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3 婚約破棄と新たな婚約者
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伯父様の余命宣告から約二十日後、日が傾きかけていた頃の出来事だった。
わたしの就業時間が終わる時間に、お姉様とフサス様が伯父様の元を訪ねてきた。
約束は取り付けていたようだけど、お姉様から、約束の時間までは、わたしには内緒にしてほしいとお願いされていたため言えなかったのだと伯父様は謝ってくれた。
それにしても、この組み合わせは何なのかしら。
そんな疑問は浮かんだけれど、関わりたくもなかったので帰ろうとすると、伯父様からわたしとレイ様も同席してほしいと頼まれてしまった。
不思議に思いつつも、伯父様の頼みを断るわけにもいかないので、一緒に話を聞くことにした。
コの字型に置かれたソファの一人掛けの席に伯父様が座り、わたしとレイ様は向かって右側のソファに、お姉様とフサス様が左側に並んで座った。
座っている位置がおかしい気もするけれど、フサス様の隣に座りたくない。
それにフサス様は胸元が大きく開いたドレスを着たお姉様の胸が気になって仕方がないようだし、隣のほうが見やすいでしょうから何も言わないでおく。
わたしなら胸なんて見てほしくないけれど、お姉様は気にしていないので、存分に見せてあげても良いでしょう。
わたしはなんて優しい婚約者なんだろうか。
姉には優しくないと言われそうだけど気にしない。
「で、話は何かな」
伯父様は笑顔で、お姉様たちに話しかけた。
顔色は良くないけれど、化粧で上手く隠せているし違和感もあまりないからか、一見、元気そうに見える伯父様の姿にお姉様たちは驚いているようだった。
「あの、伯父様、思ったよりもお元気そうで良かったですわ。で、今日は伯父様にお願いがあって来たんですの」
「何だろうか」
「わたくし、フサス様と婚約したいんですの」
お姉様の発言に驚きよりも喜びが勝って『お姉様、たまには良いことも言ってくださるのですね!』と褒めそうになった。
でも、そんな感情を表には出さず、レイ様を見倣って無表情を貫く。
「……どういうことだろうか。僕の決めた婚約者では嫌だと言うことかな」
「はい。名前は知りませんが伯爵家の次男だとお聞きしていますわ。それに比べてフサス様は子爵家の嫡男です。リウは平民になりたがっているのですから、その方を婚約者にしてあげれば良いと思いますわ」
お姉様は懇願するように手を合わせて、伯父様に言った。
伯父様を見ると、柔らかな笑みを浮かべたまま、お姉様を無言で見つめている。
わたしに婚約者が長く見つからなかったのは、平民と仲良くしているからという理由で嫌われていたのでわかる。
そういえば、お姉様はどうして今まで婚約者がいなかったのかしら。
「リウ、君はどう思う?」
伯父様に優しく尋ねられて、少し考えてから答える。
「わたしはお姉様の願い通りにしても良いと思っています」
「おい。それで良いのか? 俺みたいな好条件は他にはいないぞ」
わたしが嫌がるとでも思っていたのか、フサス様が眉根を寄せて聞いてきた。
「そうかもしれませんが、お姉様と一緒に来られたということは、お二人の間ではもう話がついているんですよね」
「そうだ。俺は貧乏な妻をもらうよりも、金持ちの妻がほしい。お前にお金は渡さないと義理の父になる方が言っていたからな」
「そうですか。では、お父様とも話がついているのですね」
「俺の父上もファーシバル公爵閣下が許してくださるなら良いと言ってた」
フサス様の言葉に小さく何度か頷いたあと、お姉様に尋ねてみる。
「お姉様はまだ、婚約者にお会いしてないのでしょう? 自分の婚約者がどんな方かは気にならないのですか?」
「特に気になりませんわ。どうせ、平民になるような方に興味なんてありませんもの」
「お姉様が良いのであればそれで良いのです」
