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22 公爵令息の密かな願い
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我が家の警備兵や護衛たちがガンチャを追い払ってくれたので、すぐに静かにはなった。
お父様の執務室から出て、私を部屋まで送ってくれるというアルフに話しかける。
「レイネ様に付きまとっていた時もそうだけど、ガンチャはちゃんと仕事はできているのかしら。領民が気の毒だわ」
「書類仕事は持ち歩いているみたいだよ。彼の行動は理解できないけど、デスクワークが苦手とかかもしれないな」
「だから気を紛らわせながら仕事してるってこと?」
「わからないけどね。それに今まで彼が仕事を持ち歩いていた一番の理由は、キマコマ公爵夫人に会うことだったろうし」
「でも、今はレイネ様には接近できないはずよ。もし、近づいたら問答無用で辺境伯の爵位を剥奪すると通達されたのでしょう?」
レタ様は国王陛下の甥っ子なので、国王陛下と連絡が取りやすい。だから、話を聞いた国王陛下はすぐに動いてくれたというわけだ。
この話だけ聞けば、レイネ様がもっと早くに伝えていれば……と思う人もいるかもしれない。だけど、時間が巻き戻る前に、レタ様に伝えていたとしても、国王陛下に相談はしなかったと思われる。
すぐに相談したのは、私が殺されたことを知っているからだ。
レイネ様への付きまとい行為だけであるならば、自分が彼女を守ればいい。でも、ガンチャの場合はそのためには人をも殺めるという残忍性がある。
国王陛下には私が殺された話ではなく、先代のウロイカ辺境伯の話をされたようで、国王陛下も事態を重く受け止めてくれたそうだった。
「そうだけど、今、彼が付きまとっているのはキマコマ公爵夫人じゃない」
「……そっか。相手は私ね」
「そうなんだ。キマコマ公爵夫人に対する接近禁止命令は王家から出た。君の場合は騎士隊からしか出ない可能性が高い」
「それはそうね。私と彼は元婚約者同士だったし、今はお互いにフリーだもの」
私の部屋の前まで来たので足を止めると、アルフは微笑む。
「鬱陶しいかもしれないけれど、先代の件が片付くまではここに滞在するよ」
「私としてはずっといてもらってもかまわないわ」
「えっ?」
驚いた表情のアルフに、私は自分の部屋の扉を開けて促す。
「もう少し話せない? あなたに確認したいことがあるの」
「かまわないけど……」
明らかに動揺しているアルフを見て、昔の大人しかった彼を思い出して、つい笑みがこぼれる。
「どうして笑っているんだよ」
「アルフはアルフのままなんだなって思ったの」
「どういう意味?」
「さあさあ、ちゃんと話をするから、大人しく中に入って」
彼の背中を押して、私は部屋の中に入った。
◇◆◇◆◇◆
※視点が変わります。
「「どうだった?」」
ガンチャが昨日から泊まっていた宿屋に戻ると、駆け寄ってきたのはロビンと母親だった。部屋で待っているように伝えていたが、落ち着かず、ずっとロビーで待っていたのだ。
「駄目だ。会わせてももらえない。きっと、アルフレッド様が邪魔しているんだ」
「公爵令息だからって、人の恋路を邪魔していいわけがないわ!」
ロビンは憤慨しながら続ける。
「アリアナさんで妥協してあげようとしているのよ! こんなチャンスは二度とない! それなのに、アリアナさんも何をおとなしくアルフレッド様に従っているの!?」
ロビンの本音は、自分の相手をアルフレッドにしたいだけなのだが、ガンチャの前では兄のことを思っているふりをしていた。
「嫁がいなければ跡継ぎができないわ。頭を下げてでも、アリアナさんに婚約者に戻ってもらいましょう。あんな子でもいないよりかはマシよ。それに、手元に置いておけば、主人の件を調べるのもやめるでしょう」
ガンチャの母は、扇で口元を隠しながら、冷ややかな笑みを浮かべる。
「そうだ。アリアナには何としてでも俺の所へ戻ってきてもらう。あんなにも俺のことが好きだったんだ。そんなに簡単に諦められるはずがない」
「でも、連絡を取ることもできないわよ」
「大丈夫ですよ、母上。許してくれなければ死ぬとパフォーマンスをしてやります。あの女は俺を愛していますから、どんなことがあっても目の前に現れるはずです」
