その場しのぎの謝罪なんていりません!

風見ゆうみ

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11  元妹への贈り物 ③

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「国王陛下はあなたと殿下の意見は、私の許可がないと通してはいけないという権限をくださったの。元々、ケイティにはそんな権利もないから、あなたへの対処についてはおかしいことではないわよね」
「じゃ、じゃあ……、ソフィアの処刑は絶対にないってこと?」
「まだ諦めてなかったの? 私が自分の処刑を了承するわけないじゃない。諦めなさい」

 私が鼻で笑うと、ケイティはゼント様から離れて叫ぶ。

「何よ、この悪女! 性格の悪さをひけらかして、人に文句を言えなくさせるなんて! 国王陛下も国王陛下だわ! ねえ、ゼント様! 国王陛下はいつ死ぬんですか!?」

 ケイティの発言を聞いたゼント様は、さすがにまずいと思ったのか彼女の口を手で押さえる。

「ケイティ、あとで改めて話をするから今は静かにしておいてくれ。おい、ソフィア、お前の言いたいことはわかった。さっさと自分の家に帰れ」
「まだです」
「何だと?」
 
 聞き返してきたゼント様には何も答えずに、ワンピースドレスのポケットから小瓶を取り出す。

「そ、それは!」

 小瓶を見たケイティは驚きの声を上げた。

 でも、自分に不利になると本能的に感じ取ったのか、それ以上は言葉にしなかった。

「これはケイティが私に食べさせようとものよね? 私は事情があって食べられなかったけれど、ぜひ、あなたには食べてもらいたいわ」
「わ、わたし、ソフィアに何かを食べさせようなんてしていないわ!」
「あら、私が聞いた話とは違うって言うの? 私にはそう言っていたのよ?」
「ち、違うわ!」
「あのね、ケイティ。あなたがこの小瓶をメイドに渡したところは多くの人が目撃しているの」

 微笑んで言うと、ケイティは悔しそうな顔をして頷く。

「……そうね。そういえば、渡した気がするわ。だけど、瓶は同じで中身は香辛料を入れていたのよ!」
「毒の小瓶に中身を入れ替えるなんて、普通は考えるものかしら。まあ、それは今は良いとして、それを私の料理に入れろと言ったわけ?」
「わたしはソフィアの料理に入れろとは言っていないわ。メイドにあげただけよ!」

 自分がそうしろと言ったなんて言えるわけないわよね。

 自分が捕まることになるもの。

「あらそう。じゃあ、あなたがメイドにあげたものを使わせてもらうわね」
「だ、駄目よ! ソフィアが持っているものはわたしがあげたものじゃないでしょう!?」
「いいえ。同じものよ。警察から返ってきたの」

 本当は返ってきてなんかいない。
 普通の人ならおかしいと思うところかもしれないけど、そんなことをケイティが気づくわけがない。

 呆然としているゼント様から書状を奪い取るようにして返してもらうと、スープに小瓶の中身を少量だけ入れてみる。
 一応、ケイティが食べた時のことを考えて、こちらはちゃんと毒ではないものに中身を入れ替えてある。

 でも、ケイティはそんなことは知らない。
 自分がナンシーに渡したものが、スープに入れられたと思いこんでいるから、彼女の顔が一瞬にして真っ青になった。

「さあ、召し上がれ」
「い、嫌よ。食べたくない」
「あなたのために作ったのに」
「うるさい! わたしは絶対に食べないから!」

 ケイティは大股で自分の席に移動し、スープの入った皿を近くの壁に向かって投げつけようとしたので手首を掴んだ。

 咄嗟のことだったため、手加減ができず、ケイティは手首の痛みで力を無くし、皿を手から離して自分の体にぶちまけた。

「いやあぁっ!」

 悲鳴を上げるケイティの元に、ゼント様が駆け寄ってきて叫ぶ。

「ケイティ! 落ち着くんだ! ドレスのかわりなどいくらでもある!」
「ゼント様ぁ! そういう問題ではないんです!」

 床やテーブルの上にこぼれたスープや皿を片付けるようにメイドに指示していると、ゼント様がケイティを抱きしめたまま、私に向かって叫んでくる。

「ソフィア、貴様と婚約破棄して本当に良かった! 貴様みたいな冷酷な女を相手にできるような男はこの世にはおらんだろうからな!」
「残念ながら、そうではないんです。実は、ロアンス家から婚約の打診がきておりますので」

 私が笑顔で言うと、泣きわめいていたケイティの動きが止まった。

 それもそのはず、ロアンス家は五大公爵家の1つだし、ロアンス家の長男は、ケイティが思いを寄せていた人物だったからだ。

 ロアンス家は私に断られるということもわかって、婚約を申し出てくれた。
 理由としては、長男が私と友人関係にあり、私が処刑されないために何か良い案はないかと考えてくれた結果、公爵令息の婚約者という肩書きがあれば、処刑だなんて言いだしにくくなると考えたからだ。

 お互いに結婚する意思はないけれど、私の命を守るために動いてくれたのだから、本当に有り難い。

 ケイティは私の婚約者を奪ったと思っていい気になっているから、私は彼女が手に入れたくても手に入れられなかった男性と婚約したことにすれば悔しがるに違いないと思った。

 自分がどんなにアタックしても相手にしてくれなかった人が、私と婚約するだなんて聞いたら、ケイティは動揺するだろうと思っていたら案の定だった。

 ちなみに、ロアンス家の長男であるジュートは、私より2つ下で、今のところ、恋愛には全く興味がなさそう。
 だから、私に婚約を断られたという噂が流れても特に気にならないと言ってくれている。

「ソ、ソフィア、あなた、嘘をついているんでしょう? ジュート様があなたなんかを選ぶはずがない!」
「あら? そうかしら。でも、婚約の話は向こうからしてくれたお話なのよ。まあ、いいわ。それよりも、そんなことを気にしている場合ではないでしょう。ドレスがスープで汚れているわ。冷めていたから良かったけれど、身体を洗って着替えてきたらどう?」
「そうだぞ、ケイティ。一緒に行こう。ちょうど、俺も風呂に入りたかったんだ」

 二人で入る必要はないでしょう。
 と言いたくなったけれど、それは個人の勝手よね。
 好きなようにすればいいわ。

「床や椅子などを汚してしまってごめんなさいね」

 片付けをしてくれているメイドに謝ってから、私が部屋を出ようとすると、ケイティの取り乱した声が聞こえてきた。

「絶対に嘘だわ! ジュート様がソフィアと婚約したいだなんて! わたしには見向きもしなかったのに! 絶対にありえない!」
「残念でした。本当の話よ」

 微笑んでみせると、ケイティは絶望したような表情になった。 
 毒がドレスにかかったことを忘れるくらいショックみたいね。

 その顔を見て満足した私が部屋を出ると、ケイティがゼント様に訴える声が聞こえてきた。

「あんな性悪女が選ばれるわけないわ! ゼント様! ソフィアなんかより私のほうが可愛いですよね?」
「当たり前だ! あんな性格も顔も醜い女は、この世にはあの女一人しかいない!」
「ですよね!? あんな人、ジュート様に選ばれるわけがないわ!」
 
 ゼント様には大してダメージを与えられなかったけど、今日の目的はケイティに対してだったから、ちょっとスッキリしたわ。

 やられた分にしては、まだまだ足りないけどね。
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