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12 彼らの願いは叶わない ③(アリアナ死後〜流星群の日まで)
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「お騒がせしてしまって申し訳ない。ただ、誰かに話を聞いてほしかっただけなんです」
ガンチャが謝ると、金色の長い髪を揺らしながらレタはガンチャに近づく。
「どうして私の妻を指定したんだ」
「レ、レイネ様とは知り合いですし、お優しいことは有名です。こんな時間でも聞いてくださるのではないかと思ったのです」
ガンチャはここまで物事が大きくなるとは思っていなかった。宿のセキュリティのことを気にはしていたが、アルフたちにまで連絡がいくとは思っていなかった。
「それよりもどうしてお二人はこちらにいらっしゃったのですか?」
ガンチャが尋ねると、アルフは呆れた顔をして答える。
「普通に宿屋に来ればいいものを、そんな格好で来るから騎士だって不審人物だと思って警戒するよね」
「そ、そうでしたか……」
誰かに見られては困ると思って、フードを目深に被っていたのが、余計に目立ってしまっていたことに気づき、ガンチャは唇を噛んだ。
「この時間に来ること自体、非常識だよ。慰めてもらいたいなら自分の家族に慰めてもらえばいいだろう?」
「そ、それは……、そうかもしれませんが、か、家族も落ち込んでいるのです。それで、レイネ様を頼って……」
ガンチャがたどたどしく答えると、アルフはレタに尋ねる。
「夫人は彼とは知り合いではないはずだよね?」
「ああ。彼女は私たちと違って優しいから口にはしないが、ウロイカ辺境伯のことを気持ち悪がっている」
「そんな! それは間違いです!」
アルフとレタの会話にガンチャは割って入ると、必死に訴える。
「私とレイネ様は嗜好が似ているのです。そのため、色々なお店で顔を合わせ、そのたびに会話をしています!」
「……たとえば、どんな店でたまたま出会うの?」
アルフに問いかけられ、ガンチャは嬉しそうに話し始める。
「観光地のカフェなどもそうですが、ティールームやレストラン、それに宝石店、靴屋でもお会いしました。ティールームでは何度も隣のテーブルに座らせていただきましたよ」
「その時はアリアナもいたの?」
「……あ、いえ。私一人です。アリアナは、出かけるのか好きではなく」
「嘘をつくなよ。アリアナはじっとしていられないタイプで、外に出ることは大好きだったはずだ」
アルフに否定されたガンチャは返答に困った。まさか、アリアナに内緒でレイネに会いに行っていたのだと、この場で言えるはずがない。落ち着きがなくなったガンチャが、お守りにしているレイネのハンカチを、スラックスのポケットから取り出した時だった。
彼の頭の中に閃いたことがあった。
「こ、これを見てください! レイネ様からいただいたものです」
そう言って、ガンチャが二人の前に差し出したのは、四隅に青い小花が刺繍されている白いハンカチだった。
「これは……、以前、彼女が持っていたものだが」
レタはガンチャの手からハンカチを奪い取って冷笑する。
「これが妻のものか確認させてもらう。それから、どんな理由があっても夜の遅い時間に妻を家族以外の男と会わせるつもりはない。誰かさんの可哀想な妻のようになっては困るからな」
「そ、そんな! 明日には返していただけますか!?」
「……返すかどうかは彼女に確認する」
レタはそう言うと、ガンチャに背を向けて歩き出した。アルフも呆然としているガンチャに「もう帰れよ」とだけ告げてその場を去っていく。
「明日の朝に来ますから、その時は返してください!」
ガンチャはそう叫んだが、ハンカチは彼の元に返されることはなかった。というのも、レイネが気づかないうちに落としたハンカチをガンチャが拾い、自分のものにしていただけだったからだ。
レイネからその話を聞き、アルフは決意を口にする。
「彼は流星群の日に、君の妻と結婚することを願うだろうね。その願いが叶えてもらえるとは思えないが、そんな希望を持たせてやる必要はない。彼や彼の家族には絶望を味わってもらう」
「どうするつもりなんだ?」
