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1 嫌な予感
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目が覚めた時から、嫌な予感がしていた。
外が大雨で憂鬱な気分になるならまだしも、窓を開けて空を見上げると、雲一つ無い青空が広がっている。
それに、今日は特に出かける予定もない。
嫌な予感は気の所為だと思うことにしたのだが、朝食の席に妹のケイティが姿を現さなかったことで、そういうわけにもいかなくなった。
メイドに尋ねてみると、朝早くから出かけていったと言い、行き先は言わなかったそうだ。
御者には行き先を告げているだろうから、戻ってきたら聞けば良い。
他人事のように考えいていた時、私の婚約者である王太子殿下からの急な呼び出しが入った。
――ああ、嫌な予感が的中してしまった。
屋敷から遠くない王城に向かう馬車の中で、私と一緒に呼び出されたお父様に、呼び出された理由を聞いてみたけれど、見当がつかないと言われてしまった。
登城して謁見の間に通されると、すでに人がおり、その顔をよく見てみると、公爵家の当主ばかりが集められていることがわかった。
どんな理由でここに来たのか聞いてみても、皆、要件はわからないまま呼び出されたようだった。
そうこうしていると、朝、屋敷で姿が見えなかったケイティが謁見の間に入ってきた。
ケイティは、私と目が合うとにこりと微笑む。
どうしてここに来たのか問いかけようとしたが、今まで開放されていた扉が静かに閉められたので、王太子殿下が入ってくるのだとわかり、話しかけるタイミングを失った。
「お姉さま、ごめんなさいね」
ケイティは私の隣に来るなり、小声でそう言うと、なぜか玉座に続く階段を上っていく。
ああ。
呼び出された理由が何だか、わかった気がする。
お父様に無言で視線を送ると、大きなため息を吐く。
「……とにかく話を聞こう。考えるのはそれからだ。言っておくが、本当に私は何も知らない。ただ、絶対にお前に危害は加えさせない」
「ありがとうございます、お父様。ご迷惑をおかけします」
私と兄妹かと間違われることもあるほどに若く見えるお父様は、慰めるように私の肩に手を置いた。
壇上に王太子殿下が現れると、壇下にいた人間は頭を下げる。
私もそれに倣うと、王太子殿下は満足そうな声で「頭を上げろ」と言った。
「今日、お前たちに集まってもらったのは、発表したいことがあるからだ」
それはそうでしょうね。
気まぐれで集められても困るわ。
ケイティは王太子殿下の隣で、なぜか笑みを浮かべている。
病に冒されている国王陛下の側近であるワイアットが、王太子殿下の座っている椅子の後ろに立ち、冷めた目で彼を見ていることに気がついた。
ワイアットは私の家と同じく、五大公爵家の一つである、レストバーン家の長男であり、私の幼馴染だ。
ワイアットがあそこにいるのはまだしも、ケイティが壇上にいることが許されている時点で、私とお父様の脳裏によぎった不安は確信に変わった。
「ソフィア・ミーデンバーグ」
私の名が呼ばれたので、無言で王太子殿下を見つめる。
「この時をもって、俺は貴様との婚約を破棄し、貴様の妹と婚約する。ケイティに今までしてきたことは許せんが、国外追放などしてやるものか。貴様は俺とケイティが愛を育んでいく様子を間近に見て苦しめばいいのだ。そして、地獄に落ちればいい」
私の住んでいる国、ムダルガ国の王太子である、ゼント・ノーフォッジ様は、中肉中背の体型に、とても整った顔立ちの持ち主だ。
そんなゼント様は、赤色の腰まである長い髪を揺らし、邪悪にも見える笑みを浮かべた。
婚約破棄も気になるけど、それよりも気になる発言があったわ。
「ケイティに今までしてきたことというのは、どのようなことを言っておられるのでしょうか」
「しらばっくれるな! 貴様がケイティに暴力をふるっていたことはわかっているんだぞ!」
「……暴力、ですか?」
「そうだ! ケイティから聞いたぞ! 貴様は少しでも気に入らないことがあれば、ケイティに殴る蹴るの暴行をくわえているのだろうが!」
できないこともないけど、そんなことをするわけがないでしょう!
