【完結】もう二度とあなたを選ぶことはありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
15 / 28

15 婚約者の願いが婚約破棄に変わるまで ③

しおりを挟む
「アリアナさん、一体どうしたの?」

 言葉をなくしているガンチャの代わりに、ロビンが苦笑して私に尋ねた。

「どうしたもこうしたもないわ。彼への愛を伝えているだけよ」
「運命の人だなんて、くさいセリフすぎて引いてしまうわ。恋愛小説の読みすぎじゃないかしら」

 可愛がっている妹から、自分がいつもレイネ様に言っているセリフをくさいと言われてしまい、羞恥心でガンチャの耳が赤くなるのがわかった。

「あら、そう? ねぇ、ガンチャはどう思う? くさいセリフだと思う?」

 わざとらしく話題を振ると、不機嫌そうに彼は答える。 

「……アリアナが俺を好きなことなんて、もうわかっているから、いちいち愛情表現をしてくれなくてもいいよ」

 ガンチャは私とは一切目を合わさずに言った。

 好きでもない人間に言われて嫌になる気持ちが少しはわかってくれたかしら。

「どうして? 結婚式が中止になったのよ? これくらい言ってもいいんじゃないかしら」

 ガンチャはレイネ様から『私が愛しているのはレタ様だけです。あなたのことなど興味はありませんわ』とはっきり言われているにも拘らず、遠回しに愛を伝え続けていた。
 まあ、これがひどくなりすぎて、先代の辺境伯に止められたのよね。

 人の恋路を邪魔するのは良くないと聞いたことがあるけれど、ガンチャの場合は横恋慕しているだけ。迷惑なことこの上ないわ。

「式を中止にしたのは、君が余計なことをしようとしたからだろ。大体、この店は君の家からかなり離れている。それなのにどうしているんだよ」
「ガンチャがここに来ていると知ったから。あなたの家だって、ここから離れているわよね? だから、仕事を持ち歩いてまでここに来ているのでしょう?」

 レイネ様のお気に入りのこの店は、私のお父様が管理する南の辺境伯領にある。キマコマ公爵領と隣接している場所に近いため、レイネ様はここに何度も足を運んでいる。この店の紅茶をとても気に入っているそうで、同じ茶葉を取り寄せて試してはいるけれど、公爵家の使用人では同じ味が出せないらしい。

 ちなみに蒸らす時間やブレンドしている配分については、お店の企業秘密なんだそう。私はここに足を運ぶのは初めてだから、ガンチャとの話を終えたら、アルフと一緒にお茶でもしようかしら。

「それよりもアリアナ、君は気をつけたほうがいい」
「……どうしたの?」
「この二人は君を殺そうとしているみたいだよ」
「なんですって?」

 アルフに聞き返してから、私はわざとらしくならないように気をつけて話す。

「ガンチャたちが私を殺すなんてありえないわ。だって、ガンチャは私のことが大好きなのよ。ロビンだって、私と仲良くしてくれているわ」
「でも、店内に誰もいないと思ったのか、大きな声で話をしていたんだよ。聞き間違いじゃない」
「大きな声で話をしていた? まさか。そんな話を大声でするほど、ガンチャもロビンも馬鹿じゃないわよ」

 私が笑うと、実際に話をしていたロビンは私を睨みつけてきた。私は驚いたふりをして尋ねる。

「どうかした? そんなに怒らなくてもいいじゃない。まさか、本当に私を殺そうとしていたの? やっぱり、先代の辺境伯が毒殺されたのは」

 私が言い終える前に、激昂したガンチャが叫ぶ。

「いい加減にしろ! 今すぐにその口を閉じろ! それができないなら」

 ガンチャが私の首に右手を伸ばそうとした。私が避ける前に、アルフがガンチャの腕を掴んで捻り上げる。

「いっ! アルフレッド様! 何をするんですか!?」
「目の前で暴力をふるおうとしている奴を見たんだ。止めて当たり前じゃないか?」
「……どうしてっ」
「もしかして、僕が子供の頃のように弱いままだと思っていたのかな。あれから何年経ったと思っているんだ。僕だって成長しているよ」

 アルフに失笑されたガンチャは、アルフの手から逃れようとしたけれど、力では勝てないようだった。
 
 アルフがこんなに強くなっていたなんて知らなかった。

 目を瞬かせていると、アルフが私を見つめた。

 そうだわ。今は、そんなことを考えている場合じゃない。

「ガンチャ、あなたは気に入らないことがあったら暴力をふるう人なのね」
「……アリアナが悪いんだろう!」
「あのね、苛立ったからといって暴力をふるってもいいことにならないの」

 私はガンチャに冷たい視線を向けて続ける。

「今、あなたのお父様を毒殺した毒見役がどうやって毒を仕入れたか調べているの。騎士隊もおかしいと思っていたみたいだけど、何者かから圧力をかけられて詳しく調べられなかったそうなのよ」
「アリアナ! そのことには触れるなと言っただろう! 婚約破棄されたいのか!?」
「調べ続けたら、婚約を破棄されてしまうの?」
「そうだ! 俺のことを愛しているくせに信じない婚約者なんていらないんだよ!」
「……そんな」

 動揺した様子を見せると、ガンチャの顔に笑みが浮かぶ。

「アリアナ、もういいだろ。アルフレッド様、手を放していただけませんか」

 アルフが無言で手を放すと、ガンチャは肩を押さえながらにやりと笑う。

「アリアナ、従順にしておけば悪いようにはしない。だから、もう父の件は忘れるんだ」
「嫌よ」
「……は?」
「私は真実が知りたいの。調べることをやめたりなんかしない。婚約を破棄するならお好きにどうぞ」

 ガンチャだけでなく、ロビンまでもが目を見開いたまま動きを止めた。


しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

無関心夫の手を離した公爵夫人は、異国の地で運命の香りと出会う

佐原香奈
恋愛
建国祭の夜、冷徹な公爵セドリック・グランチェスターは、妻セレスティーヌを舞踏会に残し、早々に会場を後にした。 それが、必死に縋り付いていた妻が、手を離す決意をさせたとも知らず、夜中まで仕事のことしか考えていなかった。 セドリックが帰宅すると、屋敷に残されていたのは、一通の離縁届と脱ぎ捨てられた絹の靴。そして、彼女が置いていった嗅いだことのない白檀の香りだけだった。 すべてを捨てて貿易都市カリアへ渡った彼女は、名もなき調香師「セレス」として覚醒する。 一方、消えた妻を追うセドリックの手元に届いたのは、かつての冷たい香りとは似て非なる、温かな光を宿した白檀の香水。 「これは、彼女の復讐か、それとも再生か——」 執念に駆られ、見知らぬ地へ降り立った公爵が目にしたのは、異国の貿易王の隣で、誰よりも自由に、見たこともない笑顔で微笑む「他人」となった妻の姿だった。 誤字、修正漏れ教えてくださってありがとうございます!

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。

テンテン
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

処理中です...