23 / 28
23 元婚約者の願いは叶わない ①
しおりを挟む
アルフと腹を割って話をした結果、薄々、感じていたが、彼は私のことが昔から好きでいてくれたことがわかった。
「ガンチャに夢中になっていた時は、まったく気づけなかったわ。本当にごめんなさい」
「いや。昔はなるべく君に近づかないようにしていたし、学生時代の後半は学年も違って、余計に話す機会がなくなったしね。僕も忘れようと思って頑張っていたんだ」
「……そうだったのね。あの時の私は、あなたに思いを打ち明けられても、気持ちを返すことはできなかったし、忘れようとしてくれたのは、私への優しさでもあるわよね」
「まあ、意気地なしだったというのもあるけど」
アルフは苦笑して続ける。
「こんなことがあったからって、無理に好きになってもらおうなんて思っていない。ただ、君に幸せになってもらいたいだけなんだ」
きっとこんな言葉はガンチャの口からは、何度人生をやり直しても聞くことができない。本当に昔の私は馬鹿だわ。過去の出来事や思い出を大事にしてくれていただけでなく、私自身のことも大切に思ってくれていた人がいたのに、まったく気づいていなかった。
「ありがとう、アルフ」
「礼を言われることじゃないよ。一歩間違えたら、ウロイカ辺境伯と同じだからね」
「人を想い続けることと付きまとうことは違うわよ」
「それはまあ、そうだけどさ」
「実は、あなたのお父様から、私のお父様に連絡があったの。だから、こんな話をしたんだけど」
これだけで、アルフのお父様の話が何だったか、アルフは察したようだった。
「誤解しないでほしい。僕が動いたのはそれが目的だったわけじゃない」
「わかっているわ。あなたがそういう人だったら、もっと早くに同じことをしていたでしょう?」
アルフの両親も私の死を弔んで、流星群の日に願いをかけてくれたようで、私が殺されてしまったことを覚えている。嫁ぐのなら、私の死を願う人よりも私の幸せを願ってくれる人のほうがいいに決まっている。
「お話を受けるつもりなんだけど、アルフは本当にいいの?」
「そ、それはもちろん!」
不安そうにしていたアルフの表情が一変して満面の笑みを浮かべたから、私もつられて笑顔になった。
******
アルフとの婚約を正式に決めた次の日の朝、アルフや家族と一緒に朝食をとっていた時のことだった。執事がやって来て、とんでもないことを報告してきた。
「ウロイカ辺境伯が門の前にいらっしゃったので、お帰りを願ったところ、自分の喉元に短剣を押し当てて、アリアナ様が話をしてくれなければ、ここで死ぬと叫び始めたのです」
「ええっ!?」
私と弟妹は驚いて聞き返したけれど、お父様とお母様は眉をひそめただけだった。
「僕が様子を見に行ってきますよ」
そう言ってアルフが立ち上がったので、私も立ち上がる。
「アルフ、私も行くわ」
「駄目だよ。彼は君と話すのが目的なんだろう? 君が行ったら彼の思うつぼだし、婚約者に付きまとう蝿は駆除、じゃない。今日のところは追い払ってくるよ」
「迷惑をかけてごめんなさい。それから、ありがとう」
「迷惑をかけているのは君じゃない。ウロイカ辺境伯だからね」
アルフに任せるのはいいとして、ただ待っているだけでは嫌だわ。
そう考えた私は、ガンチャから見えない所で二人の話を聞くことにした。
「ガンチャに夢中になっていた時は、まったく気づけなかったわ。本当にごめんなさい」
「いや。昔はなるべく君に近づかないようにしていたし、学生時代の後半は学年も違って、余計に話す機会がなくなったしね。僕も忘れようと思って頑張っていたんだ」
「……そうだったのね。あの時の私は、あなたに思いを打ち明けられても、気持ちを返すことはできなかったし、忘れようとしてくれたのは、私への優しさでもあるわよね」
「まあ、意気地なしだったというのもあるけど」
アルフは苦笑して続ける。
「こんなことがあったからって、無理に好きになってもらおうなんて思っていない。ただ、君に幸せになってもらいたいだけなんだ」
きっとこんな言葉はガンチャの口からは、何度人生をやり直しても聞くことができない。本当に昔の私は馬鹿だわ。過去の出来事や思い出を大事にしてくれていただけでなく、私自身のことも大切に思ってくれていた人がいたのに、まったく気づいていなかった。
「ありがとう、アルフ」
「礼を言われることじゃないよ。一歩間違えたら、ウロイカ辺境伯と同じだからね」
「人を想い続けることと付きまとうことは違うわよ」
「それはまあ、そうだけどさ」
「実は、あなたのお父様から、私のお父様に連絡があったの。だから、こんな話をしたんだけど」
これだけで、アルフのお父様の話が何だったか、アルフは察したようだった。
「誤解しないでほしい。僕が動いたのはそれが目的だったわけじゃない」
「わかっているわ。あなたがそういう人だったら、もっと早くに同じことをしていたでしょう?」
アルフの両親も私の死を弔んで、流星群の日に願いをかけてくれたようで、私が殺されてしまったことを覚えている。嫁ぐのなら、私の死を願う人よりも私の幸せを願ってくれる人のほうがいいに決まっている。
「お話を受けるつもりなんだけど、アルフは本当にいいの?」
「そ、それはもちろん!」
不安そうにしていたアルフの表情が一変して満面の笑みを浮かべたから、私もつられて笑顔になった。
******
アルフとの婚約を正式に決めた次の日の朝、アルフや家族と一緒に朝食をとっていた時のことだった。執事がやって来て、とんでもないことを報告してきた。
「ウロイカ辺境伯が門の前にいらっしゃったので、お帰りを願ったところ、自分の喉元に短剣を押し当てて、アリアナ様が話をしてくれなければ、ここで死ぬと叫び始めたのです」
「ええっ!?」
私と弟妹は驚いて聞き返したけれど、お父様とお母様は眉をひそめただけだった。
