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16 母と父の罪
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お母様が主催するお茶会が近付いてきたある日の昼下がり、私はヨウビル家の別荘にやって来ていた。
湖の見えるテラスで、ジェリー様とお茶を飲みながら、今度のデートの行く先について話すことになったのだけれど、その前に聞いておきたいことがあったので、忘れないうちに聞いてみた。
「どうして、ソルトのお母様に、私がお姉様に虐げられていることを伝えるように仰ったのですか?」
「ん? ああ、先日の件か?」
「はい」
「効果はあっただろう?」
「それはもう。ソルトのお母様であるソミユ様が私の味方をしてくださったおかげで、お姉様の勘違いを否定しなかったのに、お父様からは何のお咎めもなしでした」
頷くと、ジェリー様が微笑んで答える。
「レナス侯爵がミスソミユに夢中なのは有名な話だ。それに、彼女は自分の息子なんだから当たり前かもしれないが、ソルトをとても可愛がっている。そして、そんなソルトをいじめていたレナス侯爵夫人から彼を守ろうとした君に、とても感謝の念を抱いている。彼女は君に恩を返したがっていることをソルトから聞いていたから、力を借りただけだ。君のためになっただろう?」
「はい、それはとても。こんなことなら、ソミユ様のお力をもっと早くに借りておくべきだったんでしょうか」
「ソルトがミスソミユに直接、会えるようになったのは1年ほど前からだから、その時には、もうソルトは自分で解決できていたから一緒だろう」
「そういえばそうでした」
ソルトが次期侯爵の自覚を持てるようにと、彼が幼い頃は、ソミユ様と会うことは許可されていなかった。
今、思えば、お母様はソルトがソミユ様に告げ口出来ないようにさせていたのね。
お父様も、自分がソミユ様に会えるから、母離れさせるために、ソルトに我慢させるのは良いと思っていたのでしょう。
子供には我慢させて自分だけ好きな人に会うだなんて信じられない。
お母様のやったことは許されることではないけれど、お父様がもう少し気にかけていたら、防げた犯罪もあった気がする。
学生時代にやったことについては、明らかにお母様の過失だから、同情の余地もない。
そのことを考えると、本来なら、お母様だなんて呼びたくない。
お父様だってそうだわ。
でも、下手に態度を変えると、私が取り替えられた子だと気付いたと知られてしまう可能性がある。
そうなった時に、お母様がどう動くか、今の段階では予想がつかないだけに、下手に動きたくない。
セファ家の人達が気付いていないなら、それでいい。
これ以上、悲しい気持ちになる人を増やしたくない。
「大丈夫か?」
「……大丈夫です」
「まあ、そう言うしかないよな」
ジェリー様は苦笑すると、話題を変えてくる。
「茶会の日にレナス侯爵夫人は何か仕掛けてくるだろう。君が出かけるということは伝えていないな?」
「はい」
「では、その日、僕が君の家まで迎えに行こう」
きっと、お母様はお茶会で何かをして、私のせいにするつもりでしょうから、ジェリー様が私を連れて出ていったら、お母様はどうするのかしら。
それに、ヨウビル公爵夫人だって来るはずだから、ジェリー様を見て驚くでしょうね。
湖の見えるテラスで、ジェリー様とお茶を飲みながら、今度のデートの行く先について話すことになったのだけれど、その前に聞いておきたいことがあったので、忘れないうちに聞いてみた。
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「ん? ああ、先日の件か?」
「はい」
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頷くと、ジェリー様が微笑んで答える。
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「はい、それはとても。こんなことなら、ソミユ様のお力をもっと早くに借りておくべきだったんでしょうか」
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お父様も、自分がソミユ様に会えるから、母離れさせるために、ソルトに我慢させるのは良いと思っていたのでしょう。
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