わたしとしては、レイ様が婚約者になってくれるのなら、本当に嬉しい。
お姉様はフサス様をわたしから奪った気でいるかもしれないけれど、こちらとしては感謝の気持ちでいっぱいで、お姉様を拝みたいくらいだ。
伯父様がお姉様に優しい口調で尋ねる。
「本当に相手が誰だか聞かなくても良いんだね? 婚約者の彼が平民になるとは限らないよ」
「フサス様は外見もとても素敵な方ですし、後を継ぐことは確約されていますもの。貴族のままでいられるかわからない方よりもずっと良いですわ」
「君の相手がフサス様よりも君の好みだったらどうするんだい?」
伯父様に問われたお姉様は、ちらりとレイ様に視線を向ける。
「そうですわね。レイ様くらい素敵な方でしたら考えますけれども、そんな方は中々いらっしゃいませんから」
「あなたには僕よりも、テングット子爵令息がお似合いですよ」
レイ様が応えたところで、伯父様が再度、お姉様に尋ねる。
「これ以上の変更は許さないよ。本当に良いんだね?」
「もちろんですわ」
お姉様が大きく頷いた時、わたしは心の中でで喝采した。
笑みが零れそうになっているわたしを見て、伯父様は微笑んで話しかけてくる。
「ファーラと彼女の婚約者になる予定だった彼との顔合わせは、近々行われるパーティーの場の予定だったんだ。リウは参加しない予定だったようだけど、申し訳ないが参加してもらえるかな」
「承知しました」
10日後に行われるパーティーは、伯父様が亡くなるまでに多くの方にお礼を言いたいということで、急遽、開催が決まったものだった。
わたしは、そんな悲しいパーティーに出席したくなくて欠席にしていた。
でも、そこでレイ様を一人にさせるわけにはいかないし、お姉様はフサス様と一緒に来るはずだ。
その時に、改めてお姉様にお礼を言おうと思った。
「というわけで、リウ。俺はお前との婚約を破棄させてもらう」
フサス様は立ち上がって、わたしを指さして叫んだ。
「承知いたしました。ありがとうございます、フサス様」
にこりと微笑んだわたしに、お姉様とフサス様は不思議そうな顔になった。
わたしの就業時間が終わる時間に、お姉様とフサス様が伯父様の元を訪ねてきた。
約束は取り付けていたようだけど、お姉様から、約束の時間までは、わたしには内緒にしてほしいとお願いされていたため言えなかったのだと伯父様は謝ってくれた。
それにしても、この組み合わせは何なのかしら。
そんな疑問は浮かんだけれど、関わりたくもなかったので帰ろうとすると、伯父様からわたしとレイ様も同席してほしいと頼まれてしまった。
不思議に思いつつも、伯父様の頼みを断るわけにもいかないので、一緒に話を聞くことにした。
コの字型に置かれたソファの一人掛けの席に伯父様が座り、わたしとレイ様は向かって右側のソファに、お姉様とフサス様が左側に並んで座った。
座っている位置がおかしい気もするけれど、フサス様の隣に座りたくない。
それにフサス様は胸元が大きく開いたドレスを着たお姉様の胸が気になって仕方がないようだし、隣のほうが見やすいでしょうから何も言わないでおく。
わたしなら胸なんて見てほしくないけれど、お姉様は気にしていないので、存分に見せてあげても良いでしょう。
わたしはなんて優しい婚約者なんだろうか。
姉には優しくないと言われそうだけど気にしない。
「で、話は何かな」
伯父様は笑顔で、お姉様たちに話しかけた。
顔色は良くないけれど、化粧で上手く隠せているし違和感もあまりないからか、一見、元気そうに見える伯父様の姿にお姉様たちは驚いているようだった。
「あの、伯父様、思ったよりもお元気そうで良かったですわ。で、今日は伯父様にお願いがあって来たんですの」
「何だろうか」
「わたくし、フサス様と婚約したいんですの」
お姉様の発言に驚きよりも喜びが勝って『お姉様、たまには良いことも言ってくださるのですね!』と褒めそうになった。
でも、そんな感情を表には出さず、レイ様を見倣って無表情を貫く。
