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17 我慢ができなくなった魔女
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「私の影武者になってくれたユミが魔女だったの?」
「ああ。本人が言っていたが、体形も似ているし普段は身だしなみに無頓着だが、君に似た雰囲気のメイクはできると言っていた」
「自分でメイクできるなんてすごいわ」
平民暮らしを始めてからは、ナチュラルメイクくらいは自分でできるようになりましたが、誰かに似せるようなアレンジメイクはできません。もしかして、それも魔法でやっているのでしょうか。そうだとしたら、ユミが正体を自分から明かさない限り、彼女と私が入れ替わっていることに気づかれることは難しいでしょう。
「あとユミは仮名らしい。ユミリーの名前に合わせたみたいだ」
「そうだったのね。まあいいわ。私の中では彼女はユミだから」
ランフェスが言うには国外追放されて、浮浪者になっていたトーマス殿下を拾ったのがユミだったそうです。その時は一人でいることが嫌になっていた時期だったそうで、二人で暮らしていくうちに、トーマス殿下に情が湧き、駄目なところも愛しく思えるようになったとのことでした。このまま一緒に暮らし続けるならと結婚を申し出たところ、トーマス殿下から時間を巻き戻してほしいと言われたそうです。
「彼女が言うには時を巻き戻す魔法は禁忌らしい。一度使えば、彼女は魔力を失ってしまう」
「……そんな! あ、でも、時間が巻き戻っているなら、まだ彼女の魔力は失われていないのね」
「そうなんだが、巻き戻した時の年齢になると魔力がなくなるんだそうだ」
「それくらいの犠牲を伴ってもおかしくない魔法だもの。仕方がない気もするわ」
魔法だ魔力だと普段は聞き慣れない言葉です。そんな言葉をすんなりと受け入れられているのは、記憶はなくとも時間が巻き戻されたのであろうという気持ちが強いからでしょう。
「たとえ、魔力がある今、ジノス公爵に再度時間を巻き戻すように頼まれても、彼女はもう二度と時間を巻き戻すことはしないと言っている」
「そうなの?」
「ああ。彼女は辛い幼少期を過ごしていたらしい。同じことを何度も味わいたくないんだろう」
「気持ちはわからないでもないわね」
過去に戻りたいと思う時はあっても、赤ちゃんから戻ってやり直したいと思うことは少ないですものね。話の感じだとユミにも何度もやり直したくはない過去があるようですし、余計にでしょう。
「昨日の報告では、今日の朝、ユミリーがいた集落にジノス公爵が着くという予想だった。もしかすると、今頃は魔女に出会っているかもしれない」
「ユミの目的はやはり……、あ、あの、ややこしいので、あなたと話す時はジノス公爵のことをトーマス様と呼んでもいいかしら」
「ああ。今はトーマス殿下じゃないからな」
「ユミはトーマス様と結婚するために時間を巻き戻したのよね? それなのにトーマス様は私に執着しているし、ファルナと結婚までしているわ。それってどうなの?」
「だから魔女が動き出したんだ。君に執着するだけならまだしも、自分と結婚すると約束したのに他の女性と結婚したからね」
そういうことだったんですね。
魔法というものが存在して、それで時間が巻き戻ったということは何とか納得できます。あと気になるのは、どうして記憶が残っている人とそうではない人がいるかです。
「トーマス様とユミだけならまだしも、どうしてランフェスとファルナにも記憶があるのかしら」
「そのことなんだが、魔女はわざと俺とファルナ嬢の記憶を残したらしい」
「そんなことができるの?」
「実際にできてるからな」
「そう言われればそうね」
無駄な質問をしてしまいました。納得してから、ランフェスに尋ねます。
「ユミがどうしてランフェスとファルナに記憶を残したのか、理由はわかる?」
「確認してみたら、俺についてはトーマス様とユミリーの結婚を俺に阻んでほしかったからみたいだ」
「どういうこと?」
「君を殺すような相手を俺が薦めるわけないと思ったそうだ」
「それはそうね。私とランフェスの立場が逆だったとしたら、私は絶対に薦めないもの」
