次は間違えないと言われましても

風見ゆうみ

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20  公爵は知らぬ間に没落の道を進む ① (トーマス視点)

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 扉を開け放ったまま話をしていたせいで、僕たちの会話は家中に丸聞こえだった。現在のユミリーの家族が訝しげな様子でこちらを見ているのがわかる。
 ユミリーが巻き戻りの話を、この家族にしているとは思えない。このままだと、僕までもが頭のおかしな人間だと思われてしまう。仮とはいえ、ユミリーの家族に悪印象を持たれたくない。

「とにかく、今日は帰らせてもらう。ファルナ、君ももう元気になっただろう?」
「元気にはなりましたが納得はいっていませんわ! トーマス様! あなたは魔女とどんな約束をしたと言うのです!?」

 ファルナが恐ろしい形相で問いかけてきた。 
 女の嫉妬というのは怖いものだな。セレスもファルナも僕を自分のものにしたくて仕方がないみたいだ。

 モテる男は辛いという話を聞いたことがあるが、まさに今、僕が感じている気持ちなんだろう。ここにユミリーがいてくれたなら、僕には彼女しかいないと堂々と言えるのに――

「トーマスは時を巻き戻す代わりに、巻き戻した世界で私と結婚すると約束してくれたの!」
「ふざけたことを言わないでくださいませ! トーマス様はわたくしの夫です! あなたなんかに渡しません!」

 睨み合う二人をどう収めようかと思っていると、屈強な体つきの若い男性が話しかけてきた。

「あなたはユミの知り合いなのですね?」
「そ……、そうだが」

 嘘をついても仕方ない。僕は質問に素直に頷いた。

「ユミは私の妹です。遠くへ行ってほしくはありません。ですが、ユミはあなたの傍にいたいようです」
「な、何が言いたいんだ?」
「簡単なことです。ユミを連れてここを出てください。あなたの目的はユミなのでしょう?」
「い、いや、僕はたまたまここに迷い込んだというか、そ、そうだ。病気だと言うから医者を連れてきたんだ」

 いつの間にか医者の姿が見えなくなっていたので探してみると、大男の後ろに隠れるように立っていた。

「ありがとう、お兄ちゃん。迎えが来たから出ていくわ」
「元気でな」
「ええ。お兄ちゃんも」
「ちょ、ちょっと待ってくれ! どうするつもりだ?」

 焦る僕にセレスは笑顔で答える。

「私はあなたの妻になるの。だからもう、ここにはいられないのよ」
「トーマス様の妻はわたくしだと言っているでしょう!」

 ファルナは金切り声を上げて、セレスに掴みかかっていった。

「や、やめろ! 僕のために喧嘩なんてしないでくれ!」
「おやめください」

 僕が止めに入る前に大男がセレスの肩を掴んで、僕のほうに押しやった。

「ここは喧嘩をする場ではありません。外に出て存分にどうぞ」

 大男は「お帰り口はこちらです」と言って、家の出入り口の扉を手で示した。


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