許してもらえるだなんて本気で思っているのですか?

風見ゆうみ

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4  伯父が考えてくれていたこと

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 お姉様たちと別れたあと、レイ様とこれからについて話し合ったため、かなり遅い時間になってしまった。
 今日はファーシバル邸に泊まらせてもらうことになり、夕食も用意してもらえた。

 夕食を共にしていたわたしに、伯父様が苦笑しながら話しかけてくる。

「ファーラがあそこまで考え無しだとは思っていなかったよ」
「お父様もあんな感じですが、昔はそうではなかったのでしょうか」
「うーん、そうだね。そう言われてみれば馬鹿だったかもしれない」

 伯父様は大きく息を吐いたあと、フォークを皿の上に置いて頷いた。

 少なめに用意されていた皿の上の料理はほとんど減っていない。
 食欲が落ちてきているのだとわかり悲しくなる。

「伯父様、こんなことは言いたくありませんが、無理をしてでも食べたほうが良いかと思います」
「わかっているよ。だから、少しずつ食べているんだ」
「……余計なことを言ってしまい申し訳ございません」
「リウが私のことを心配して言ってくれているのはわかっているから、謝らなくていいよ。ありがとう、リウ」

 伯父様はダークブラウンの前髪をかきあげて、笑顔を見せてくれた。

「本当はもっと長く君の味方でいたかったんだが申し訳ない」
「謝らないでください! 伯父様には本当に感謝しているんです」
「ありがとう。テングット子爵は良い人だから、彼の息子も君の味方になってくれるかもしれないと思ったが駄目だった。でも、レイならリウを守ってくれるだろう」
「……大丈夫ですわ、伯父様。一人になってもわたしは負けません」

 伯父様の心残りにならないように、わたしは大丈夫だと伝えたかった。

「レイは君を一人になんかしないよ」

 伯父様はそう言ってから、椅子の背に深くもたれかかって話し始める。

「本当はリウの婚約者は、レイにしようと考えていたんだよ」
「そうだったのですか」
「でも、ファーラがレイに興味があると聞いたんだ。だから、君にテングット子爵令息を紹介して、ファーラにレイを紹介することに決めた」
「では、どうして、お姉様に婚約者はレイ様だと、すぐに伝えなかったのですか」

 このことは前々から疑問だった。
 聞いてみると、伯父様は苦笑して答える。

「……そうだね。レイにファーラとの婚約の話を伝えた時、彼のポーカーフェイスが崩れたんだ。それってよっぽどのことだろう。だから、さすがの僕も躊躇したんだよ。パーティーの日までにレイが何も言わなければ、ファーラと婚約してもらうつもりだった」
 
 レイ様は伯父様に何か考えがあるのだろうと言っていた。
 それはある意味、間違ってはいなかったのね。

「シュード伯爵家にはいつ連絡をされるのですか」
「手紙は明日の朝一番に持っていってもらうよ。もしかしたら、レイがもう連絡をしているかもしれないがね」
「わたしに変わったということで、レイ様のご両親から婚約を反対されたりしないでしょうか」
「大丈夫だよ。シュード伯爵家は平民を大事にしている家系だ。君の考えを理解してくれている」
「……それなら良かったです」
「レイも婚約者が君に変更されて喜んでたよ」

 社交辞令だと思うけれど、そう言ってもらえてホッとする。
 
 レイ様のご両親からは、伯父様やレイ様の様子からして、わたしとの婚約を反対されることはないと思う。
 でも、婚約者を変更するようなことになって、伯父様への信用が落ちる可能性があることだけが嫌だった。

 わたしが重い顔をしていたからか、伯父様が明るい口調で話しかけてくる。

「リウ、ファーラの婚約者が決まらなかった理由を教えてあげようか」
「……良いんですか?」
「でも、言いふらしてはいけないよ」
「もちろんです」
「実はファーラは何人もの相手と見合いをしているんだが、全て断られているんだ。理由はワガママすぎるからなんだってさ」

 その話を聞いた時、伯父様がレイ様をお姉様の婚約者にと考えた理由がわかった気がした。

 お姉様の好みだったからだけではなく、お姉様をコントロールできそうなのがレイ様だったんだわ。

 伯父様はお姉様のことを考えて、レイ様を婚約者にした。
 でも、レイ様の様子を見て、お姉様には曖昧にしか伝えなかった。
 伯父様は自分のことで大変なはずなのに、わたしやお姉様たちのことも考えていてくれたのだと思うと、感謝の気持ちで胸がいっぱいになった。



*****



 パーティー当日、レイ様とは会場で待ち合わせをしているので、一人で馬車に乗って、ファーシバル邸に向かおうとしていると、お姉様が話しかけてきた。

「あら、パートナーの方は迎えに来てくださらないんですの?」
「はい。お姉様も知っておられると思いますが、お相手の方が誰なのか、パーティー会場で伯父様から招待客の皆さんの前で紹介してもらうことになっているんです」
「そ、そうでしたわね」
 
 白を基調とした膝上丈のドレスを着たお姉様は、そのことを忘れていたみたいだ。
 焦った顔をして、お姉様が頷いた時、ワイングラスを持って通りかかったお父様が、わたしのドレスに中身を掛けてきた。

 慌てて避けたけれど避けきれず、薄い青色のイブニングドレスの裾に赤色の液体が染みていく。

「そんな格好で行くのか? お前みたいな平民好きにはお似合いの格好だ」

 お父様は酔っ払っているようで、足がふらついていて、真っすぐ立っていられない。
 今日は両親はパーティーに参加しないので、家で呑んでいるようだった。

 それにしても困ったわ。

 着替えていたら、時間に間に合わなくなってしまう。
 予備のドレスがあるから、それを持っていって向こうで着替えさせてもらおう。

「黙り込んでどうしたんだ。そんなに嬉しかったのか?」

 酔っ払っているとはいえ、わざとドレスを汚そうとしたことはわかったので、いつもの嫌味を返す。
 
「ありがとうございます。わたしにはこのほうが似合うとわざわざ父がかけてくれましたと、伯父様に伝えておきますわね。お父様のドレスの好みがよくわかりましたわ」
「お、おい、ちょっと待て」

 お父様は焦った様子で、歩き出したわたしを止めようとしてきた。
 でも、足がもつれたのか、近くにいたお姉様を巻き込んで派手に転んだ。


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