謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?

風見ゆうみ

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9−5  ロードウェル伯爵家 7−2(イザメル視点)

「母上、僕は死んでしまうんでしょうか」

 この何日かの高熱と悪夢のせいで、すっかりやつれてしまったロンバートは、付きっきりで看病してくれている、イザメルに問いかけた。

「大丈夫よ。熱は下がり始めてきているから」

 屋敷の使用人達は、ほとんどの人間が辞めるか、別邸で仕事をしていて、ロンバートの看病をする人間はいない。
 たまにメアリーが別邸から様子を見に来るくらいだった。
 そのため、イザメルがロンバートをつきっきりで看病していた。

(あの魔法使いが言うには、エアリスがいなくなったせいで、この屋敷が不幸に見舞われていると言っていたわ。ロンバートの事業も、カイジス公爵の介入があったとはいえ、急にうまくいかなくなったのは、あの女がいなくなってからだった。全く、とんだ疫病神だったわ…。まさか、出て行くなんて思いもしなかった。どうして、出ていくなんて馬鹿な選択肢をしたのよ!)

 イザメルは唇をかみしめて、エアリスの事を思い浮かべた。

(あの魔法使い達が死んでしまってから、私に楽しみはなくなってしまった。だから、孫をいじめて、楽しんでやろうと思っただけなのに…)

 イザメルは本当は魔法使いになりたかった。
 けれど、彼女には少しの魔力はあっても、魔法使いになれるほどの魔力は無かった。

 魔力量が多い人間はなぜか貴族に多く、平民にはその様な人間はほとんど聞いた事がなかった。
 広い世界には平民の魔法使いは他にもいる。
 けれど、少なくとも、彼女が知っている平民の魔法使いは、エアリスの祖父母だけだった。

 イザメルは平民に自分が負けた事が悔しかった。
 けれど、それを素直に口に出すのも悔しくて、彼女は魔法使いが嫌いだと公言し始めた。
 そしていつしか、魔法使いを本当に嫌いになってしまった。

 一番嫌いだったエアリスの祖父母が死んだと聞いた時は、笑いが止まらなかった。
 これで、一番目障りな奴らがいなくなったのだと。

(だけど、その分、人の不幸で心から楽しむという事ができなくなってしまったのよね。あの女の存在を、あの男から教えられるまでは…) 

 彼女の楽しみは、まだ終わりではなかった。
 イザメルは、エアリスの存在に気付いてしまったのだ。
 エアリスの存在に気付くまでは、イザメルは目についた魔法使いを精神的に絶望の淵に落とす事で暇つぶしをして楽しんでいた。
 拷問をする事もあったが、殺すまではしなかった。
 なぜなら、また新しいおもちゃを見つけるのに苦労するからだ。
 面白いおもちゃを見つけては、古いおもちゃを痛めつけて捨てるを繰り返していたある日、彼女はある魔法使いから命乞いをされる。
 もちろん、いつもなら気にも止めずに拷問をしていたイザメルだったが、その魔法使いの発言が気になって、手を止めたのだ。

(あの男がエアリスを売ってくれたのは本当に幸運だった。あの女が出ていくまではそう思ったのに…。まさかこんな事になるだなんて。元々はオルザベートの読みが甘かったせいだわ。私の可愛いロンバートがこんな事になっているのに何をしているのかしら。あの魔法使いの所に? お腹の子供もロンバートの子なのか、あの魔法使いの子なのか、わからないわ。まあ、子供が大きくなればわかるでしょうし、それまでは手元において様子をみてあげる事にしましょうか)

「大奥様。別館の方に大奥様宛のお客様が来られております」
「まったく、こんな時に誰なの?」
「警察の方と…、それからエアリス様達です」

 別館のメイドがやって来て、イザメルにそう伝えた。

「エアリスですって!?」
「はい」
「すぐに行くわ」
「僕にも会わせて下さい! エアリスに謝って、この家に戻ってきてもらわないといけないんです!」

 身を起こしたロンバートに、イザメルは首を横に振る。

「大丈夫よ。お母様に任せなさい」

 そう言って、ロンバートを残し部屋を出ると、メイドが通したという別邸の応接間に、イザメルは急いで向かった。

「突然、申し訳ございません。お話をお聞きしたいんですが、お時間よろしいですか?」
 
 イザメルが部屋に入ると、一人はパンツスーツを着た、イザメルから見れば、女性としてははしたない格好をしたビアラ。
 そして、もう一人は動きやすそうな水色のワンピースドレスを着た女性がいた。
 
「お久しぶりですね、イザメル様」

 無表情かつ感情のこもっていないエアリスの言葉に、イザメルはこみ上げてくる笑みをこらえるのに必死だった。
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