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13 婚約者の願いが婚約破棄に変わるまで ①
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※ アリアナ視点に戻ります。
「渡した覚えのないハンカチを自分にくれたと言っていたんですか?」
「……そうなんです。侍女たちも私が落としたことは気がついていなかったようで、その時になって紛失したハンカチが、ウロイカ辺境伯の手にあったのだと知ったのです」
信じられない。拾ったハンカチ、もしくはどうにかして盗んだハンカチをレイネ様からもらったことにしていたってことよね?
私がレイネ様だったらそんなハンカチは捨ててしまいたくなるけど――。
「結局、ハンカチはどうされたのでしょうか」
「捨てようかと思っていたのですが、捨てるくらいなら洗って娘さんにプレゼントしたいと庭師が言うので渡しました」
「そうでしたか。ガンチャのせいでまだ使えるものを捨てるのはもったいないですものね」
庭師にしてみれば、貴族が使っているハンカチは高価なものだろうし、変態が奪ったものだったとしても気にならないのかもしれない。
……自分の現在の婚約者を変態と思えるようになったのは良いことなのか。それとも悲しいことなのか。
「……ショックですわよね」
私が黙り込んだからか、レイネ様が肩を落として言った。
「ショックというよりも、レイネ様に申し訳ない気持ちで一杯です」
「そんな! アリアナ様は何も悪くないですわ」
レイネ様は公爵夫人だし、私に様という敬称はいらないのだが、伯爵令嬢時代の癖なのか、それとも彼女の性格なのか。
私も心が広い人物になりたいわ。……ガンチャたちは絶対に許さないけど。
「悪くないなんてことはありません。ガンチャのことを好きだったのに、彼がレイネ様に不快な思いをさせていることに、まったく気がついていませんでした」
「ウロイカ辺境伯は、アリアナ様の予定を確認してから動いていたのです。誰かがあなたに伝えない限り、知らなくても当然ですわ。そして、伝えなかった私が悪いのです」
「私はレイネ様を悪いだなんて思いません。あなたは被害者ですもの。見ていてください。ガンチャをあなたから絶対に遠ざけてみせますから」
「アリアナ様、私のことはお気になさらず、自分のことを考えてくださいませ」
私とレイネ様はお互いにお互いを思う言葉をかけあったあと、これからは友人として連絡を取り合っていこうと話をした。
そして、その日の夜、ガンチャから手紙が届いた。
『レイネが来ていたようだけど、何があったんだ? 結婚式が延期になった話のことか? 余計なことを言っていないだろうな』
「私たちの前ではレイネって呼び捨てにしているけど、これも自分が彼女と仲が良いからという妄想なのよね?」
手紙を手でひらひらと弄びながら、破いてしまおうか、それとも焼いてしまおうか迷う。
あ、そうだわ。レイネ様の分もやり返すと決めたのよ。ガンチャの考え方を参考にして返事を書きましょう。
そう考えた、私はこう返事をした。
『どうして私がレイネ様と会ったことを知っているの? まさか、私の行動を調べているの? 私の一挙一動が気になるくらい私のことが好きなのね。あなたからの気持ちへのお返しに私もあなたの行動を調べて、あなたの行く先々に現れるようにするわね』
これに対して『何を気持ち悪いことを言っているんだ?』『それよりも質問に答えろ』『俺のことは放っておいてくれ』などと書かれた返事がきた。彼からの質問に答えるために、私はガンチャの行動を調べた。
レイネ様のお気に入りのティールームに通い、そこで書類仕事をしていると知った私は、早速押しかけることにした。
店に迷惑をかけてはいけないので連絡を事前に入れておくと、店員たちもガンチャのことを気持ち悪がっていたことがわかった。
そして、その中にお手洗いから出てきたレイネ様がハンカチを落とし、それをガンチャが拾って頬に当てているところを目撃していた人物がいた。
ガンチャに返すように伝える、もしくはレイネ様に伝えようかと思ったが、ガンチャに逆恨みされるのが怖くて言えなかったそうだ。
私としては店員を責める気にはなれない。だって、ハンカチのことを話していたら、ガンチャは目撃者である店員を邪魔者として排除しようとしたかもしれないもの。
「気持ち悪い男との婚約破棄大作戦を決行するわ!」
心配だと言って付いてきてくれたアルフにそう宣言したあと、私はレイネ様のお気に入りのテラス席に座っているガンチャの元へ向かおうとすると、店員に止められた。
「今日はご家族も来られているのですが、よろしいですか?」
「かまいません」
そう言って近づこうとした時、ロビンの笑い声が聞こえてきた。
テラス席にはガンチャたちしかおらず、誰も自分たちの話を聞いているなんて考えてもいないようだった。
「お兄様がアリアナさんの一挙一動が気になるくらい好きですって? 結婚式が中止になったショックでアリアナさんはおかしくなっているんじゃないかしら。これなら、流星群の日にアリアナさんに死んでほしいと願わなくてもいいかもね!」
「おい、声が大きいぞ」
ガンチャが周りを見回す前に、慌ててしゃがんで長いテーブルクロスが敷かれたテーブルの下に隠れたけれど、店員は立ち尽くしたままだった。ガンチャが立ち上がると、店員は急いでテラス席まで走っていき「申し訳ございません」と謝る。
「立ち聞きしていたわけではなないのです」
「あなた、いつから人の話を聞いていたの?」
ロビンが冷たい口調で尋ねる。
聞きたくなくても聞こえるような大きな声で話しておいて、よくもまあそんなことを言えるものだわ。聞いていたことはバレたくないけど、彼女を見捨てるわけにもいかない。
そう思った時、足音が近づいてきた。
「ウロイカ辺境伯、こんな所で会うなんて奇遇だね」
足音の主はアルフだった。
「渡した覚えのないハンカチを自分にくれたと言っていたんですか?」
「……そうなんです。侍女たちも私が落としたことは気がついていなかったようで、その時になって紛失したハンカチが、ウロイカ辺境伯の手にあったのだと知ったのです」
信じられない。拾ったハンカチ、もしくはどうにかして盗んだハンカチをレイネ様からもらったことにしていたってことよね?