「願いを叶えてもらうには、流星群を観なければならないんだ。ということは、観ることのできない状態にすればいい」
レタに問いかけられたアルフは、笑顔で答えた。
ガンチャが謝ると、金色の長い髪を揺らしながらレタはガンチャに近づく。
「どうして私の妻を指定したんだ」
「レ、レイネ様とは知り合いですし、お優しいことは有名です。こんな時間でも聞いてくださるのではないかと思ったのです」
ガンチャはここまで物事が大きくなるとは思っていなかった。宿のセキュリティのことを気にはしていたが、アルフたちにまで連絡がいくとは思っていなかった。
「それよりもどうしてお二人はこちらにいらっしゃったのですか?」
ガンチャが尋ねると、アルフは呆れた顔をして答える。
「普通に宿屋に来ればいいものを、そんな格好で来るから騎士だって不審人物だと思って警戒するよね」
「そ、そうでしたか……」
誰かに見られては困ると思って、フードを目深に被っていたのが、余計に目立ってしまっていたことに気づき、ガンチャは唇を噛んだ。
「この時間に来ること自体、非常識だよ。慰めてもらいたいなら自分の家族に慰めてもらえばいいだろう?」
「そ、それは……、そうかもしれませんが、か、家族も落ち込んでいるのです。それで、レイネ様を頼って……」
ガンチャがたどたどしく答えると、アルフはレタに尋ねる。
「夫人は彼とは知り合いではないはずだよね?」
「ああ。彼女は私たちと違って優しいから口にはしないが、ウロイカ辺境伯のことを気持ち悪がっている」
「そんな! それは間違いです!」
アルフとレタの会話にガンチャは割って入ると、必死に訴える。
「私とレイネ様は嗜好が似ているのです。そのため、色々なお店で顔を合わせ、そのたびに会話をしています!」
「……たとえば、どんな店でたまたま出会うの?」
アルフに問いかけられ、ガンチャは嬉しそうに話し始める。
「観光地のカフェなどもそうですが、ティールームやレストラン、それに宝石店、靴屋でもお会いしました。ティールームでは何度も隣のテーブルに座らせていただきましたよ」
「その時はアリアナもいたの?」
「……あ、いえ。私一人です。アリアナは、出かけるのか好きではなく」
「嘘をつくなよ。アリアナはじっとしていられないタイプで、外に出ることは大好きだったはずだ」
アルフに否定されたガンチャは返答に困った。まさか、アリアナに内緒でレイネに会いに行っていたのだと、この場で言えるはずがない。落ち着きがなくなったガンチャが、お守りにしているレイネのハンカチを、スラックスのポケットから取り出した時だった。
彼の頭の中に閃いたことがあった。
「こ、これを見てください! レイネ様からいただいたものです」
そう言って、ガンチャが二人の前に差し出したのは、四隅に青い小花が刺繍されている白いハンカチだった。
「これは……、以前、彼女が持っていたものだが」
レタはガンチャの手からハンカチを奪い取って冷笑する。
「これが妻のものか確認させてもらう。それから、どんな理由があっても夜の遅い時間に妻を家族以外の男と会わせるつもりはない。誰かさんの可哀想な妻のようになっては困るからな」
「そ、そんな! 明日には返していただけますか!?」
「……返すかどうかは彼女に確認する」
レタはそう言うと、ガンチャに背を向けて歩き出した。アルフも呆然としているガンチャに「もう帰れよ」とだけ告げてその場を去っていく。
「明日の朝に来ますから、その時は返してください!」
ガンチャはそう叫んだが、ハンカチは彼の元に返されることはなかった。というのも、レイネが気づかないうちに落としたハンカチをガンチャが拾い、自分のものにしていただけだったからだ。
レイネからその話を聞き、アルフは決意を口にする。
「彼は流星群の日に、君の妻と結婚することを願うだろうね。その願いが叶えてもらえるとは思えないが、そんな希望を持たせてやる必要はない。彼や彼の家族には絶望を味わってもらう」
「どうするつもりなんだ?」
「願いを叶えてもらうには、流星群を観なければならないんだ。ということは、観ることのできない状態にすればいい」
レタに問いかけられたアルフは、笑顔で答えた。
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