あなたに未練などありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
26 / 40

第23話 未練など残さない

しおりを挟む
 ジェレミー殿下の問いかけに、キャロライン達は体が硬直してしまったみたいに動かない。
 ただただ、ジェレミー殿下を見つめていた。

 彼女達が口を開かないからか、ジェレミー殿下は小さく息を吐いてから言う。

「世の中はそんなに甘くない。それに君達は反省しているというより自分の立場を守ろうとしか考えていないよね」
「そ、そんな事は……」
「ありません、とでも言いたいのかな? そうは見えないし、さっきの言葉からどう読み取ればいい?」
「ほ、本当に反省しているんです!」

 硬直からとけたマーガレットが続ける。

「私達はまだ若いですし、精神が子供なんです。これからはこんな事は絶対に致しませんので、どうかお許し下さい!」
「そうだね。精神が子供だという事は認めよう。だけど、そういう問題じゃないんだ。一度だってしちゃいけない事なんだよ。友人をくだらない理由で裏切る事も、王族を騙す事も子供だってしちゃいけない事だってわかるだろう?」

 ジェレミー殿下に言い聞かせるように言われ、マーガレットは口を噤んだ。

 彼女達は太腿の上で指を組み合わせ、視線を下に落とし、どんな言葉を発すれば、この場を乗り切る事が出来るか考えているようだった。

「君達は反省なんかしてない。だから、裏切られて悲しいはずのアニエスに対して言い訳ばかりするんだよ」
「そ、それは、理由を聞かれたから答えただけで決して言い訳ではありません!」

 デイジーが首を何度も横に振ってジェレミー殿下の言葉を否定した。
 けれど、無駄だった。

 ジェレミー殿下もそうだけれど、わたしも彼女達に何も期待していなかった。
 
 もちろん、わたしもやれば良かった事をしなかった。
 結局は自分が可愛かったのね。
 彼女達に嫌われた事に関しては受け止めなければいけないし、これからは気を付けていこうと思う。

 言ってくれるのを待つのではなく、聞いてみる事もしなければならない。
 それで答えてくれなかったら言ってくれるまで待とう。
 これからはそうしようと思った。

「わたしも自分の事ばかりを考えていたわ。だから謝ります。ごめんなさい」

 ソファーから立ち上がって頭を下げた。
 しばらくしてから顔を上げてソファーに座ると、ジェレミー殿下が心配そうな顔で聞いてくる。

「どうして君が謝るんだ」
「彼女達に嫌な思いをさせたのは確かですから、謝るべきところは謝らねばなりません」
「私にしてみれば、彼女達の言い分は勝手なものだと思うがな」
「感じ方は人それぞれですから。友人であったのなら気付かなければいけないところでした。それに、彼女達とはもう二度と会う事もありませんから、未練も後悔もないようにしたいのです」
「…君がそれで良いならいいが」

 ジェレミー殿下の気持ちは有り難かったし嬉しかったけれど、これはわたしなりのけじめだった。
 彼女達にわたしの気持ちが届いても届かなくても、正直、どちらでも良い。
 ただ、わたしは心からの謝罪をしたつもりだ。

「あの…、という事は、私達の罪も軽くしてくれるって事…?」

 わたしの謝罪の後の第一声がそれだったので、さすがにカチンときてしまい言い返しそうになったけれど、ジェレミー殿下が先に口を開いた。

「そんな訳ないだろう。王族を騙した事はアニエスの件とは別だ」

 ジェレミー殿下は言葉を発したマーガレットを睨みつけたあと、キャロライン、デイジーにも視線を移してから続ける。

「どうやら反省していないようだし、減刑など無理だ。アニエス、もう話はいいだろう?」
「……はい。聞きたい事は聞き終えましたから」

 ジェレミー殿下に促されて立ち上がると、キャロライン達も一斉に立ち上がる。

「ま、待って、アニエス! 私達、友達だったわよね? だから見捨てたりなんかしないわよね?」

 キャロラインが胸の前で手を組み合わせて懇願するようにして言った。

 何を今更、そんな事を言うのかしら。

「そうね、友達だと思ってた。でも、いつからか友達ではなくなってたわ」
「アニエス、もう相手にしなくていい」

 ジェレミー殿下がわたしの腰に手を回して歩き始めるので、わたしも足を動かす。

「待って! 本当にごめんなさい! 悪かったと思っています! 本当です! 馬鹿な嫉妬でした!」
「私も、今になってどうしてあんな嘘をついたのかって後悔しています!」
「本当にごめんなさい! お願いアニエス! 減刑してもらえるように口利きしてほしいの!」