「僕が様子を見に行ってきますよ」
そう言ってアルフが立ち上がったので、私も立ち上がる。
「アルフ、私も行くわ」
「駄目だよ。彼は君と話すのが目的なんだろう? 君が行ったら彼の思うつぼだし、婚約者に付きまとう蝿は駆除、じゃない。今日のところは追い払ってくるよ」
「迷惑をかけてごめんなさい。それから、ありがとう」
「迷惑をかけているのは君じゃない。ウロイカ辺境伯だからね」
アルフに任せるのはいいとして、ただ待っているだけでは嫌だわ。
そう考えた私は、ガンチャから見えない所で二人の話を聞くことにした。
1,763
あなたにおすすめの小説
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜
入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】
社交界を賑わせた婚約披露の茶会。
令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。
「真実の愛を見つけたんだ」
それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。
愛よりも冷たく、そして美しく。
笑顔で地獄へお送りいたします――
【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません
すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」
他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。
今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。
「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」
貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。
王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。
あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!
婚約破棄された令嬢のささやかな幸福
香木陽灯
恋愛
田舎の伯爵令嬢アリシア・ローデンには婚約者がいた。
しかし婚約者とアリシアの妹が不貞を働き、子を身ごもったのだという。
「結婚は家同士の繋がり。二人が結ばれるなら私は身を引きましょう。どうぞお幸せに」
婚約破棄されたアリシアは潔く身を引くことにした。
婚約破棄という烙印が押された以上、もう結婚は出来ない。
ならば一人で生きていくだけ。
アリシアは王都の外れにある小さな家を買い、そこで暮らし始める。
「あぁ、最高……ここなら一人で自由に暮らせるわ!」
初めての一人暮らしを満喫するアリシア。
趣味だった刺繍で生計が立てられるようになった頃……。
「アリシア、頼むから戻って来てくれ! 俺と結婚してくれ……!」
何故か元婚約者がやってきて頭を下げたのだ。
しかし丁重にお断りした翌日、
「お姉様、お願いだから戻ってきてください! あいつの相手はお姉様じゃなきゃ無理です……!」
妹までもがやってくる始末。
しかしアリシアは微笑んで首を横に振るばかり。
「私はもう結婚する気も家に戻る気もありませんの。どうぞお幸せに」
家族や婚約者は知らないことだったが、実はアリシアは幸せな生活を送っていたのだった。
恩知らずの婚約破棄とその顛末
みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。
それも、婚約披露宴の前日に。
さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという!
家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが……
好奇にさらされる彼女を助けた人は。
前後編+おまけ、執筆済みです。
【続編開始しました】
執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。
矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。
あなたに恋した私はもういない
梅雨の人
恋愛
僕はある日、一目で君に恋に落ちてしまった。
ずっと僕は君に恋をする。
なのに、君はもう、僕に振り向いてはくれないのだろうか――。
婚約してからあなたに恋をするようになりました。
でも、私は、あなたのことをもう振り返らない――。
【完結】完璧令嬢の『誰にでも優しい婚約者様』
恋せよ恋
恋愛
名門で富豪のレーヴェン伯爵家の跡取り
リリアーナ・レーヴェン(17)
容姿端麗、頭脳明晰、誰もが憧れる
完璧な令嬢と評される“白薔薇の令嬢”
エルンスト侯爵家三男で騎士課三年生
ユリウス・エルンスト(17)
誰にでも優しいが故に令嬢たちに囲まれる”白薔薇の婚約者“
祖父たちが、親しい学友であった縁から
エルンスト侯爵家への経済支援をきっかけに
5歳の頃、家族に祝福され結ばれた婚約。
果たして、この婚約は”政略“なのか?
幼かった二人は悩み、すれ違っていくーー
今日もリリアーナの胸はざわつく…
🔶登場人物・設定は作者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 いいね❤️励みになります!ありがとうございます✨
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる