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第16話 ファブロー公爵の思惑
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話も通じないし、城の廊下で泣き始めるという、相手側としては真面目に相手にしていられない事をしてくださったヘイスト殿下を近くにいた騎士に任せて、わたしとジェレミー殿下は足早にティールームに向かった。
騎士にはジェレミー殿下の許可がなければ部屋から出さない様にと伝えられたので、ヘイスト殿下がわたしを訪ねてきたりする心配はなくなった。
「アニエス、ごめんね」
メイドがお茶をいれてティールームを出ていくと、ジェレミー殿下が頭を下げてくれた。
「どうしてジェレミー殿下が謝られるんですか?」
「あれでも私の弟だからね」
「お兄様だからって何でも責任を取らないといけないわけではありませんわ。それに…」
言葉を続けようとしたけれど、やっぱりやめておく。
本当はヘイスト殿下はこの城に置いておかない方が良いんじゃないかと言いたかった。
だけど、婚約者だからといってそこまで言ってもいいわけではない。
わたしが家族愛を知らないだけで、普通の家族は家族を簡単に切り捨てられるものではないわよね?
「何を言おうとしたの?」
「何でもありません。それよりも、ジェレミー殿下はお仕事は大丈夫なんですか?」
「夜にするから大丈夫だよ」
ジェレミー殿下は微笑んでくれた後、すぐに表情を曇らせた。
「どうかされましたか?」
「私も質問してもいいかな?」
「ジェレミー殿下でしたら、いくらでもどうぞ!」
「……なんというか、別にヘイストの言っていた事を真に受けたわけではなくて、気になるから聞くけど、やっぱり、婚約してすぐに遠距離になるのは嫌だったりするのかな?」
「え!? いえ、そんな…!」
慌てて首を何度も横に振ってから続ける。
「寂しくないといえば嘘になるかもしれませんが、今の正直な気持ちを話しますと、ヘイスト殿下の姿を見なくて良くなるのであれば遠くへ行くほうが良いかなと。元家族や友人の事も景色が変わると思い出しにくくなると思うんです」
「こんな事になるまで気付かなくてごめん」
「本当に気になさらないで下さいませ! 言い方は悪いかもしれませんが、婚約してすぐに離れた方が気持ち的に楽です。仲良くなればなるほど離れがたくなりますから」
「……そうだね。でも、モナウ辺境伯領の近くに行った際には会いに行ってもいいかな?」
「もちろんです! お待ちしております」
「ありがとう」
微笑み合った後、わたし達はお茶をしながらお互いの事を知るために色んな話をしたのだった。
話をしていると、あっという間に時間が過ぎて、気が付いた時には夕方になっていた。
ジェレミー殿下に別宮まで送ってもらい、部屋の前で別れてすぐに、ここで生活している間、わたしの世話をしてくれる事になったソフィーが近付いてきたので、一緒に部屋の中に入る。
ソフィーはダークブラウンの髪を2つに分けて三編みにした可愛らしい少女で、大人しいけれど仕事はしっかりしてくれる子だ。
わたしと同じ年なのにメイドとして働いているのだから、それだけでもすごいと思う。
わたしなんて自分の身の回りの事をするのに精一杯で人の面倒なんてみれないもの。
「アニエス様、お手紙が届いております」
「え? 手紙?」
仮住まいの部屋に手紙が送られてくるだなんて考えてもいなかったから驚いて聞き返すと、ソフィーは申し訳なさげな表情をして、宛名も送り主も何も書かれていない、真っ白な封筒を差し出してきた。
「誰かからの手紙かわからないなら受け取れないわ。中身は見てくれたの?」
「申し訳ございません。お伝えし忘れておりました。こちら、ファブロー公爵の遣いの方が持ってこられまして、ファブロー公爵からアニエス様宛の手紙なんだそうです。中身を確認したいというと、中から手紙を取り出して下さいました」
「中身は読んでいないの?」
「アニエス様からその旨の許可をいただいておりませんでしたので…。許可いただけましたら、これからは見るようにさせていただきますし、今すぐに、この手紙も確認いたします」
ソフィーの言葉を聞いて少し考えてから、口を開く。
「迷惑をかけてしまうけれど、次にそんな事があったら、その場で確認してもらえるかしら。わたしを呼んでくれてもかまわないし。今回は一緒に見ましょう」
ファブロー公爵だって、あからさまにわたしに嫌がらせは出来ないはずだわ。
しかも、手紙なんて証拠に残るもの。
だけど、警戒はしておかないといけないわ。
そう思って、封筒をソフィーに返してから中身を取り出してもらい、2つに折り曲げられた白い紙を広げてもらう。
手紙の内容は、ジェレミー殿下とわたしとの婚約を祝ってくれている、当たり障りのないものだった。
そのわりにはシンプルな封筒で宛名も差出人も書いてきていないのは失礼なんじゃないかと感じてしまう。
本心ではおめでたく思っていないのが丸わかりね。
手紙の方には、わたし宛で差出人がファブロー公爵だとわかるようにされているから、何だか嫌な気持ちになった。
ソーニャに詳しく聞いたところ、ファブロー公爵の遣いの人間は城の敷地内に入る事が出来ず、ソフィーがわざわざ城門の所まで行ってくれて受け取ってくれたらしかった。
城の敷地内に入れなくしてくれたのは、ジェレミー殿下か陛下が気を遣って下さったのでしょうね。
それにしても、どうしてファブロー公爵はこんな手紙を…?
