許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ

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2  周りは敵ばかり

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 仕事が休みの日の朝、部屋でのんびりと朝食をとっていると、お姉様が断りもなしに勝手に部屋に入ってきた。

 メイドが出入りしやすいように鍵を締めずにいたのが悪手だった。
 しょうがないので、相手をする。

「おはようございます、お姉様。相変わらずノックするということを覚えませんのね」
「うるさいですわ! あなたの部屋の扉をノックする理由なんてないですわ!」
「マナーだと思いますが、そのマナーも忘れてしまったんですね」

 手に持っていたフォークを皿の上に置いてため息を吐くと、お姉様が命令してくる。

「平民に魂を売ったあなたに言われたくないですわ!」
「で、何の御用でしょうか」
「わたくし、今から街に出て買い物をしようと思いますの。リウは平民と話すのが好きでしょう。店員は商人という名の平民ばかりですから、あなたに会話させてあげますわ」
「侍女かメイドを連れて行かれてはどうです?」

 窓の外を見ると柔らかな日差しが降り注いでいて、わたしにとっては良いお昼寝日和に思えた。

 そういえば伯父様の様子はどうかしら。
 昨日はお元気そうだったから、いきなり、どうこうなることはないわよね。

「リウ! いいから来なさい! 素直に来ようとしないなら痛い目にあわせますわよ!」

 お姉様は近くにいた騎士に指示をして「あと、一分以内に動かなければ剣で体を叩いて!」と叫んだ。
 体罰を受けたことを誰かに報告しようとしても、素肌を男性に見せるのは嫌がるだろうと思ってのことなんでしょう。

 さすがに伯父とはいえ、素肌を見せるのは恥ずかしいし、女性が夫でもない異性に素肌を見せるのは礼儀として良くないものだと教えられている。

 お姉様は普段はそう賢くないのに、変な所には頭を使えるんだから、腹が立つわ。

 一分以内に動けと言われたので、ゆっくりと動きながら出かける準備をした。





*****




 繁華街はネイロス伯爵家から馬車で30分程の場所にあり、多くの人で賑わっていた。

「あれもほしい! あ、これもですわ! これも買ってしまいましょう!」
「お姉様、いい加減にしてくださいませ。お金の使いすぎです。こんなに使って、我が家の財政は大丈夫なのですか」
「何を言っていますの? リウは伯父様の財産の額を知らないから、そんなことが言えるのですわ。それはもうすごい金額ですの。お父様がそれを相続するのですから、これくらい無駄遣いしても大丈夫ですわ」

 お姉様は宝石を片手に満面の笑みを浮かべて言った。
 伯父様は公爵だから財産の額がすごいことは言われなくてもわかる。
 だけど、わたし以外の家族が伯父様の死を願っているみたいで嫌になった。

「お父様が相続することになるのでしょうけれど、まだ伯父様は元気にしていらっしゃいます。余命を宣告されはしましたが、もっと長生きしてくれますわ」
「そんな嘘を言っても無駄ですわよ。伯父様が弱っていっていることは聞いておりますから」

 お姉様は不機嫌そうに眉根を寄せると、鬱陶しそうに手を振る。

「リウ、あなたと買い物してもやっぱり楽しくありませんわ。別の所に行ってかまいませんわよ。あなた一人で乗る馬車はありませんけど」
「辻馬車でも拾って帰りますのでご心配なく」
「あら、あなたは自分でそんなことができますの? 平民と友人だったからって、自分で馬車を拾うことができるだなんてすごいですわ」

 お姉様は小馬鹿にしたように鼻で笑うと、近くにいた騎士に命令する。

「リウを辻馬車の通る場所まで案内してあげてくださいな。金魚のフンみたいにくっついて来るから鬱陶しいんですの」
「承知しました」
「お姉様が付いてこいといったことを、もう忘れてしまったのですね。お姉様の記憶力の悪さにはいつも驚かされますわ」
「なんですって!?」

 お姉様は顔を真っ赤にして怒り始めたけれど、まったくもって怖くない。

 伯父様の件を知ってから、わたし以外の家族は伯父様の遺産を当てにして無駄遣いをするようになった。
 今日の買い物もそうだし、お兄様は女性のいる店に入り浸りになり、お母様は宝石商を呼びつけて散在するし、お父様はギャンブルにもハマり始めた。

 最初に負けが続けば目も覚めるのかもしれないけど、なぜだかビギナーズラックというものが起きる。
 そのせいで、ギャンブルを止められない状態に陥っていた。
 
 それだけではなく、お金の感覚が麻痺し始めたお父様たちは、使用人や騎士にどれだけチップを多く渡せるかというゲームを始めた。

 チップを渡すことは悪いことではない。
 だけど、使用人や騎士の多くがチップを渡さなければ働かなくなってしまった。

「とっととリウを連れ出してくださいな!」

 わたし以外の家族の言うことを聞けば、その場でお金がもらえるので騎士も使用人もすぐに言うことを聞く。
 
 今回も同じでお姉様からチップを渡された騎士は、わたしを蔑んだ目で見たあと、遠慮することなく後ろから羽交い締めにしてきた。

「ちょっと! 放して!」
「僕だって好きでやっているわけではありません。ファーラ様の命令で仕方なくなんですよ」

 騎士は笑いながら言った。
 ちなみにファーラというのはお姉様の名前だ。
 他の騎士はお姉様に付いていきながらも、わたしをチラチラ見て失笑している。

 騎士は平民ではなく、貴族としての扱いを受けるため、平民を馬鹿にしている人が多い。
 自分たちも元々、平民だったのにもかかわらずだ。
 彼らは平民と共存しようとするわたしのことを変わった人間だと思っていて、昔から嫌な態度を取ってくる人も多い。
 その態度が余計にわたしの家族に気に入られて、わたしに優しくしてくれる騎士や使用人は冷遇されることになってしまっていた。

 どうせチップを渡すなら、こんな人じゃなくて、その人たちに渡したいのに!

「放して。自分で家に帰れるわ」
「そう言われましてもファーラ様からの命令ですから」

 羽交い締めをしてきている騎士とは別の騎士が、わたしの前に立ってニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべた。

 お金を渡さないと、私を放す気はないらしい。

「あなたたち、仕事をなんだと思ってるの?」
「僕たちだって生きるためにやっているんですよ。嫌なことをされたくないのであれば、チップをもっと多くくださいよ」
「チップは良い仕事をしてくれた人に感謝の気持ちを込めて渡すものよ。どうしてもほしいならお姉様たちからもらったら良いわ」
「じゃあ、ずっとこのままでいますか?」

 騎士たちは大声で笑い始めた。

 こんな人たちに多くのお金を払いたくない。
 でも、払わなければ放してもらえない。

「わかったわ。ポーチから出すから片手だけでも自由にさせて」

 ポーチに無造作に入れていた一番低額の紙幣を自由にしてもらえた片手で数枚取り出して差し出すと、不満げにしながらも、もう片方の手を放してもらえた。

 こんな人たちがいる邸からは出たい。
 かといって、あんな男と結婚もしたくない。

 いつもなら伯父様に相談していたけれど、正直に言うと、伯父様が無理をして仕事をしてくださっていることが、目に見えてわかってきた。
 これ以上、心配事は増やしたくない。

 レイ様や友人たちに相談してみよう。

 せっかく街に出てきたので、邸に帰る前に学園時代の友人が働いているお店に向かうことにした。
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