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10 元妹への贈り物 ②
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「わたしに朝食を持ってきてくれたの?」
ケイティが不思議そうな顔をするので笑顔で答える。
「そうよ。元姉から、あなたへの個人的なプレゼントよ。食べてくれるわよね」
「べ、別にいいけど」
怪しんではいるみたいだけど、好奇心のほうが勝ったようだった。
たとえ、ケイティが嫌がったとしても食べさせる方向に持ってはいくつもりだったけど、すんなりいって良かったわ。
「スープを持ってきてくれる?」
部屋の中から声をかけると、スープの入った皿やカトラリーがのったワゴンを押して、メイドが中に入ってきた。
「ありがとう。ケイティ様にお出ししてくれる?」
「承知いたしました」
メイドは深々と頭を下げたあと、ケイティの前に置かれていた食事を下げ、持ってきた皿とスプーンを置くと、大人しくなっていたゼント様が、声を張り上げる。
「おい、ソフィア! 勝手な真似をするな! 俺は許可していないんだぞ!」
「ゼント様には許可をもらっていませんが、国王陛下からの許可は得ております」
「意味がわからん。父上から許可を得ているとはどういうことだ?」
「プライベートルーム以外での城内は、私は自由に動けることになっているのです。ダイニングルームは共通の場所ですから、プライベートルームではありません。メイドは私が許可したので良いのです」
「病人に権利なんてあるの?」
ケイティが小馬鹿にしたような口調で尋ねてきた。
「あるに決まっているでしょう。病人でも、陛下であることに変わりはないじゃないの」
「病気で皆に迷惑をかけているのに、どうして偉そうにできるの?」
「そんなことを思う、あなたの神経を疑うわ」
無邪気なふりをして聞いてくるケイティに苛立ちを覚え、この件でケイティと話すことはやめる。
そして、メイドに持ってもらっていた国王陛下からの書状を受け取って、ゼント様に差し出す。
「お読みください」
「何が書いてあるっていうんだ」
ゼント様は書状を奪うように受け取ると、内容に目を通し始めた。
最初は苛立たしげだった彼の表情が驚きの表情に変わっていくのが楽しくて、普段なら見たくもない顔なのに、ついつい凝視ししてしまう。
――こういう嫌な態度は、ゼント様やケイティだけにすることにしないとね。
ケイティはスープよりも書状のほうが気になるらしく、ゼント様の所に駆け寄って尋ねる。
「ゼント様、一体、何が書いてあるんです? 私、文字が読めなくて、何が書いてあるのかわからないんです。教えてもらえませんか?」
「可愛いケイティ。今はかまわないが、王妃になる以上は文字を読めるようにしないといけないな」
「わたし、勉強が嫌いなんです。だから、勉強したくありません。文字が読めなくても生きていけますよ。他の人に読んでもらえば良いんですから。それに、自分の名前は書けるので良いでしょう?」
「ケイティ、お前のそういう所も俺には可愛くて仕方がないが、世間は俺のように心の広い人間ばかりじゃない」
デント様はケイティの顎を掴み、深く口付ける。
ケイティも最初は驚いたようだけど、目を動かし、私が見ているとわかると、彼の背中に腕を回した。
また、どうでも良いものを見てしまった。
わざわざ、見続ける必要もないので、近くにいたメイドと話をする。
「今日は良いお天気ね」
「は、はい。先程、空を見上げましたら、雲一つ無い青空でした」
「そうなのね。馬車で移動したから、空まで見上げなかったわ」
「おいっ!」
私が呑気にメイドと話を始めたからか、ゼント様は唇を離し、何か言おうとした。
でも、ケイティが彼の頭に腕を回して、それを阻む。
「駄目です、殿下。わたしだけを見て?」
ケイティがおねだりすると、ゼント様は我を忘れたのか、ケイティの唇に貪りつく。
これは待っていたら、終わらないパターンね。。
大きくため息を吐いたあと、ワゴンにのっていた予備のスプーンを手に取り、ゼント様の額に向けてダーツを投げるように投げた。
ゴッ!
