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16 元婚約者の誤算(トーマス視点)
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ユミリーらしき女性のいる集落に向かうと、報告通り、僕たちは完全によそ者扱いだった。相手が貴族だというのに敬う様子は見られない。貴族というものに縁がないから接し方を知らないんだろうか。
目的地はわかっているが、集落に迷い込んでしまったふりをして話しかける。
「御者に任せていたら道に迷ってしまったんだ。妻と一緒に休憩させてほしいんだが、どこか良い場所はないかな」
近くにいた中年の男に声を掛けると「それならあっちにある家がここの長の家なんで」
と言って、木造の古びた小屋のような家を指さした。
「ありがとう」
ファルナを連れて、長と呼ばれている人の家に行ってみると、歓迎はしてくれたが、僕の望む、女性に接待をさせるという話はしてくれない。
「中に入って休んでいってください」
そう勧められたが、打ち合わせをしていた通りにファルナが口を開く。
「せっかくですし、この集落にいらっしゃる方とお話ししたいですわ。できればわたくしと年の変わらない女性の家で休みながらお話ししたいわ」
「では、こちらに呼び寄せましょう」
僕たちはその提案を受け入れ、長の家の中に入った。すきま風が入ってくるボロ屋で、よくもこんな家に住めるものだと思うくらいに狭いし汚い。ファルナはドレスが汚れると言って、最初はソファに座ることも拒んだ。
「もう少しの辛抱だ」
そう言い聞かせている内に若い女が集まってきたが、その中にユミリーはいなった。
どうしてだ?
疑問に思った僕は長に尋ねる。
「若い女性はここにいる人たちだけなのか?」
「もう一人おりますが体調が悪いと申しておりまして……」
「それは大変だ。様子を見に行こう」
「いけません! 感染するような病気でしたら大変です。控えたほうがよろしいかと思います」
「待たせている馬車の中に医者がいるんだ。呼び寄せて診させよう。困っている人を見過ごせない」
長旅になるので、医者を連れてきていたのは我ながらよくやったと思う。
ここに来ていない女性は絶対にユミリーだ。僕たちに気づかれたくないからここに来れないんだろう。
大丈夫だ、ユミリー。僕から会いに行ってあげるよ。
半ば強引に長にユミリーのいる家まで案内させると、応対したユミリーの家族は困惑していた。医者を連れてきたと言うと、渋々といった様子で家の中に入れてくれた。
彼女の部屋の前に立ち、高揚する気分を何とか抑える。
ユミリー、会いたかった。やっぱり死んでいなかったんだね。次は間違えないと違うから、僕と一緒になろう。
ユミリーの母親と名乗る人物が扉を開けたので、僕とファルナはなだれ込むように部屋の中に入った。
ユミリーは正面にあるベッドの上で身を起こして、こちらを見つめている。
「ユ……」
一瞬、ユミリーだと思って、嬉しさがこみ上げたが、すぐにそんな感情は消え失せた。
「待っていたわ、トーマス」
僕がユミリーだと思っていた人物は、時間を巻き戻してくれた、あの魔女だった。
目的地はわかっているが、集落に迷い込んでしまったふりをして話しかける。
「御者に任せていたら道に迷ってしまったんだ。妻と一緒に休憩させてほしいんだが、どこか良い場所はないかな」
近くにいた中年の男に声を掛けると「それならあっちにある家がここの長の家なんで」
と言って、木造の古びた小屋のような家を指さした。
「ありがとう」
ファルナを連れて、長と呼ばれている人の家に行ってみると、歓迎はしてくれたが、僕の望む、女性に接待をさせるという話はしてくれない。
「中に入って休んでいってください」
そう勧められたが、打ち合わせをしていた通りにファルナが口を開く。
「せっかくですし、この集落にいらっしゃる方とお話ししたいですわ。できればわたくしと年の変わらない女性の家で休みながらお話ししたいわ」
「では、こちらに呼び寄せましょう」
僕たちはその提案を受け入れ、長の家の中に入った。すきま風が入ってくるボロ屋で、よくもこんな家に住めるものだと思うくらいに狭いし汚い。ファルナはドレスが汚れると言って、最初はソファに座ることも拒んだ。
「もう少しの辛抱だ」
そう言い聞かせている内に若い女が集まってきたが、その中にユミリーはいなった。
どうしてだ?
疑問に思った僕は長に尋ねる。
「若い女性はここにいる人たちだけなのか?」
「もう一人おりますが体調が悪いと申しておりまして……」
「それは大変だ。様子を見に行こう」
「いけません! 感染するような病気でしたら大変です。控えたほうがよろしいかと思います」
「待たせている馬車の中に医者がいるんだ。呼び寄せて診させよう。困っている人を見過ごせない」
長旅になるので、医者を連れてきていたのは我ながらよくやったと思う。
ここに来ていない女性は絶対にユミリーだ。僕たちに気づかれたくないからここに来れないんだろう。
大丈夫だ、ユミリー。僕から会いに行ってあげるよ。
半ば強引に長にユミリーのいる家まで案内させると、応対したユミリーの家族は困惑していた。医者を連れてきたと言うと、渋々といった様子で家の中に入れてくれた。
彼女の部屋の前に立ち、高揚する気分を何とか抑える。
ユミリー、会いたかった。やっぱり死んでいなかったんだね。次は間違えないと違うから、僕と一緒になろう。
ユミリーの母親と名乗る人物が扉を開けたので、僕とファルナはなだれ込むように部屋の中に入った。
ユミリーは正面にあるベッドの上で身を起こして、こちらを見つめている。
「ユ……」
一瞬、ユミリーだと思って、嬉しさがこみ上げたが、すぐにそんな感情は消え失せた。
「待っていたわ、トーマス」
僕がユミリーだと思っていた人物は、時間を巻き戻してくれた、あの魔女だった。
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