息子に会ってもらいたいだなんて事も書いてあったし、それって婚約が決まったばかりの相手に手紙で書くものかしら?
ファブロー公爵のご子息は、たしか13歳だったわよね?
会ったりしたら、変な噂をたてられかねないわ。
……ちょっと待って。
もしかして、これって警告なのかしら?
わたしやジェレミー殿下に何かあっても疑われない様にする為とか?
今、わたし達に何か良くない事が起きて犯人がわからない場合、真っ先に疑われるのはファブロー公爵だわ。
だけど、わたしとジェレミー殿下を祝福する素振りを見せていたら、周囲の目が変わると思ったとか…?
今日はジェレミー殿下とのお話が楽しくて聞き忘れてしまったけれど、ファブロー公爵が好きだった女性の死の原因を聞く事にしなくちゃいけないわ。
それに、こんな手紙が来た事も伝えないといけないわよね。
それとも、今頃、ジェレミー殿下の耳に入っているのかしら?
わたしがファブロー公爵からの手紙で頭がいっぱいになっている頃、社交界では、こんな噂が流されていた。
アニエス嬢とヘイスト殿下は愛し合っているのに、ジェレミー殿下に無理矢理別れさせられたのだと――。
騎士にはジェレミー殿下の許可がなければ部屋から出さない様にと伝えられたので、ヘイスト殿下がわたしを訪ねてきたりする心配はなくなった。
「アニエス、ごめんね」
メイドがお茶をいれてティールームを出ていくと、ジェレミー殿下が頭を下げてくれた。
「どうしてジェレミー殿下が謝られるんですか?」
「あれでも私の弟だからね」
「お兄様だからって何でも責任を取らないといけないわけではありませんわ。それに…」
言葉を続けようとしたけれど、やっぱりやめておく。
本当はヘイスト殿下はこの城に置いておかない方が良いんじゃないかと言いたかった。
だけど、婚約者だからといってそこまで言ってもいいわけではない。
わたしが家族愛を知らないだけで、普通の家族は家族を簡単に切り捨てられるものではないわよね?