大体、そんなことをしているのに、誰も止めないことのほうがおかしいわ。
唖然としている私に向かって、王太子殿下は続ける。
「俺を奪われたくないからといって、ケイティに嫉妬したらしいが、嫉妬にも程がある。そんな女が王太子妃など務まるわけがない!」
「……ケイティに暴力をふるった覚えはありません」
「ゼント様、わたしにだけじゃありませんわ。メイドにもですわ」
ケイティはゼント様に体を密着させて言った。
そんなことをしていたのは、私ではなくあなたでしょう。
1年前のある日、何かに苛立ったケイティはストレス発散のために、陰でメイドに暴力をふるった。
私たちにこのことを言えば、あなたの家族を殺すと脅されたメイドは、怖くて我慢し続けた。
でも、さすがに怯えきっているメイドの様子に気がつかないわけがない。
お父様がケイティを問いただしたけれど、彼女は否定した。
現場を押さえれば早かったが、また、メイドに怖い思いをさせるわけにはいかず、ケイティに監視をつけると、メイドへの暴力はなくなった。
自分がやっていたことを、私がやっていたことにしているらしい。
調べたらわかることなのに、ゼント様は調べる気もなさそうね。
お父様は今は発言の許可をもらっていないから何も言わないだけで、あとで真実を話してくれるはずだ。
「殿下、私がケイティに暴力をふるったという話は全くの嘘です。ですので、今回呼び出された要件は、私から妹に婚約者を変更するという話でよろしいでしょうか」
ミーデンバーグ公爵家の長女である私、ソフィアは怒りと動揺で震えそうになる声を、なんとか正常に保って尋ねた。
「貴様は頭の悪い奴だな。そうだと言っているだろう。……ケイティ!」
「はいっ!」
名を呼ばれたケイティは場違いな明るい声を出して返事をすると、ドレスの裾をまくりあげ、細くて白い足首や太ももをあらわにして、椅子に座っている王太子殿下の太ももの上に座った。
「あなたのケイティはここにいますわ」
ちゅ。
というリップ音を立てて、ケイティは王太子殿下の頬にキスをした。
すると、ゼント様も優しい笑みを浮かべ、「俺の可愛いケイティ」と言って、彼女の額にキスをした。
その瞬間、私の横で跪いている、お父様が大きなため息を吐いたのがわかった。
ケイティはお父様の姉の娘だった。
ケイティの両親は私が7歳、ケイティが5歳の頃に事故で亡くなった。
ケイティのお父様の弟が伯爵の家督を継いだけれど、引き取ることを拒んだため、ケイティはミーデンバーグ公爵家の養女となり、私にとっては従姉妹から妹に変わった。
ケイティはストロベリーチョコのような色合いのウェーブのかかった長い髪に、薄いピンク色の瞳に透き通るような白い肌を持ち、小顔でアーモンド型の大きな目で可愛らしい顔立ちをしている。
その上に自分を可愛く見せる努力を小さい頃から続けていた。
私は彼女とは正反対に地味な顔立ちで、体型も少し痩せ気味というくらいで目立ったところはない。
黒色の長い髪をハーフアップにし、美人だと言ってもらえたことはあるけれど、見た目の華やかさはケイティには到底敵わない。
そんな私をケイティが嫌っているということは、前々から気づいていた。
理由は知らない。
嫌われているとわかった時点で、二人きりになることをやめたからだ。
だけど、それをしたことによって、こんなことになったのかもしれない。
関わることをやめれば、ちょうど良い関係が築けると思い込んでいた、私が馬鹿だった。
それにしても、ケイティは賢くない。
そんな彼女にひっかかるなんて、こんな人が王太子だなんて心配だわ。
「ゼント様、お姉さまが睨んでいるわ。どうしましょう。お姉さまは本当に怖いんです」
「おい、ソフィア、ケイティを睨むな」
「ケイティを睨んでなんていませんわ」
ケイティではなく、あなたを睨んでいたのですが、気づいてもらえないようで残念です。
心の中でそう思いながら、にこりと微笑んで見せると、ゼント様は眉根を寄せた。
「おい。冷笑にしか見えない、その笑顔をどうにかしろ。本当に可愛げがない。ケイティを怖がらせた罪だけで、貴様を処刑してやりたいくらいだ」
「あの、ゼント様、処刑をするのってやっぱり難しいんですか? この前、お姉さまを処刑してくださると言っていたのに駄目になったんですか?」
「すまない。俺のケイティをいじめたという理由だけでは、周りの者が、ソフィアの処刑に納得してくれなくてな。ソフィアはいじめなどしないと、皆が言うんだ」
はい?