私がレイネ様だったらそんなハンカチは捨ててしまいたくなるけど――。
「結局、ハンカチはどうされたのでしょうか」
「捨てようかと思っていたのですが、捨てるくらいなら洗って娘さんにプレゼントしたいと庭師が言うので渡しました」
「そうでしたか。ガンチャのせいでまだ使えるものを捨てるのはもったいないですものね」
庭師にしてみれば、貴族が使っているハンカチは高価なものだろうし、変態が奪ったものだったとしても気にならないのかもしれない。
……自分の現在の婚約者を変態と思えるようになったのは良いことなのか。それとも悲しいことなのか。
「……ショックですわよね」
私が黙り込んだからか、レイネ様が肩を落として言った。
「ショックというよりも、レイネ様に申し訳ない気持ちで一杯です」
「そんな! アリアナ様は何も悪くないですわ」
レイネ様は公爵夫人だし、私に様という敬称はいらないのだが、伯爵令嬢時代の癖なのか、それとも彼女の性格なのか。
私も心が広い人物になりたいわ。……ガンチャたちは絶対に許さないけど。
「悪くないなんてことはありません。ガンチャのことを好きだったのに、彼がレイネ様に不快な思いをさせていることに、まったく気がついていませんでした」
「ウロイカ辺境伯は、アリアナ様の予定を確認してから動いていたのです。誰かがあなたに伝えない限り、知らなくても当然ですわ。そして、伝えなかった私が悪いのです」
「私はレイネ様を悪いだなんて思いません。あなたは被害者ですもの。見ていてください。ガンチャをあなたから絶対に遠ざけてみせますから」
「アリアナ様、私のことはお気になさらず、自分のことを考えてくださいませ」
私とレイネ様はお互いにお互いを思う言葉をかけあったあと、これからは友人として連絡を取り合っていこうと話をした。
そして、その日の夜、ガンチャから手紙が届いた。
『レイネが来ていたようだけど、何があったんだ? 結婚式が延期になった話のことか? 余計なことを言っていないだろうな』
「私たちの前ではレイネって呼び捨てにしているけど、これも自分が彼女と仲が良いからという妄想なのよね?」
手紙を手でひらひらと弄びながら、破いてしまおうか、それとも焼いてしまおうか迷う。
あ、そうだわ。レイネ様の分もやり返すと決めたのよ。ガンチャの考え方を参考にして返事を書きましょう。
そう考えた、私はこう返事をした。
『どうして私がレイネ様と会ったことを知っているの? まさか、私の行動を調べているの? 私の一挙一動が気になるくらい私のことが好きなのね。あなたからの気持ちへのお返しに私もあなたの行動を調べて、あなたの行く先々に現れるようにするわね』
これに対して『何を気持ち悪いことを言っているんだ?』『それよりも質問に答えろ』『俺のことは放っておいてくれ』などと書かれた返事がきた。彼からの質問に答えるために、私はガンチャの行動を調べた。
レイネ様のお気に入りのティールームに通い、そこで書類仕事をしていると知った私は、早速押しかけることにした。
店に迷惑をかけてはいけないので連絡を事前に入れておくと、店員たちもガンチャのことを気持ち悪がっていたことがわかった。
そして、その中にお手洗いから出てきたレイネ様がハンカチを落とし、それをガンチャが拾って頬に当てているところを目撃していた人物がいた。
ガンチャに返すように伝える、もしくはレイネ様に伝えようかと思ったが、ガンチャに逆恨みされるのが怖くて言えなかったそうだ。
私としては店員を責める気にはなれない。だって、ハンカチのことを話していたら、ガンチャは目撃者である店員を邪魔者として排除しようとしたかもしれないもの。
「気持ち悪い男との婚約破棄大作戦を決行するわ!」
心配だと言って付いてきてくれたアルフにそう宣言したあと、私はレイネ様のお気に入りのテラス席に座っているガンチャの元へ向かおうとすると、店員に止められた。
「今日はご家族も来られているのですが、よろしいですか?」
「かまいません」
そう言って近づこうとした時、ロビンの笑い声が聞こえてきた。
テラス席にはガンチャたちしかおらず、誰も自分たちの話を聞いているなんて考えてもいないようだった。
「お兄様がアリアナさんの一挙一動が気になるくらい好きですって? 結婚式が中止になったショックでアリアナさんはおかしくなっているんじゃないかしら。これなら、流星群の日にアリアナさんに死んでほしいと願わなくてもいいかもね!」
「おい、声が大きいぞ」
ガンチャが周りを見回す前に、慌ててしゃがんで長いテーブルクロスが敷かれたテーブルの下に隠れたけれど、店員は立ち尽くしたままだった。ガンチャが立ち上がると、店員は急いでテラス席まで走っていき「申し訳ございません」と謝る。
「立ち聞きしていたわけではなないのです」
「あなた、いつから人の話を聞いていたの?」
ロビンが冷たい口調で尋ねる。
聞きたくなくても聞こえるような大きな声で話しておいて、よくもまあそんなことを言えるものだわ。聞いていたことはバレたくないけど、彼女を見捨てるわけにもいかない。
そう思った時、足音が近づいてきた。
「ウロイカ辺境伯、こんな所で会うなんて奇遇だね」
足音の主はアルフだった。
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