「……どういうことだろうか。僕の決めた婚約者では嫌だと言うことかな」
「はい。名前は知りませんが伯爵家の次男だとお聞きしていますわ。それに比べてフサス様は子爵家の嫡男です。リウは平民になりたがっているのですから、その方を婚約者にしてあげれば良いと思いますわ」
お姉様は懇願するように手を合わせて、伯父様に言った。
伯父様を見ると、柔らかな笑みを浮かべたまま、お姉様を無言で見つめている。
わたしに婚約者が長く見つからなかったのは、平民と仲良くしているからという理由で嫌われていたのでわかる。
そういえば、お姉様はどうして今まで婚約者がいなかったのかしら。
「リウ、君はどう思う?」
伯父様に優しく尋ねられて、少し考えてから答える。
「わたしはお姉様の願い通りにしても良いと思っています」
「おい。それで良いのか? 俺みたいな好条件は他にはいないぞ」
わたしが嫌がるとでも思っていたのか、フサス様が眉根を寄せて聞いてきた。
「そうかもしれませんが、お姉様と一緒に来られたということは、お二人の間ではもう話がついているんですよね」
「そうだ。俺は貧乏な妻をもらうよりも、金持ちの妻がほしい。お前にお金は渡さないと義理の父になる方が言っていたからな」
「そうですか。では、お父様とも話がついているのですね」
「俺の父上もファーシバル公爵閣下が許してくださるなら良いと言ってた」
フサス様の言葉に小さく何度か頷いたあと、お姉様に尋ねてみる。
「お姉様はまだ、婚約者にお会いしてないのでしょう? 自分の婚約者がどんな方かは気にならないのですか?」
「特に気になりませんわ。どうせ、平民になるような方に興味なんてありませんもの」
「お姉様が良いのであればそれで良いのです」
わたしとしては、レイ様が婚約者になってくれるのなら、本当に嬉しい。
お姉様はフサス様をわたしから奪った気でいるかもしれないけれど、こちらとしては感謝の気持ちでいっぱいで、お姉様を拝みたいくらいだ。
伯父様がお姉様に優しい口調で尋ねる。
「本当に相手が誰だか聞かなくても良いんだね? 婚約者の彼が平民になるとは限らないよ」
「フサス様は外見もとても素敵な方ですし、後を継ぐことは確約されていますもの。貴族のままでいられるかわからない方よりもずっと良いですわ」
「君の相手がフサス様よりも君の好みだったらどうするんだい?」
伯父様に問われたお姉様は、ちらりとレイ様に視線を向ける。
「そうですわね。レイ様くらい素敵な方でしたら考えますけれども、そんな方は中々いらっしゃいませんから」
「あなたには僕よりも、テングット子爵令息がお似合いですよ」
レイ様が応えたところで、伯父様が再度、お姉様に尋ねる。
「これ以上の変更は許さないよ。本当に良いんだね?」
「もちろんですわ」
お姉様が大きく頷いた時、わたしは心の中でで喝采した。
笑みが零れそうになっているわたしを見て、伯父様は微笑んで話しかけてくる。
「ファーラと彼女の婚約者になる予定だった彼との顔合わせは、近々行われるパーティーの場の予定だったんだ。リウは参加しない予定だったようだけど、申し訳ないが参加してもらえるかな」
「承知しました」
10日後に行われるパーティーは、伯父様が亡くなるまでに多くの方にお礼を言いたいということで、急遽、開催が決まったものだった。
わたしは、そんな悲しいパーティーに出席したくなくて欠席にしていた。
でも、そこでレイ様を一人にさせるわけにはいかないし、お姉様はフサス様と一緒に来るはずだ。
その時に、改めてお姉様にお礼を言おうと思った。
「というわけで、リウ。俺はお前との婚約を破棄させてもらう」
フサス様は立ち上がって、わたしを指さして叫んだ。
「承知いたしました。ありがとうございます、フサス様」
にこりと微笑んだわたしに、お姉様とフサス様は不思議そうな顔になった。
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