という鈍い音がして、ゼント様がよろめき、スプーンが床に落ちた。
ああ。
スプーンに酷いことをしてしまったわ。
「ごめんなさいね、スプーンさん。あなたは何も悪くないのよ」
慌てて床に落ちたスプーンを拾い上げて謝っていると、ゼント様が額を押さえて叫ぶ。
「ソフィア、いいかげんにしろ! 俺とケイティが愛し合っている姿を見たくないからってやり過ぎだろう!」
「愛し合っている姿だけでなく、お二人のプライベートは全て見たくありません」
「畜生めが」
ゼント様は書状を魔法で燃やそうとしたけれど、私は指を鳴らして、ゼント様の魔法を打ち消した。
「ああ、忌々しい! 貴様の顔色を俺が窺わないといけないだと!?」
「ゼント様! 教えてください! その紙には何て書いてあるんです?」
ケイティが慌てた様子で尋ねると、ゼント様は私を睨みつけながら答える。
「ソフィアを俺とケイティの監察役にするとのことだ」
「かんさつ?」
ケイティが不思議そうな顔になったので、簡単な言葉を選んで教えてあげる。
「あなたと殿下が悪いことをしていないかチェックする人のことよ」
「ど、どうしてソフィアにそんなことをされないといけないの!?」
「国王陛下の命令だからよ。それから、あなたたちだけで何かを決定しても、私の許可がないとやってはいけないことになっているから、勝手に動かないでね」
「はあ?」
ケイティの可愛らしい顔が醜く歪んだ。
ケイティが不思議そうな顔をするので笑顔で答える。
「そうよ。元姉から、あなたへの個人的なプレゼントよ。食べてくれるわよね」
「べ、別にいいけど」
怪しんではいるみたいだけど、好奇心のほうが勝ったようだった。
たとえ、ケイティが嫌がったとしても食べさせる方向に持ってはいくつもりだったけど、すんなりいって良かったわ。
「スープを持ってきてくれる?」
部屋の中から声をかけると、スープの入った皿やカトラリーがのったワゴンを押して、メイドが中に入ってきた。
「ありがとう。ケイティ様にお出ししてくれる?」
「承知いたしました」
メイドは深々と頭を下げたあと、ケイティの前に置かれていた食事を下げ、持ってきた皿とスプーンを置くと、大人しくなっていたゼント様が、声を張り上げる。
「おい、ソフィア! 勝手な真似をするな! 俺は許可していないんだぞ!」
「ゼント様には許可をもらっていませんが、国王陛下からの許可は得ております」
「意味がわからん。父上から許可を得ているとはどういうことだ?」
「プライベートルーム以外での城内は、私は自由に動けることになっているのです。ダイニングルームは共通の場所ですから、プライベートルームではありません。メイドは私が許可したので良いのです」
「病人に権利なんてあるの?」
ケイティが小馬鹿にしたような口調で尋ねてきた。
「あるに決まっているでしょう。病人でも、陛下であることに変わりはないじゃないの」
「病気で皆に迷惑をかけているのに、どうして偉そうにできるの?」
「そんなことを思う、あなたの神経を疑うわ」
無邪気なふりをして聞いてくるケイティに苛立ちを覚え、この件でケイティと話すことはやめる。
そして、メイドに持ってもらっていた国王陛下からの書状を受け取って、ゼント様に差し出す。
「お読みください」
「何が書いてあるっていうんだ」
ゼント様は書状を奪うように受け取ると、内容に目を通し始めた。
最初は苛立たしげだった彼の表情が驚きの表情に変わっていくのが楽しくて、普段なら見たくもない顔なのに、ついつい凝視ししてしまう。
――こういう嫌な態度は、ゼント様やケイティだけにすることにしないとね。
ケイティはスープよりも書状のほうが気になるらしく、ゼント様の所に駆け寄って尋ねる。
「ゼント様、一体、何が書いてあるんです? 私、文字が読めなくて、何が書いてあるのかわからないんです。教えてもらえませんか?」
「可愛いケイティ。今はかまわないが、王妃になる以上は文字を読めるようにしないといけないな」
「わたし、勉強が嫌いなんです。だから、勉強したくありません。文字が読めなくても生きていけますよ。他の人に読んでもらえば良いんですから。それに、自分の名前は書けるので良いでしょう?」
「ケイティ、お前のそういう所も俺には可愛くて仕方がないが、世間は俺のように心の広い人間ばかりじゃない」
デント様はケイティの顎を掴み、深く口付ける。
ケイティも最初は驚いたようだけど、目を動かし、私が見ているとわかると、彼の背中に腕を回した。
また、どうでも良いものを見てしまった。
わざわざ、見続ける必要もないので、近くにいたメイドと話をする。
「今日は良いお天気ね」
「は、はい。先程、空を見上げましたら、雲一つ無い青空でした」
「そうなのね。馬車で移動したから、空まで見上げなかったわ」
「おいっ!」
私が呑気にメイドと話を始めたからか、ゼント様は唇を離し、何か言おうとした。
でも、ケイティが彼の頭に腕を回して、それを阻む。
「駄目です、殿下。わたしだけを見て?」
ケイティがおねだりすると、ゼント様は我を忘れたのか、ケイティの唇に貪りつく。
これは待っていたら、終わらないパターンね。。
大きくため息を吐いたあと、ワゴンにのっていた予備のスプーンを手に取り、ゼント様の額に向けてダーツを投げるように投げた。
ゴッ!
という鈍い音がして、ゼント様がよろめき、スプーンが床に落ちた。
ああ。
スプーンに酷いことをしてしまったわ。
「ごめんなさいね、スプーンさん。あなたは何も悪くないのよ」
慌てて床に落ちたスプーンを拾い上げて謝っていると、ゼント様が額を押さえて叫ぶ。
「ソフィア、いいかげんにしろ! 俺とケイティが愛し合っている姿を見たくないからってやり過ぎだろう!」
「愛し合っている姿だけでなく、お二人のプライベートは全て見たくありません」
「畜生めが」
ゼント様は書状を魔法で燃やそうとしたけれど、私は指を鳴らして、ゼント様の魔法を打ち消した。
「ああ、忌々しい! 貴様の顔色を俺が窺わないといけないだと!?」
「ゼント様! 教えてください! その紙には何て書いてあるんです?」
ケイティが慌てた様子で尋ねると、ゼント様は私を睨みつけながら答える。
「ソフィアを俺とケイティの監察役にするとのことだ」
「かんさつ?」
ケイティが不思議そうな顔になったので、簡単な言葉を選んで教えてあげる。
「あなたと殿下が悪いことをしていないかチェックする人のことよ」
「ど、どうしてソフィアにそんなことをされないといけないの!?」
「国王陛下の命令だからよ。それから、あなたたちだけで何かを決定しても、私の許可がないとやってはいけないことになっているから、勝手に動かないでね」
「はあ?」
ケイティの可愛らしい顔が醜く歪んだ。
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