処刑?
しかも、ケイティをいじめたからという嘘の理由で?
冤罪をかけて、私を処刑をしようとしていたって言うの?
事実確認もせずに!?
やってもいないことで処刑されるだなんて、絶対に嫌よ。
王太子殿下も周りに止められた時に、自分の言っていることが普通とは違うことに気づいてほしいものだわ。
「俺の周りにはくだらない家臣しかおらん。父上が亡くなったら、城内にいる人間を総入れ替えしてやる」
「ゼント様、それって私もですか?」
「お前は妻として、俺のずっと隣にいるんだ」
ケイティの顎を掴み、殿下は私たちに見せつける様に、彼女と深いキスを交わすと、唇を離したあとは、嫌な笑みを浮かべてこちらを見た。
見たくもないものを見せられてしまった。
相手が王太子殿下とはいえ、迷惑料がほしいわ。
呆れた顔でゼント様たちを見ていると、ゼント様の視線が私から、私の後方に移ったことがわかった。
「ケイティを視界に入れることは許さん。彼女は俺のものだ。欲しがってもやらんぞ」
不敬だとわかっていながらも王太子殿下から顔を背けて後方を見ると、お父様を含む公爵家の当主が呆れた顔をしていた。
ここにいる人たちは皆、既婚者だし、18歳の私と年の近い子供がいる人しかいない。
奥様だって健在だ。
皆、口に出せずにいるのは、呆れ返ってものも言えない状態になっているのでしょう。
すると、ずっと黙って様子を見守っていたワイアットが、とうとう口を開いた。
「では、彼女を私たちの目に見えないところに隠しておけば良いのではないでしょうか」
ワイアットとは幼い頃からの付き合いで、彼が本当に笑っているのか作り笑顔なのか、すぐに判断できる。
今回の笑顔は、明らかな作り笑顔だった。
外が大雨で憂鬱な気分になるならまだしも、窓を開けて空を見上げると、雲一つ無い青空が広がっている。
それに、今日は特に出かける予定もない。
嫌な予感は気の所為だと思うことにしたのだが、朝食の席に妹のケイティが姿を現さなかったことで、そういうわけにもいかなくなった。
メイドに尋ねてみると、朝早くから出かけていったと言い、行き先は言わなかったそうだ。
御者には行き先を告げているだろうから、戻ってきたら聞けば良い。
他人事のように考えいていた時、私の婚約者である王太子殿下からの急な呼び出しが入った。
――ああ、嫌な予感が的中してしまった。
屋敷から遠くない王城に向かう馬車の中で、私と一緒に呼び出されたお父様に、呼び出された理由を聞いてみたけれど、見当がつかないと言われてしまった。
登城して謁見の間に通されると、すでに人がおり、その顔をよく見てみると、公爵家の当主ばかりが集められていることがわかった。
どんな理由でここに来たのか聞いてみても、皆、要件はわからないまま呼び出されたようだった。
そうこうしていると、朝、屋敷で姿が見えなかったケイティが謁見の間に入ってきた。
ケイティは、私と目が合うとにこりと微笑む。
どうしてここに来たのか問いかけようとしたが、今まで開放されていた扉が静かに閉められたので、王太子殿下が入ってくるのだとわかり、話しかけるタイミングを失った。
「お姉さま、ごめんなさいね」
ケイティは私の隣に来るなり、小声でそう言うと、なぜか玉座に続く階段を上っていく。
ああ。
呼び出された理由が何だか、わかった気がする。
お父様に無言で視線を送ると、大きなため息を吐く。
「……とにかく話を聞こう。考えるのはそれからだ。言っておくが、本当に私は何も知らない。ただ、絶対にお前に危害は加えさせない」
「ありがとうございます、お父様。ご迷惑をおかけします」
私と兄妹かと間違われることもあるほどに若く見えるお父様は、慰めるように私の肩に手を置いた。
壇上に王太子殿下が現れると、壇下にいた人間は頭を下げる。
私もそれに倣うと、王太子殿下は満足そうな声で「頭を上げろ」と言った。
「今日、お前たちに集まってもらったのは、発表したいことがあるからだ」
それはそうでしょうね。
