あなたに未練などありません

風見ゆうみ

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閑話   ヘイストの回想 2 (ヘイストside)

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 アニエスのやった事に対して、キャロへ責任を取ると決めた僕は、まずは父上に婚約を破棄する話をした。
 もちろん、反対されたけれど、事情は聞いてくれた。

「アニエスがいじめをしているだと?」
「はい。僕とキャロ…、いや、セバン子爵令嬢との仲を疑っての事だそうです」
「ヤキモチを妬いて、アニエスがセバン子爵令嬢をいじめたと言うの?」
「そうです、母上。全て僕が悪いんです。アニエスの心の闇に僕は気付いてあげられなかった」

 父上の部屋に集まったのは、僕と父上と母上、そして、最近、よく城内を歩くようになった兄上だった。
 最近は僕と兄上は、食事の場では顔を合わせるけれど、ほとんど会話をしていなかった。 

 だって、必要ないと思ったから。
 
 病弱な王太子なんて本当は国民に迷惑なはずだ。

 そう叔父上が教えてくれたんだ。

 皆に迷惑をかけているのに、王位を継ごうとしている兄上に呆れていたというのもある。
 国民に迷惑をかけてまで、王太子の座にしがみついて、そして最終的には国王になろうとしているだなんて思うと、心底、兄上の事を汚い人間だと思った。

 そんな兄上が口を開いた。

「本当にアニエスが、そのセバン子爵令嬢をいじめたのかな?」
「そうです! セバン子爵令嬢だけでなく、アニエスの友人達も認めています!」
「アニエスは?」
「……え?」
「アニエスは何と言ってるんだ?」

 部屋の中では、母上を真ん中に父上と兄上が同じソファーに座っていて、僕だけが向かいに座っていたから、3人から尋問されている気分になった上に、兄上から色々と質問されて苛立った。

「アニエスはいじめている方なんですから、素直に言うわけがないでしょう!」
「そんな話はしていない。アニエスは認めているのかと聞いてるんだよ」
「……まだ、聞いていません」

 僕の言葉を聞いた兄上は大きなため息を吐いた。

 ため息を吐きたいのはこっちだった。
 だけど、兄上の横を見たら、父上と母上もなぜだか呆れた顔をしていた。

 すると、兄上が口を開く。

「ヘイスト、その件については私が調べてもいいかな」
「…かまいませんが、どうせ、僕の言った話以外、何も出てこないと思いますよ」
「それでもかまわない。自分で納得したいんだ」
 
 兄上がそう言うので、その時は引き下がってあげたんだ。

 僕は兄上よりも大人だからね。

 そして、数日後、父上に呼び出されて部屋に向かうと、前回と同じ様に母上と兄上もいて、父上の口から衝撃的な事を聞かされた。

「アニエスがセバン子爵令嬢をいじめたという事実はどこにもない。お前はジェレミーの証言だけじゃ信じないと思ったから、私も確認した」
「私もよ」

 父上と母上は兄上に味方した。
 調べたって言ったって第三者から聞いただけじゃないか。

 僕は本人から聞いたのに。

 その事を伝えると、兄上が言う。

「本人って言っても被害者だと訴えている方からだけだろう? アニエスにも確認するんだ」
「わかりましたよ、確認はします! ですが、もう僕はアニエスとの婚約破棄を決めたんです」
「アニエスは何も悪くないんだぞ?」
「その報告書が嘘の可能性があります」

 僕の言い分を聞いた母上と兄上は僕の事を憐れむような目で見ていた。

 そして、父上は怒りを必死に押し殺しているようだった。

 どうして、僕がそんな態度をとられないといけないんだ!?

 父上と母上まで一緒になって、兄上を味方するなんて…!


 この日の話は平行線で終わった。
 お互いに頭を冷やして話をしようという事で、次の日に話をした時には、アニエスに真偽を確認する事を条件に婚約破棄を認めてくれるという話になった。
 
 だから、僕はアニエスに聞いたんだ。
 だけど、アニエスは否定した。

 ここで僕は選択肢を間違えたんだ。
 僕はあの時、アニエスの言葉を信じなければいけなかったのに…!

 信じなかった僕は責任を持ってキャロを幸せにする事に決めた。

 どうせ反対されるだろうから、父上と母上には言わなかった。

 だけど、叔父上にだけは伝えたんだ。

 叔父上はその判断をとても喜んでくれて褒めてくれた。

 僕の意見を聞いてくれるのは叔父上だけだった。

「ヘイスト、お前は間違っていない」
「ですよね、叔父上」

 叔父上は僕の言う事を何でも肯定してくれた。

 母上も父上もどうして叔父上と会うなと言うのか、僕にはわからなかった。

 だけど、結局、僕が信じていたキャロは嘘つきだった。

 どうして嘘なんかついたんだ!






 
 パーティー会場から出た後、父上や母上から叱責された。
 婚約破棄については了承してくれていたけど、キャロとの結婚の事に関しては教えてなかったからだ。
 2人はそれだけで怒っているわけではなさそうだったけど、そんな事はどうだっていい。

 父上は僕に監視を付けると言い出した。
 それが嫌なら、学園卒業後に除籍する可能性があるとまで言われた。

 たぶん、そこまでするつもりはないけど、脅しなんだと思った。

 これからどうしたらいいんだろう?

 このままでは、兄上とアニエスが婚約してしまう。

 兄上は酷い!
 嘘だとわかっていたなら、もっと強く言ってくれれば良かったんだ!

 そう考えた時、部屋の扉がノックされた。

 返事を返すと、訪ねてきてくれたのは叔父上だった。

「叔父上、聞いてください!」

 一連の出来事を話すと、叔父上は僕を慰めてくれた。

「両陛下はお前に厳しく、ジェレミーには甘いからな。可哀想に」
「叔父上、僕はどうしたら良いんでしょうか…?」
「そうだな…」

 少し考えた後、叔父上は口を開いた。

「諦めなければいいんじゃないか?」
「……どういう事ですか…?」
「もう一度、告白するんだ。何度だっていいじゃないか。お前の気持ちを大事にするんだ。いつか受け入れてくれる日がくるかもしれない」
「叔父上…」

 僕は感動した。

 叔父上はやっぱり僕の味方だった。

 そうだ。
 まだ、僕達はやり直せるはずだ。

「ヘイスト、私はお前の恋を応援しているからな」
「はい! ありがとうございます!」

 叔父上が付いてきてくれると言うので、アニエスが泊まると思われる客室がある別宮に向かった。

 叔父上は公爵という事もあり、城の敷地内をウロウロしていても騎士達は文句は言わない。

 別宮の2階に上がると、アニエス達の姿が見えた。

 だから、声を掛けたんだ。
 それなのに、アニエスは僕の気持ちをわかってくれなかった。

 だけどもう、決めたんだ。
 僕はアニエスを幸せにするって…!

 叔父上が諦めるなと言ってくれたんだから。

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