「何を言おうとしたの?」
「何でもありません。それよりも、ジェレミー殿下はお仕事は大丈夫なんですか?」
「夜にするから大丈夫だよ」
ジェレミー殿下は微笑んでくれた後、すぐに表情を曇らせた。
「どうかされましたか?」
「私も質問してもいいかな?」
「ジェレミー殿下でしたら、いくらでもどうぞ!」
「……なんというか、別にヘイストの言っていた事を真に受けたわけではなくて、気になるから聞くけど、やっぱり、婚約してすぐに遠距離になるのは嫌だったりするのかな?」
「え!? いえ、そんな…!」
慌てて首を何度も横に振ってから続ける。
「寂しくないといえば嘘になるかもしれませんが、今の正直な気持ちを話しますと、ヘイスト殿下の姿を見なくて良くなるのであれば遠くへ行くほうが良いかなと。元家族や友人の事も景色が変わると思い出しにくくなると思うんです」
「こんな事になるまで気付かなくてごめん」
「本当に気になさらないで下さいませ! 言い方は悪いかもしれませんが、婚約してすぐに離れた方が気持ち的に楽です。仲良くなればなるほど離れがたくなりますから」
「……そうだね。でも、モナウ辺境伯領の近くに行った際には会いに行ってもいいかな?」
「もちろんです! お待ちしております」
「ありがとう」
微笑み合った後、わたし達はお茶をしながらお互いの事を知るために色んな話をしたのだった。
話をしていると、あっという間に時間が過ぎて、気が付いた時には夕方になっていた。
ジェレミー殿下に別宮まで送ってもらい、部屋の前で別れてすぐに、ここで生活している間、わたしの世話をしてくれる事になったソフィーが近付いてきたので、一緒に部屋の中に入る。
ソフィーはダークブラウンの髪を2つに分けて三編みにした可愛らしい少女で、大人しいけれど仕事はしっかりしてくれる子だ。
わたしと同じ年なのにメイドとして働いているのだから、それだけでもすごいと思う。
わたしなんて自分の身の回りの事をするのに精一杯で人の面倒なんてみれないもの。
「アニエス様、お手紙が届いております」
「え? 手紙?」
仮住まいの部屋に手紙が送られてくるだなんて考えてもいなかったから驚いて聞き返すと、ソフィーは申し訳なさげな表情をして、宛名も送り主も何も書かれていない、真っ白な封筒を差し出してきた。
「誰かからの手紙かわからないなら受け取れないわ。中身は見てくれたの?」
「申し訳ございません。お伝えし忘れておりました。こちら、ファブロー公爵の遣いの方が持ってこられまして、ファブロー公爵からアニエス様宛の手紙なんだそうです。中身を確認したいというと、中から手紙を取り出して下さいました」
「中身は読んでいないの?」
「アニエス様からその旨の許可をいただいておりませんでしたので…。許可いただけましたら、これからは見るようにさせていただきますし、今すぐに、この手紙も確認いたします」
ソフィーの言葉を聞いて少し考えてから、口を開く。
「迷惑をかけてしまうけれど、次にそんな事があったら、その場で確認してもらえるかしら。わたしを呼んでくれてもかまわないし。今回は一緒に見ましょう」
ファブロー公爵だって、あからさまにわたしに嫌がらせは出来ないはずだわ。
しかも、手紙なんて証拠に残るもの。
だけど、警戒はしておかないといけないわ。
そう思って、封筒をソフィーに返してから中身を取り出してもらい、2つに折り曲げられた白い紙を広げてもらう。
手紙の内容は、ジェレミー殿下とわたしとの婚約を祝ってくれている、当たり障りのないものだった。
そのわりにはシンプルな封筒で宛名も差出人も書いてきていないのは失礼なんじゃないかと感じてしまう。
本心ではおめでたく思っていないのが丸わかりね。
手紙の方には、わたし宛で差出人がファブロー公爵だとわかるようにされているから、何だか嫌な気持ちになった。
ソーニャに詳しく聞いたところ、ファブロー公爵の遣いの人間は城の敷地内に入る事が出来ず、ソフィーがわざわざ城門の所まで行ってくれて受け取ってくれたらしかった。
城の敷地内に入れなくしてくれたのは、ジェレミー殿下か陛下が気を遣って下さったのでしょうね。
それにしても、どうしてファブロー公爵はこんな手紙を…?
息子に会ってもらいたいだなんて事も書いてあったし、それって婚約が決まったばかりの相手に手紙で書くものかしら?
ファブロー公爵のご子息は、たしか13歳だったわよね?
会ったりしたら、変な噂をたてられかねないわ。
……ちょっと待って。
もしかして、これって警告なのかしら?
わたしやジェレミー殿下に何かあっても疑われない様にする為とか?
今、わたし達に何か良くない事が起きて犯人がわからない場合、真っ先に疑われるのはファブロー公爵だわ。
だけど、わたしとジェレミー殿下を祝福する素振りを見せていたら、周囲の目が変わると思ったとか…?
今日はジェレミー殿下とのお話が楽しくて聞き忘れてしまったけれど、ファブロー公爵が好きだった女性の死の原因を聞く事にしなくちゃいけないわ。
それに、こんな手紙が来た事も伝えないといけないわよね。
それとも、今頃、ジェレミー殿下の耳に入っているのかしら?
わたしがファブロー公爵からの手紙で頭がいっぱいになっている頃、社交界では、こんな噂が流されていた。
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