気まぐれで集められても困るわ。
ケイティは王太子殿下の隣で、なぜか笑みを浮かべている。
病に冒されている国王陛下の側近であるワイアットが、王太子殿下の座っている椅子の後ろに立ち、冷めた目で彼を見ていることに気がついた。
ワイアットは私の家と同じく、五大公爵家の一つである、レストバーン家の長男であり、私の幼馴染だ。
ワイアットがあそこにいるのはまだしも、ケイティが壇上にいることが許されている時点で、私とお父様の脳裏によぎった不安は確信に変わった。
「ソフィア・ミーデンバーグ」
私の名が呼ばれたので、無言で王太子殿下を見つめる。
「この時をもって、俺は貴様との婚約を破棄し、貴様の妹と婚約する。ケイティに今までしてきたことは許せんが、国外追放などしてやるものか。貴様は俺とケイティが愛を育んでいく様子を間近に見て苦しめばいいのだ。そして、地獄に落ちればいい」
私の住んでいる国、ムダルガ国の王太子である、ゼント・ノーフォッジ様は、中肉中背の体型に、とても整った顔立ちの持ち主だ。
そんなゼント様は、赤色の腰まである長い髪を揺らし、邪悪にも見える笑みを浮かべた。
婚約破棄も気になるけど、それよりも気になる発言があったわ。
「ケイティに今までしてきたことというのは、どのようなことを言っておられるのでしょうか」
「しらばっくれるな! 貴様がケイティに暴力をふるっていたことはわかっているんだぞ!」
「……暴力、ですか?」
「そうだ! ケイティから聞いたぞ! 貴様は少しでも気に入らないことがあれば、ケイティに殴る蹴るの暴行をくわえているのだろうが!」
できないこともないけど、そんなことをするわけがないでしょう!
大体、そんなことをしているのに、誰も止めないことのほうがおかしいわ。
唖然としている私に向かって、王太子殿下は続ける。
「俺を奪われたくないからといって、ケイティに嫉妬したらしいが、嫉妬にも程がある。そんな女が王太子妃など務まるわけがない!」
「……ケイティに暴力をふるった覚えはありません」
「ゼント様、わたしにだけじゃありませんわ。メイドにもですわ」
ケイティはゼント様に体を密着させて言った。
そんなことをしていたのは、私ではなくあなたでしょう。
1年前のある日、何かに苛立ったケイティはストレス発散のために、陰でメイドに暴力をふるった。
私たちにこのことを言えば、あなたの家族を殺すと脅されたメイドは、怖くて我慢し続けた。
でも、さすがに怯えきっているメイドの様子に気がつかないわけがない。
お父様がケイティを問いただしたけれど、彼女は否定した。
現場を押さえれば早かったが、また、メイドに怖い思いをさせるわけにはいかず、ケイティに監視をつけると、メイドへの暴力はなくなった。
自分がやっていたことを、私がやっていたことにしているらしい。
調べたらわかることなのに、ゼント様は調べる気もなさそうね。
お父様は今は発言の許可をもらっていないから何も言わないだけで、あとで真実を話してくれるはずだ。
「殿下、私がケイティに暴力をふるったという話は全くの嘘です。ですので、今回呼び出された要件は、私から妹に婚約者を変更するという話でよろしいでしょうか」
ミーデンバーグ公爵家の長女である私、ソフィアは怒りと動揺で震えそうになる声を、なんとか正常に保って尋ねた。
「貴様は頭の悪い奴だな。そうだと言っているだろう。……ケイティ!」
「はいっ!」
名を呼ばれたケイティは場違いな明るい声を出して返事をすると、ドレスの裾をまくりあげ、細くて白い足首や太ももをあらわにして、椅子に座っている王太子殿下の太ももの上に座った。
「あなたのケイティはここにいますわ」
ちゅ。
というリップ音を立てて、ケイティは王太子殿下の頬にキスをした。
すると、ゼント様も優しい笑みを浮かべ、「俺の可愛いケイティ」と言って、彼女の額にキスをした。
その瞬間、私の横で跪いている、お父様が大きなため息を吐いたのがわかった。
ケイティはお父様の姉の娘だった。