 マーガレット、デイジー、キャロラインの順で謝ってきたけれど、結局は減刑を頼みたいだけだという事が見え見えで、逆にそんな事をしてあげる気にはならなかった。

 今の段階では命をとられるわけではない。
 さすがに処刑だなんだのとかいう話なら減刑を求めるけれど、王家を騙した罪は重くても、ヘイスト殿下が減刑を求めているのであれば、彼女達は未成年だから、親の爵位の剥奪だけで済むだろうだから。

「ふざけたことを言わないでくれ。例え、アニエスが減刑を望んだとしても私が許さない」

 ジェレミー殿下に睨まれた上に強い口調で言われたからか、3人共が情けない顔になり、すぐに目に涙が浮かんでくるのが見えた。

「元気でね。平民の生活に少しでも早く慣れる事を祈っているわ」

 平民の生活だって悪くはないはず。
 ただ、貴族の生活が長かった分、慣れるまでは辛い日々になるでしょう。
 それくらいは我慢してほしいわ。
 しなくてもいい事をわざわざしたのだから。
 
 3人の方を振り返ってから、顔を上げて前を向いた。

 私が彼女達と関わるのは今日で本当に最後だ。

 未練など残さない。

「待って! 待って下さい!」

 キャロライン達が叫んだけれど、ジェレミー殿下はわたしと一緒に部屋から出ると、部屋の前に立っていた騎士に命令する。

「私達を追わせるな。無理に追おうとするなら拘束すると脅してもかまわない。それでもきかないようなら城の敷地内から追い出してくれ」
「承知しました」

 ジェレミー殿下が扉を押さえていたから扉が開かず、中から扉を叩く音と共に、キャロライン達の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。

「開けて、開けて下さい! もう一度チャンスを下さい! ちゃんと、ちゃんと謝りますから!」
「アニエス様! 私達、友達だったじゃないですか! きっとまた、仲良くなれるはずです!」
「話を聞いてよ、アニエス! このままでは、私達は大変な事になっちゃうのよ!?」

 自分達がまいた種じゃないの…。

 キャロラインの言葉に対して、心の中で呟いた後、もう話す事もないのでジェレミー殿下を見る。
 すると、ジェレミー殿下は優しく微笑んで言う。

「行こうか」
「はい」

 ジェレミー殿下がおさえていた扉を騎士2人がおさえ、もう1人いた騎士が女性騎士を呼びに行くのを見届けてから、わたし達はその場を離れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

【完結】私を捨てた皆様、どうぞその選択を後悔なさってください 〜婚約破棄された令嬢の、遅すぎる謝罪はお断りです〜

くろねこ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エリシアは、ある日突然、身に覚えのない罪で断罪され婚約破棄を言い渡される。 味方だと思っていた家族も友人も、誰一人として彼女を庇わなかった。 ――けれど、彼らは知らなかった。 彼女こそが国を支えていた“本当の功労者”だったことを。 すべてを失ったはずの令嬢が選んだのは、 復讐ではなく「関わらない」という選択。 だがその選択こそが、彼らにとって最も残酷な“ざまぁ”の始まりだった。

私より幼馴染を選んだ婚約者に別れを告げたら謝罪に来ましたが、契約を守れない貴族とは取引しませんので

藤原遊
恋愛
祖父が創立した大商会で、跡継ぎとして働いている私。 けれど婚約者は、私より幼馴染を選びました。 それなら構いません。 婚約という契約を守れない相手と、これ以上関係を続けるつもりはありませんから。 祖父の商会は隣国と新たな取引を始めることになりました。 ――その途端、なぜか元婚約者が謝罪に来るようになりましたが、もう遅いです。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

処理中です...