出したのは向こうだ。キャンセル料などをこちらの全額負担だとは言い出さないでしょう。もし、そうしろと言ってきたら、レイネ様にそのまま伝えてあげよう。
それにしても、やはり拘置所の人間とガンチャはつながっている。彼女が口封じされないように、アルフが手を打ってくれたから、そちらは任せよう。
私ができることをさくさく進めていかないとね。
1,928
あなたにおすすめの小説
無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う
佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。
それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。
セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。
すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。
一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。
「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」
執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。
誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)
蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。
聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。
愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。
いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。
ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。
それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。
心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。
婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。
婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。
排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。
今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。
前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。
テンテン
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる