【完結】もう二度とあなたを選ぶことはありません

風見ゆうみ

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21 元婚約者の自分勝手な願い

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 ルーナはこちらに滞在中、ずっとアルフのことを推してきていた。私がどうこうできる立場ではないので、彼女の話を聞くだけに徹していたけれど、彼を見る目が今までと変わったのは間違いない。
 五日ほど滞在したルーナが帰っていった日の夜、お父様に呼び出されて執務室に向かうと、アルフも中で待っていた。ルーナから散々言われていたので、彼を見ると意識してしまうのだが、そんなことをアルフが知るはずがないし、いつもと変わらない態度を心掛ける。
 お父様の執務室には、執務机と大きな本棚。姿見と応接セットがあり、アルフとお父様が向かい合って座っていたため、私はお父様の隣に腰かけた。メイドがお茶を淹れて出て行くと、お父様が口を開く。

「先代のウロイカ辺境伯の件でわかったことがあった」

 黙って言葉の続きを待つと、お父様は重い表情で話し始める。

「時間が経ってしまったため、調べるのに時間がかかったが、公爵家の力添えもあって何とか毒の入手経路はつかむことができた。これで一歩進めるかと思ったんだが、毒をウロイカ辺境伯家に持ち込んだと思われる人物はすでに死亡していた」
「死因は何なのですか」

 アルフが尋ねると、お父様はいつもよりも一段と声を低くして答える。

「暗殺です。仕事帰りに何者かに襲われています」
「現在のウロイカ辺境伯に指示された誰か、もしくは本人が手を下した可能性がありますね」
「ええ。毒を入手したのはウロイカ辺境伯のメイドだった人物です。彼女は平民で昔、素行の悪い人物と付き合っていたことがあったそうです」
「そんな人物をメイドに雇ったんですか」

 驚いた様子のアルフにお父様は苦笑する。

「先代の夫人が見つけてきた女性のようで、先代は反対したようですが、夫人が街で彼女に助けられたからと言って押し切ったようです。先代もまさか、自分を殺すためにメイドを雇ったなんて思ってもいなかったでしょう」
「どうやって夫人とそのメイドは知り合ったのでしょうか」
「実際に助けてもらったことはあるようです。お忍びで出かけた際に、スリにあったようで、その時に助けてもらったことがきっかけだそうですよ」
「メイドとスリはグルでしょうね」
「私もそう思います」

 お父様とアルフのリズムの良い会話になかなか入っていけなかった私だったが、話が途切れたので疑問を口にする。

「先代の夫人はお忍びで出かけたそうですけど、それはすぐに切り捨てられる人物を見つけるためだったのでしょうか」
「今まで勤めてきた使用人が主を毒殺しようだなんて考えない。だから、先代の辺境伯にゆかりのない人物であり、怪しまれずに毒を入手できる人物がほしかったんだろう」
「最初からメイドも殺される予定だったのですね」

 人の命を奪い、その罪を他人にかぶせようとしたのだから、ばちが当たっても仕方がないような気がする。でも、それなら、ガンチャたちにもばちが当たらないと駄目だわ。

「ガンチャたちが先代の辺境伯の毒殺事件に関わっていることを証明する手段は、もうないのでしょうか」
「アリアナ、まだ諦めるのは早いよ」

 肩を落とした私に、アルフは微笑む。

「全ての証人が消えたわけではなさそうだから、そっちの線でいこう。それから」

 アルフが何か言いかけた時、外が急に騒がしくなった。数人が言い争う声のあとに、一段と大きな声が聞こえてくる。

「アリアナ! 俺が悪かった! 謝ってやるからいい加減素直になって、俺と再婚約するんだ!」
「彼は自分が辺境伯だってことを忘れているのかな」

 聞こえてきたガンチャの叫びに呆れていると、アルフがぼそりと呟いた。

 
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