その場しのぎの謝罪なんていりません!

風見ゆうみ

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13  衝撃的な事件 ①

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 わざわざやり直すだなんて、ジュートらしいといえば、ジュートらしい。

「うーん、コントロールが難しいなぁ。もう少し練習してもいいかな?」
「ジュート、さすがにそれ以上やると、バレた時に、ご両親に怒られるわよ」
「落とし穴に落ちた人間がどうなるかわかる、いい練習台なんだけどなぁ。さすがに普通の人にはやっちゃいけないからさ」

 ジュートが呑気そうに答えた時、城に続く小道から、ワイアットがやって来て叫んだ。

「で、殿下!? 一体、どうしたんです!?」
「勝手に地面が凹んだんだ! 誰がやったか何となく見当はつくけどな!」
「地面が凹む?」

 ワイアットは不思議そうにゼント様に聞き返したけれど、私の隣に立っているジュートを見て納得した顔をした。

 私が魔法の解除をしなかったから、ワイアットがゼント様を地中から引っ張り上げた。
 すると、ゼント様はワイアットに礼を言うこともなく、私たちを指さして叫ぶ。

「ジュート! どうせお前の仕業だろう! このオレになめた真似をしやがって! 泣いて謝っても絶対に許さんからな! ケイティを取られて悔しいのかもしれないが、こんなことではオレは屈しない!」
「ケイティに興味ないです。殿下とお似合いですよ。あと、今回のことを問題にするなら、そうならないように殿下を埋めますんで」

 ジュートは真剣な表情で答えた。

 問題にならないように証拠隠滅しようとしているのね。
 生きたまま地中に埋めようとしているのだから恐ろしいわ。

「くそ! 本当に覚えていろよ! そして、ソフィア! お前もだぞ! ケイティが悲しんでいるのはお前のせいだからな!」
「ケイティが何に悲しんでいるのかわかりませんが、私はやられたことをやり返しただけですよ」
「人が嫌がることや悲しむことをしてはいけないと教わらなかったのか!? この外道めが!」
「王太子殿下の口から、そんな説教をされるなんてさすがに心外ですわ」
「馬鹿にしやがって! ああ、イライラする!」

 ゼント様は文句を言いながら、私たちに背を向けた。
 そしてそのまま、呆れた顔のワイアットの前を通り過ぎ、王城へと続く道を一人で帰っていった。
 
 その背中を見送ってから、魔法を解除して地面を元に戻す。

「ありがとう。それにしても、ゼント殿下は何をしに来たのかな」
「さっき、ケイティに毒入りスープを飲ませてあげようとしたから、それの仕返しかもしれないわ。あと、あなたと私が婚約すると聞いて、ケイティはかなりショックを受けていたから、それの腹いせもあるんじゃないかしら」
「毒入りスープを飲ませようとしたって、どういうこと?」

 ジュートが恐ろしいものを見るような目つきで私を見るので、ワイアットと共に家の中に入り、先程のケイティたちとのやり取りを話したのだった。

 話を聞き終えたジュートが首を傾げる。

「どうして、そんなにケイティは君のことを嫌っているのかな」
「色々とありすぎてわからないわ。一番の理由かはわからないけれど、公爵令嬢というだけでちやほやされている私が気に食わなかったんじゃないかしら。ケイティは何でも自分が一番じゃないと気がすまない子だからね。だから、本当にゼント様のことが好きなのかどうかもわからないわ」

 私の言葉を聞いて、ワイアットが眉根を寄せる。

「好きでもない男性と人前ではしたないことをしたりできるものなんですか?」
「人によってはできるんじゃないかしら。そういう行為をしても責められるものではないし、はしたないことだと思ってはいないんだと思うわ」
「貴族の女性が、夫や愛する人以外とするような行為ではないでしょう」
「ワイアット、あの子は勉強が嫌いで文字も覚えていないの。貴族の常識なんて知っているわけがないでしょう。もしくは知っていたとしても、自分は許されると思っていると思うわ。最初は両親がいきなり亡くなってショックでそれどころじゃないと思って、私たちも強くは言わなかったのよ。口酸っぱく言うようになったのは、私の家に来て1年後だったわ。……それを考えると、もっと、ケイティにかまっておくべきだったかしら」
「まあ、公爵家なんだし、真面目に頑張っているわけでもない人間を切り捨てるのは、おかしいことではないと思うよ。それに、ケイティのことだから、何年経っても一緒だよ」

