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15 公爵令息から聞く真実
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ディリング公爵家の別邸に着いた次の日の朝、食事を終えた私の所にランフェスが訪ねてきました。来てくれたはいいものの、ランフェスはどこか気まずそうにしていて、私が挨拶をすれば返してくれましたが、目を合わせようとはしません。仕方がないので、こちらから積極的に話しかけることにします。
「あの、今回は助けていただきありがとうございます」
「敬語じゃなくていい」
「あ、えっと。でも、私は一応、平民ですから」
「貴族じゃなくなってもユミリーであることに変わりはないだろ?」
ランフェスは顔を上げて、やっと私の目を見てくれました。
「私であることに変わりはありませんが、敬語を使っていないことが他の方に知られては良くないでしょう」
「……そうだな」
ランフェスは頷くと、部屋の中にいた兵士やメイドに目を向けました。口に出さなくても、ランフェスの視線の意図に気がついたメイドたちは「失礼します」と頭を下げて部屋から出ていきました。
敬語を使っていないこともそうですが、巻き戻りの話などは事情を知っている人の前でしか話さないほうが良いと判断したのですが、ランフェスもそう思ったようです。
「こんなことを言うと自惚れていると言われてしまうかもしれないけれど、ランフェスが私のことを想ってくれる理由がわからないの。私のことなんて忘れて幸せになってほしいって思っているのよ」
昔のように敬語を使わずに話すと、ランフェスは表情を和らげます。
「気持ちは嬉しいよ。それにしても、ユミリーはまだ記憶が戻らないのか? ……いや、思い出したくないのかもしれないな。ごめん」
「謝らないで。記憶のことだけど、まったく思い出せないの。悪夢を見るわけでもないのよ。もしかしたら、とても辛い記憶なので無意識の内に思い出さないようにしているのかもしれないわ」
「その可能性が高いな」
ランフェスは頷くと、暗い表情で話を続けます。
「ユミリーが殺された日は俺の当番じゃない日だった。ユミリーが眠っている部屋にトーマス殿下が訪ねて来たから、夜も遅い時間だからと部屋の前に立っていた兵士が止めたらしい。それなのに、王太子の命令だと言って無理やり部屋の中に入ったんだ。一緒に兵士が中に入らなかったのは、女性の部屋だということと、婚約者であり王太子殿下であるトーマス殿下なら問題になるようなことをしないだろう思ったそうだ」
「その時に、私は殺されたのね。まあ、一緒に入ってくれていても、殺されることに変わりはなさそう。殺される時の私はどんな感じだったの?」
「そのことについて詳しくは話したくない」
ランフェスは苦しそうな表情になって言いました。自分がどんな死に方をしたか知りたい気もしましたが、悲惨な感じのようですので、これ以上は聞かないことにします。ランフェスと現在のジノス公爵が口裏を合わせるとは思えませんから、実際にあったことなのでしょう。ランフェスのこの様子ですと、私自身もあまりにもショックだったので、思い出すことができないんでしょうね。
その後、ランフェスは私が殺された理由と、その後のことを教えてくれました。
「その時はトーマス殿下ですから、トーマス殿下として話をするけれど、国外追放されてからどうなったかはわかるの?」
「何をしでかすかわからないから見張りが付けられていたんだけど、しばらくは女性と暮らしていた」
「女性と?」
「ああ。自分のことを魔女だという変わり者で、周囲の人間からは気味が悪いと遠ざけられていた人だよ」
「もしかして、その人が本当に魔女で時を巻き戻したかもしれないってこと?」
「そうとしか考えられないだろ」
ランフェスと私の頭の中に共通の考えが浮かび、同時に口を開きます。
「魔女は今、どうしているのかしら」
「魔女は今、どうしているのか」
魔女が存在することにも驚きではありますが、時間が巻き戻った時点で普通ではありません。魔女が実在すると考えたほうが説明がつく気がしたのでした。
「魔女がどこにいるか把握はしているから大丈夫だ」
ランフェスはそう言うと、彼女が今どうしているかを教えてくれたのでした。
「あの、今回は助けていただきありがとうございます」
「敬語じゃなくていい」
「あ、えっと。でも、私は一応、平民ですから」
「貴族じゃなくなってもユミリーであることに変わりはないだろ?」
ランフェスは顔を上げて、やっと私の目を見てくれました。
「私であることに変わりはありませんが、敬語を使っていないことが他の方に知られては良くないでしょう」
「……そうだな」
ランフェスは頷くと、部屋の中にいた兵士やメイドに目を向けました。口に出さなくても、ランフェスの視線の意図に気がついたメイドたちは「失礼します」と頭を下げて部屋から出ていきました。
敬語を使っていないこともそうですが、巻き戻りの話などは事情を知っている人の前でしか話さないほうが良いと判断したのですが、ランフェスもそう思ったようです。
「こんなことを言うと自惚れていると言われてしまうかもしれないけれど、ランフェスが私のことを想ってくれる理由がわからないの。私のことなんて忘れて幸せになってほしいって思っているのよ」
昔のように敬語を使わずに話すと、ランフェスは表情を和らげます。
「気持ちは嬉しいよ。それにしても、ユミリーはまだ記憶が戻らないのか? ……いや、思い出したくないのかもしれないな。ごめん」
「謝らないで。記憶のことだけど、まったく思い出せないの。悪夢を見るわけでもないのよ。もしかしたら、とても辛い記憶なので無意識の内に思い出さないようにしているのかもしれないわ」
「その可能性が高いな」
ランフェスは頷くと、暗い表情で話を続けます。
「ユミリーが殺された日は俺の当番じゃない日だった。ユミリーが眠っている部屋にトーマス殿下が訪ねて来たから、夜も遅い時間だからと部屋の前に立っていた兵士が止めたらしい。それなのに、王太子の命令だと言って無理やり部屋の中に入ったんだ。一緒に兵士が中に入らなかったのは、女性の部屋だということと、婚約者であり王太子殿下であるトーマス殿下なら問題になるようなことをしないだろう思ったそうだ」
「その時に、私は殺されたのね。まあ、一緒に入ってくれていても、殺されることに変わりはなさそう。殺される時の私はどんな感じだったの?」
「そのことについて詳しくは話したくない」
ランフェスは苦しそうな表情になって言いました。自分がどんな死に方をしたか知りたい気もしましたが、悲惨な感じのようですので、これ以上は聞かないことにします。ランフェスと現在のジノス公爵が口裏を合わせるとは思えませんから、実際にあったことなのでしょう。ランフェスのこの様子ですと、私自身もあまりにもショックだったので、思い出すことができないんでしょうね。
その後、ランフェスは私が殺された理由と、その後のことを教えてくれました。
「その時はトーマス殿下ですから、トーマス殿下として話をするけれど、国外追放されてからどうなったかはわかるの?」
「何をしでかすかわからないから見張りが付けられていたんだけど、しばらくは女性と暮らしていた」
「女性と?」
「ああ。自分のことを魔女だという変わり者で、周囲の人間からは気味が悪いと遠ざけられていた人だよ」
「もしかして、その人が本当に魔女で時を巻き戻したかもしれないってこと?」
「そうとしか考えられないだろ」
ランフェスと私の頭の中に共通の考えが浮かび、同時に口を開きます。
「魔女は今、どうしているのかしら」
「魔女は今、どうしているのか」
魔女が存在することにも驚きではありますが、時間が巻き戻った時点で普通ではありません。魔女が実在すると考えたほうが説明がつく気がしたのでした。
「魔女がどこにいるか把握はしているから大丈夫だ」
ランフェスはそう言うと、彼女が今どうしているかを教えてくれたのでした。
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