ケイティの両親は私が7歳、ケイティが5歳の頃に事故で亡くなった。
ケイティのお父様の弟が伯爵の家督を継いだけれど、引き取ることを拒んだため、ケイティはミーデンバーグ公爵家の養女となり、私にとっては従姉妹から妹に変わった。
ケイティはストロベリーチョコのような色合いのウェーブのかかった長い髪に、薄いピンク色の瞳に透き通るような白い肌を持ち、小顔でアーモンド型の大きな目で可愛らしい顔立ちをしている。
その上に自分を可愛く見せる努力を小さい頃から続けていた。
私は彼女とは正反対に地味な顔立ちで、体型も少し痩せ気味というくらいで目立ったところはない。
黒色の長い髪をハーフアップにし、美人だと言ってもらえたことはあるけれど、見た目の華やかさはケイティには到底敵わない。
そんな私をケイティが嫌っているということは、前々から気づいていた。
理由は知らない。
嫌われているとわかった時点で、二人きりになることをやめたからだ。
だけど、それをしたことによって、こんなことになったのかもしれない。
関わることをやめれば、ちょうど良い関係が築けると思い込んでいた、私が馬鹿だった。
それにしても、ケイティは賢くない。
そんな彼女にひっかかるなんて、こんな人が王太子だなんて心配だわ。
「ゼント様、お姉さまが睨んでいるわ。どうしましょう。お姉さまは本当に怖いんです」
「おい、ソフィア、ケイティを睨むな」
「ケイティを睨んでなんていませんわ」
ケイティではなく、あなたを睨んでいたのですが、気づいてもらえないようで残念です。
心の中でそう思いながら、にこりと微笑んで見せると、ゼント様は眉根を寄せた。
「おい。冷笑にしか見えない、その笑顔をどうにかしろ。本当に可愛げがない。ケイティを怖がらせた罪だけで、貴様を処刑してやりたいくらいだ」
「あの、ゼント様、処刑をするのってやっぱり難しいんですか? この前、お姉さまを処刑してくださると言っていたのに駄目になったんですか?」
「すまない。俺のケイティをいじめたという理由だけでは、周りの者が、ソフィアの処刑に納得してくれなくてな。ソフィアはいじめなどしないと、皆が言うんだ」
はい?
処刑?
しかも、ケイティをいじめたからという嘘の理由で?
冤罪をかけて、私を処刑をしようとしていたって言うの?
事実確認もせずに!?
やってもいないことで処刑されるだなんて、絶対に嫌よ。
王太子殿下も周りに止められた時に、自分の言っていることが普通とは違うことに気づいてほしいものだわ。
「俺の周りにはくだらない家臣しかおらん。父上が亡くなったら、城内にいる人間を総入れ替えしてやる」
「ゼント様、それって私もですか?」
「お前は妻として、俺のずっと隣にいるんだ」
ケイティの顎を掴み、殿下は私たちに見せつける様に、彼女と深いキスを交わすと、唇を離したあとは、嫌な笑みを浮かべてこちらを見た。
見たくもないものを見せられてしまった。
相手が王太子殿下とはいえ、迷惑料がほしいわ。
呆れた顔でゼント様たちを見ていると、ゼント様の視線が私から、私の後方に移ったことがわかった。
「ケイティを視界に入れることは許さん。彼女は俺のものだ。欲しがってもやらんぞ」
不敬だとわかっていながらも王太子殿下から顔を背けて後方を見ると、お父様を含む公爵家の当主が呆れた顔をしていた。
ここにいる人たちは皆、既婚者だし、18歳の私と年の近い子供がいる人しかいない。
奥様だって健在だ。
皆、口に出せずにいるのは、呆れ返ってものも言えない状態になっているのでしょう。
すると、ずっと黙って様子を見守っていたワイアットが、とうとう口を開いた。
「では、彼女を私たちの目に見えないところに隠しておけば良いのではないでしょうか」
ワイアットとは幼い頃からの付き合いで、彼が本当に笑っているのか作り笑顔なのか、すぐに判断できる。
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