ランフェスのことはわかりましたが、ファルナの記憶まで戻した意味がわかりません。ユミは何を考えているのでしょう。そして、トーマス様と会った彼女はどんな反応をするのでしょうか。
「ああ。本人が言っていたが、体形も似ているし普段は身だしなみに無頓着だが、君に似た雰囲気のメイクはできると言っていた」
「自分でメイクできるなんてすごいわ」
平民暮らしを始めてからは、ナチュラルメイクくらいは自分でできるようになりましたが、誰かに似せるようなアレンジメイクはできません。もしかして、それも魔法でやっているのでしょうか。そうだとしたら、ユミが正体を自分から明かさない限り、彼女と私が入れ替わっていることに気づかれることは難しいでしょう。
「あとユミは仮名らしい。ユミリーの名前に合わせたみたいだ」
「そうだったのね。まあいいわ。私の中では彼女はユミだから」
ランフェスが言うには国外追放されて、浮浪者になっていたトーマス殿下を拾ったのがユミだったそうです。その時は一人でいることが嫌になっていた時期だったそうで、二人で暮らしていくうちに、トーマス殿下に情が湧き、駄目なところも愛しく思えるようになったとのことでした。このまま一緒に暮らし続けるならと結婚を申し出たところ、トーマス殿下から時間を巻き戻してほしいと言われたそうです。
「彼女が言うには時を巻き戻す魔法は禁忌らしい。一度使えば、彼女は魔力を失ってしまう」
「……そんな! あ、でも、時間が巻き戻っているなら、まだ彼女の魔力は失われていないのね」
「そうなんだが、巻き戻した時の年齢になると魔力がなくなるんだそうだ」
「それくらいの犠牲を伴ってもおかしくない魔法だもの。仕方がない気もするわ」
魔法だ魔力だと普段は聞き慣れない言葉です。そんな言葉をすんなりと受け入れられているのは、記憶はなくとも時間が巻き戻されたのであろうという気持ちが強いからでしょう。
「たとえ、魔力がある今、ジノス公爵に再度時間を巻き戻すように頼まれても、彼女はもう二度と時間を巻き戻すことはしないと言っている」
「そうなの?」
「ああ。彼女は辛い幼少期を過ごしていたらしい。同じことを何度も味わいたくないんだろう」
「気持ちはわからないでもないわね」
過去に戻りたいと思う時はあっても、赤ちゃんから戻ってやり直したいと思うことは少ないですものね。話の感じだとユミにも何度もやり直したくはない過去があるようですし、余計にでしょう。
「昨日の報告では、今日の朝、ユミリーがいた集落にジノス公爵が着くという予想だった。もしかすると、今頃は魔女に出会っているかもしれない」
「ユミの目的はやはり……、あ、あの、ややこしいので、あなたと話す時はジノス公爵のことをトーマス様と呼んでもいいかしら」
「ああ。今はトーマス殿下じゃないからな」
「ユミはトーマス様と結婚するために時間を巻き戻したのよね? それなのにトーマス様は私に執着しているし、ファルナと結婚までしているわ。それってどうなの?」
「だから魔女が動き出したんだ。君に執着するだけならまだしも、自分と結婚すると約束したのに他の女性と結婚したからね」
そういうことだったんですね。
魔法というものが存在して、それで時間が巻き戻ったということは何とか納得できます。あと気になるのは、どうして記憶が残っている人とそうではない人がいるかです。
「トーマス様とユミだけならまだしも、どうしてランフェスとファルナにも記憶があるのかしら」
「そのことなんだが、魔女はわざと俺とファルナ嬢の記憶を残したらしい」
「そんなことができるの?」
「実際にできてるからな」
「そう言われればそうね」
無駄な質問をしてしまいました。納得してから、ランフェスに尋ねます。
「ユミがどうしてランフェスとファルナに記憶を残したのか、理由はわかる?」
「確認してみたら、俺についてはトーマス様とユミリーの結婚を俺に阻んでほしかったからみたいだ」
「どういうこと?」
「君を殺すような相手を俺が薦めるわけないと思ったそうだ」
「それはそうね。私とランフェスの立場が逆だったとしたら、私は絶対に薦めないもの」
ランフェスのことはわかりましたが、ファルナの記憶まで戻した意味がわかりません。ユミは何を考えているのでしょう。そして、トーマス様と会った彼女はどんな反応をするのでしょうか。
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