その場しのぎの謝罪なんていりません!

風見ゆうみ

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15  親友の登場

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「ソフィー、大丈夫でしたか」
「大丈夫よ」
「ケイティは酷い話をしていましたね」

 家の中にいたワイアットにも話が全部聞こえていたみたいで、家に入ると、心配そうな表情で駆け寄ってきた。

「……大丈夫だけど、精神的にくるものがあるわね。本当に信じられないわ。私のせいにして、自分が気に食わないものを排除するつもりよ。だけど、そんなことは絶対にさせないわ」

 断言してから、ワイアットに手を合わせる。
 
「それで、ワイアットにお願いがあるんだけど聞いてもらえるかしら」
「何でしょうか」
「ケイティとゼント様の耳に入らないようにしつつ、侍女が殺された理由はケイティに目をつけられたから、という噂を流してほしいの」
「新たな犠牲者を出さないようにするんですね」
「そうよ。絶対にケイティには逆らわないようにしてもらわないといけないし、彼女に対しての陰口を叩かないようにさせなくちゃ。いつ、どこで聞かれているかわからないからね。そして、仕事を辞めたい人間がいれば仕事を斡旋するから、ミーデンバーグ公爵家に知らせてほしいと伝えてほしいの」
「……ケイティの周りから人を失くすつもりですか」
「全ての人は無理だと思うけど、残るとしたら、ケイティに媚びているメイドや侍女だけでしょう。それなら、命に危険はないわ」
「ですが、多くは普通のメイドです。ナンシーのこともありますし、ケイティに仕えているメイドは一気にやめていくのではないでしょうか」
「それでかまわないわ。ケイティのことだから、全ての侍女やメイドの顔や名前を覚えているわけがないもの。人が少なくなったなと思うか思わないかといったところじゃないかしら」

 残った侍女やメイドはケイティ側につくだろうから、殺される確率は少ないし、少なくとも犠牲になることはない。

 それがその人たちの選択なのだから、私はどうこう言うつもりもない。

「……わかりました。メイドや侍女の転職先ですが、レストバーン家でも受け入れてもらえるように父に伝えておきます。あと、知り合いにも声をかけておきますね」
「ありがとう。私は他の公爵家に話をするわ」

 頷いたあと、ワイアットに決意を伝える。
 
「法律は何かの犠牲がないと変わらないんだなんて不満を持っていたのに、何も言わずにそのまま放置していたの。誰かが犠牲になって慌てるだなんて、私の考えが甘かったわ。だけど、これからは容赦なくいくつもりよ。……そうなると、他の公爵家にも協力してもらわないといけなくなると思う。私を敵にまわしたことを後悔させるには、味方が多いほうがいいから」
「僕はあなたの味方ですよ。それに僕以外の公爵家の令息や令嬢は連絡しなくても、向こうから来ると思いますがね」
「そうかしら」
「そうだと思いますよ。勧善懲悪とはいかずとも、悪者が嫌いな人たちばかりですからね」

 ワイアットはにこりと微笑んだ。


******

 ワイアットの予想通り、彼が帰ってから数時間後、まずは、お兄様が家にやって来た。

「ワイアットに先に会って話は聞いた。ケイティは思った以上に酷い女だったな。最初はソフィーへの妬みから始まり、王太子殿下を奪い取って満足したかと思ったら、今度は王妃になって満足したいとはな」
「呆れますよね。……そういえば、ゼント様は、ケイティの本当の気持ちに気づいていると思いますか?」
「……気づいていないだろう。恋は盲目というやつだ。それに、自分に自信を持っているだろうしな。でも、ケイティが王妃狙いだということに気がついたら、さすがの殿下も目が覚めるかもしれない」
「それは無理でしょう」

 冷たく答えると、お兄様は苦笑してから、ダイニングテーブルの椅子に座り、私に尋ねてくる。

「これからどうするつもりだ?」
「まずは、私以外の人には手を出せない状況に持っていきます。ゼント様の味方になりそうな人間を潰していくことから始めるつもりです。あ、もちろん、本当に潰すわけではありませんよ」
「わかってるよ。だけど、母上は生易しいやり方では許さないと思うぞ」
「わかっています。お母様とはちゃんと話をします。王家の兵を動かす権限はゼント様にもありますから、ミーデンバーグ家の動きを察すれば反逆罪として、先に攻撃してくるでしょう。無駄な犠牲は出したくありませんから手を打ちます。あ、あと、今回、亡くなった侍女の弔いと家族への連絡などはワイアットに任せています」
「侍女には本当に悪いことをした」

 お兄様は悲しげな表情を見せたあとに続ける。

「あいつらの味方や攻撃対象をなくしていくのはいいが、最終的にどうするつもりだ?」
「それはもちろん、王太子殿下の王位継承権の剥奪です。それだけで許すつもりはありませんが」
「そうなった場合、母上が喜んで首を、いや、お祖父様が取りにくるだろうなあ」

 胸の前で腕を組み、お兄様が宙を見上げて唸った。

「ゼント様を王太子の座から引きずりおろすことが私の目的です。その後のゼント様が、どうなろうが知ったことではありませんが、出来れば生かして苦しい思いをさせたいですね」
「ソフィーが一番怖い考えをしてるかもしれないな」

 お兄様は豪快に笑うと、近くにいたメイドに声をかける。

「お前たちにも迷惑をかけて悪いが、彼らの行動パターンを調べるようにしておくから、王太子殿下やケイティが外に出ていない時間帯に動くようにしてくれ」
「承知いたしました」
「ごめんなさいね、巻き込んでしまって。もし、怖いなら通って来なくてもいいからね」

 謝ると、メイドたちは驚いた顔をして首を横に振る。

「ナンシーの姿を目の当たりにした以上、私たちも弱音を吐いてはいられません」

 メイドの言葉を聞いて、お兄様が笑顔で言う。

「そうそう、そのナンシーだが、うちの家で働いてくれることになった。さっき会ってきたが、ソフィーに会いたがっていたぞ」
「私のこと、恨んでないかしら?」
「感謝してるから会いたいって言っていたから恨んではないだろ」
「感謝されるようなことはしていないわ。それに、まだ、存在をケイティたちに隠しているから自由にもなれないでしょうし」

 ナンシー自身がケイティに目をつけられているから、生きているとわかったら大変だわ。
 でも、私もいつかはまた戻るでしょうから、ミーデンバーグ家で働いてくれるのなら嬉しい。 

「まあ、いいじゃないか。それより、お客さんが来たみたいだぞ」

 玄関が騒がしくなったので、私も気がついていたけれど、誰だかわからなかった。

 でも、耳が人よりもよく聞こえるお兄様は誰が来ているかがわかっているようだった。

「ソフィー、生きています? 死んでいたりしたら殺しますわよ!」

 玄関のほうから聞こえてきたのは、私の親友であり、五大公爵家の一つであるキーギス家の令嬢、ララベルの声だった。
 
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