 ジュートの言葉にワイアットも頷く。

「そうですね。ケイティは昔からあんな性格でしたよ」
「そう言ってもらえるとありがたいわ」
「とにかく、気をつけたほうがいいかもしれないね」

 ジュートが難しい表情で続ける。

「ケイティはソフィーが自分に何かされるより、他人に何かされることのほうが嫌だってことを知ってるんでしょ? なら、昔、メイドにしたみたいに、他の人にも同じようなことをするかもしれないよ」
「……そう言われてみればそうね。私の家に来ているメイドたちにも護衛をつけたほうが良いかしら」
「もうなんなら、ゼント殿下、埋めちゃう? そうすれば、ケイティは平民の暮らしだよ」
「駄目よ。そんなことをしたら、あなたが捕まるわよ!」
「鬱陶しいし、埋めちゃいたいなぁ。君たちが何も言わなければ、ゼント殿下は行方不明になった、で終わるだけだと思うけど」

 ジュートがのほほんとした口調で恐ろしいことを言うので、私とワイアットは思わず顔を見合わせる。

 ジュートの言いたいことはよくわかるけれど、それを公爵家の人間がやったらオシマイというやつなんじゃないかしら。

「王家を守る公爵家が王太子を殺そうとしてどうするんです」

 ワイアットも同じことを考えたみたいで、呆れた顔で言うと、ジュートはいつになく真面目な顔をして答える。

「王家を守るためだよ。あんなのが国王になったら大変だよ。しかも王妃はあれだ。僕、あんなのに仕えたくない」
「それは多くの人間が思っていますが、口に出さないように我慢しているんですよ」
「でもさ、ここに三大公爵家の子供が集まっているわけだしさ、やっちゃわない?」
「駄目です!」
「駄目に決まってるでしょう! ジュート、遊びじゃないんだから!」

 ワイアットと私が大きな声で叱ると、ジュートはつまらなさそうな顔をした。

「国民のためになると思うんだけどなぁ」
「それは間違ってませんが、殺しはいけません」
「事故ならいいの?」
「事故に見せかけようとしていたら殺しでしょう」
 
 ワイアットが頭を抱えて大きく息を吐くと、ジュートは苦笑する。

「あのね、僕だって、普段はこんなことは言わないよ。だけど、ゼント殿下の馬鹿っぷりを見た以上、言わざるをえなくなるという気持ちもわかってよ」
「気持ちはわかるわ。私だってどうにかできるものなら、どうにかしたいもの。だけど、今のところ、ゼント様のあんな姿は、ほとんどの国民が知らないの。王太子が暗殺されるなんてことがあったら、国民は怯えるし、犯人探しをするはずよ。だから、殺しじゃなくて、王太子の座を剥奪することを考えない?」
「うーん。まぁ、そうなんだけど、どうやって? 国王陛下が元気になっても、あの馬鹿は直らないと思うよ? そうしている内に、ソフィーはさっきみたいに命を狙われるんじゃない?」
「ゼント様が相手なら、私一人で勝てるから大丈夫よ。ただ、私じゃない誰かを狙われるのは困るわ」

 さっきだって私が助かっても、家の中にいた誰かが犠牲になったかもしれない。
 それを考えると、監察役の私としては……、って、そうじゃない。
 私は監察役なんだわ!

「私はゼント様とケイティの監察役に任命されているの。ということは、罰も決めることができるのかしら」
「……陛下に確認してみます。といっても、回復傾向にはありますが、基本は眠っておられることが多く、目を覚ましてもすぐには覚醒しないんです。急ぎで確認したいことが他にもあるので、その後になりますが、それでも良いですか?」
「もちろん」

 本当はすぐに答えが欲しいけれど、陛下のお体が一番大事だから、無理はしてほしくない。
 少しでも早く元気になってもらって、跡継ぎについてのお話も考えていただかなくちゃ。

 しばらく話をしてから、ワイアットは仕事があるからと帰っていき、ジュートは私の家で昼食をとって帰っていった。
 ジュートが帰ってから、彼がやって来た理由やワイアットとの婚約の話をすることをすっかり忘れていたことに気がついた。

 ……明日にはちゃんと、二人に連絡しなくちゃ。

 そう考えた次の日の朝に、ジュートには手紙を送り、ワイアットに会いに行く準備をしていた私の耳に衝撃的な話が届けられた。

 昨日の晩、ケイティの侍女の一人が、何者かに火をつけられ焼死したという話だった。
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