ガンチャは勝ちを確信するように、自信満々の笑みを浮かべた。
お父様の執務室から出て、私を部屋まで送ってくれるというアルフに話しかける。
「レイネ様に付きまとっていた時もそうだけど、ガンチャはちゃんと仕事はできているのかしら。領民が気の毒だわ」
「書類仕事は持ち歩いているみたいだよ。彼の行動は理解できないけど、デスクワークが苦手とかかもしれないな」
「だから気を紛らわせながら仕事してるってこと?」
「わからないけどね。それに今まで彼が仕事を持ち歩いていた一番の理由は、キマコマ公爵夫人に会うことだったろうし」
「でも、今はレイネ様には接近できないはずよ。もし、近づいたら問答無用で辺境伯の爵位を剥奪すると通達されたのでしょう?」
レタ様は国王陛下の甥っ子なので、国王陛下と連絡が取りやすい。だから、話を聞いた国王陛下はすぐに動いてくれたというわけだ。
この話だけ聞けば、レイネ様がもっと早くに伝えていれば……と思う人もいるかもしれない。だけど、時間が巻き戻る前に、レタ様に伝えていたとしても、国王陛下に相談はしなかったと思われる。
すぐに相談したのは、私が殺されたことを知っているからだ。
レイネ様への付きまとい行為だけであるならば、自分が彼女を守ればいい。でも、ガンチャの場合はそのためには人をも殺めるという残忍性がある。
国王陛下には私が殺された話ではなく、先代のウロイカ辺境伯の話をされたようで、国王陛下も事態を重く受け止めてくれたそうだった。
「そうだけど、今、彼が付きまとっているのはキマコマ公爵夫人じゃない」
「……そっか。相手は私ね」
「そうなんだ。キマコマ公爵夫人に対する接近禁止命令は王家から出た。君の場合は騎士隊からしか出ない可能性が高い」
「それはそうね。私と彼は元婚約者同士だったし、今はお互いにフリーだもの」
私の部屋の前まで来たので足を止めると、アルフは微笑む。
「鬱陶しいかもしれないけれど、先代の件が片付くまではここに滞在するよ」
「私としてはずっといてもらってもかまわないわ」
「えっ?」
驚いた表情のアルフに、私は自分の部屋の扉を開けて促す。
「もう少し話せない? あなたに確認したいことがあるの」
「かまわないけど……」
明らかに動揺しているアルフを見て、昔の大人しかった彼を思い出して、つい笑みがこぼれる。
「どうして笑っているんだよ」
「アルフはアルフのままなんだなって思ったの」
「どういう意味?」
「さあさあ、ちゃんと話をするから、大人しく中に入って」
彼の背中を押して、私は部屋の中に入った。
◇◆◇◆◇◆
※視点が変わります。
「「どうだった?」」
ガンチャが昨日から泊まっていた宿屋に戻ると、駆け寄ってきたのはロビンと母親だった。部屋で待っているように伝えていたが、落ち着かず、ずっとロビーで待っていたのだ。
「駄目だ。会わせてももらえない。きっと、アルフレッド様が邪魔しているんだ」
「公爵令息だからって、人の恋路を邪魔していいわけがないわ!」
ロビンは憤慨しながら続ける。
「アリアナさんで妥協してあげようとしているのよ! こんなチャンスは二度とない! それなのに、アリアナさんも何をおとなしくアルフレッド様に従っているの!?」
ロビンの本音は、自分の相手をアルフレッドにしたいだけなのだが、ガンチャの前では兄のことを思っているふりをしていた。
「嫁がいなければ跡継ぎができないわ。頭を下げてでも、アリアナさんに婚約者に戻ってもらいましょう。あんな子でもいないよりかはマシよ。それに、手元に置いておけば、主人の件を調べるのもやめるでしょう」
ガンチャの母は、扇で口元を隠しながら、冷ややかな笑みを浮かべる。
「そうだ。アリアナには何としてでも俺の所へ戻ってきてもらう。あんなにも俺のことが好きだったんだ。そんなに簡単に諦められるはずがない」
「でも、連絡を取ることもできないわよ」
「大丈夫ですよ、母上。許してくれなければ死ぬとパフォーマンスをしてやります。あの女は俺を愛していますから、どんなことがあっても目の前に現れるはずです」
ガンチャは勝ちを確信するように、自信満々の笑みを浮かべた。
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