次は間違えないと言われましても

風見ゆうみ

文字の大きさ
28 / 32

26  次は間違えないと言われましても ④

しおりを挟む
 結婚式は夕方に予定されており、ディリング公爵邸の近くにあるチャペルで行われることになっています。実際は結婚式を挙げるふりをするだけなので、チャペルに集まるのは事情を知っているディリング公爵夫妻と、ランフェスや私と深いつながりのある、とあるお二人とその付き人や護衛だけです。牧師様には事情を話していて、理解してくれていると聞いています。
 問題は式を終えて、ランフェスたちが帰ってきてからのことでした。魔法をかけられるはずだった料理人は昨日の内に手を打っておいたので、トーマス様の前ではユミの魔法にかかったふりをしてくれていますから、これは問題ありません。
 ありがたいと言ってはなんですが、私を殺すための毒はトーマス様が用意してくれ、料理人に手渡したのもトーマス様だと教えてもらいました。
 ただ、これだけでは彼を捕まえるのは厳しいです。トーマス様がすんなり罪を認めるとは思えません。
 どうすれば彼の尻尾を掴むことができるのか。
 考えた私は、ランフェスたちに一芝居うってもらうことにしたのでした。



 結婚式の夜、毒など盛られていませんが、外部からお医者様を呼ぶなどして、何かが起きたことを匂わせる行動をしました。お医者様には事前に連絡をしていたので、今晩は公爵邸に泊まるつもりで来てもらいました。
 そして次の日の朝、新妻が死亡したという嘘話をユミのほうからトーマス様に伝えてもらい、関係のない領民には嘘の情報が流れないようにしました。

「トーマス様は俺の姿を確認しに来るのかな」
「そう思うわ。ユミたちに止められても、あなたが絶望している顔を見たくて訪ねてくるはずよ。感情のコントロールはできない人だわ」

 だから、自分が捕まることも忘れて、私を殺したのでしょう。

 別邸に来てくれていたランフェスとそんな話をしていると、案の定、トーマス様が訪ねてきたとの知らせを受けたのです。

「この別邸に案内してくれ。それから父上たちにも連絡を頼む」
「「承知いたしました」」

 来客を知らせに来てくれたメイドとお茶を入れてくれていたメイドは声を揃えて言うと、急ぎ足で部屋から出ていきました。私とランフェスもトーマス様を出迎えるために、エントランスホールに向かいます。

「これでやっと終わるかしら」
「そうだな。巻き戻しはユミがトーマス様に協力しない限り次はない。彼女は巻き戻すつもりはないようだから大丈夫だと思うが、まだ油断はできない」
「それはそうね」
「ユミリー、君は最初は隠れていてくれないか」
「わかったわ。ところであなたはどんな態度で応対するつもりなの?」
「……そうだな。最初はお望み通りに悲しんでいるふりをしておくよ。トーマス様の考えていることがあまりにも残念だから、そのことを考えれば上手く演技できると思う」

 ランフェスはそう言って、出入り口の扉の前に立ちました。私はトーマス様たちが、中に入ってきてもに見えない位置にある柱の陰に隠れて話を聞くことにします。

 私が生きているとわかった時のトーマス様はどんな顔をするのでしょうか。……変ですね。トーマス様への怒りが恐怖よりも勝っているようで、早く来てほしいと思ってしまいます。

「ユミリー様、お忘れですよ」

 メイド長が近づいてきて、私にシルバートレイを手渡してくれました。このシルバートレイはメイドたちが食べ物などを運ぶ時に使うようなものと見た目は一緒ですが、使い方が違います。そして、ユミによって魔法で強化してもらっていました。

 このシルバートレイに魔法を付与してもらう時、ユミはこう言っていました。

『あなたは私のライバルではありません。トーマスを私のものにするために協力してください』
『どうすればいいの?』

 私の質問に答えたユミは恐ろしい表情をしていました。協力できる内容でもありませんでしたからお断りすると、ユミは気分を害した様子もなかったのです。
 彼女の中ではランフェスを選ぼうとしている私は敵ではなく味方なのです。そして、彼女にとっての敵は――

 悪寒を感じたちょうどその時、出入り口の扉が開き、トーマス様がユミとファルナと共に別邸の中に入ってきたのでした。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

どうしてか、知っていて?

碧水 遥
恋愛
どうして高位貴族令嬢だけが婚約者となるのか……知っていて?

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

婚約破棄ですか?勿論お受けします。

アズやっこ
恋愛
私は婚約者が嫌い。 そんな婚約者が女性と一緒に待ち合わせ場所に来た。 婚約破棄するとようやく言ってくれたわ! 慰謝料?そんなのいらないわよ。 それより早く婚約破棄しましょう。    ❈ 作者独自の世界観です。

(完結)あなたが婚約破棄とおっしゃったのですよ? 

青空一夏
恋愛
スワンはチャーリー王子殿下の婚約者。 チャーリー王子殿下は冴えない容姿の伯爵令嬢にすぎないスワンをぞんざいに扱い、ついには婚約破棄を言い渡す。 しかし、チャーリー王子殿下は知らなかった。それは…… これは、身の程知らずな王子がギャフンと言わされる物語です。コメディー調になる予定で す。過度な残酷描写はしません(多分(•́ε•̀;ก)💦) それぞれの登場人物視点から話が展開していく方式です。 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定ご都合主義。タグ途中で変更追加の可能性あり。

処理中です...