その場しのぎの謝罪なんていりません!

風見ゆうみ

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17  五大公爵家の令嬢と令息たち ②

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「あれ、ララベルも来てたんだ。あ、フィアン兄さんもいる」

 ジュートは、ララベルとお兄様を見て、少しだけ驚いた顔をした。
 そんな彼にお兄様が笑顔で声をかける。

「久しぶりだな、ジュート」
「お久しぶりです、フィアン兄さん、ララベル」
「お久しぶりね、ジュート。あなた、中々、身体が大きくならないわね。ちゃんと食べているの? 面倒くさがって、食事を抜いているんじゃなくって?」

 ララベルはジュートに近付いていくと、心配そうな顔で言葉をかけてから、優しく抱きしめた。

「ララベル、別に身長が低くても生きてはいけるし、食べないから伸びないわけじゃない。だから離れてくれない? 君には婚約者がいるじゃないか。誤解されたらどうするんだ」
「久しぶりの再会じゃありませんか。少しは可愛げのあるところを見せて下さいな」
「……会えて嬉しいよ。だけど、ララベルは再会を喜んでいるというよりか人を子供扱いしているだけじゃないか」

 ジュートはため息を吐いて、ララベルの腕から抜け出すと、お兄様の隣に座って話し始める。

「ソフィー、大変なことになったね。だから、あの時に埋めようって言ったのにさ」
「方法は違えど、やっていることが一緒なら褒められたものじゃないわよ」
「それはそうだね。それに、こんなことを言ってはいけないのはわかってるけど、誰かが犠牲にならなきゃ、父上たちも重い腰をあげなかったろうし、きっかけをくれたのは確かだよ」
「……どういうこと?」

 意味がわからなくて尋ねると、ジュートは上着のポケットから封筒を取り出して、私に差し出してきた。

「父上から預かってきたんだ。これを王太子殿下に見せてほしいって」
「あなたが持っていけばいいじゃない」
「嫌だよ。ゼント殿下の所に行きたくない。彼の側にはケイティがいるんだろう?」
「そう言われればそうね。あなたは特にケイティには会いたくないものね。なら、あとで持っていくわ。見せるだけでいいの? それとも渡せばいいの?」
「見せたあとは君が持っていてほしい」
「……わかったわ」

 私が持っておくという意味が謎ではあったけれど、ジュートの言葉に頷くと、ララベルが手を挙げた。

「私の家からのものも一緒に見せてくださいな。私はゼント殿下に会いたくないのもありますが、ジュートと同じでケイティに会いたくないというのが一番ですので」

 ララベルはしかめ面をしたあと、近くに控えていた侍女から封筒を受け取り、私に手渡してきた。

 ララベルは昔からケイティのことが嫌いで、ケイティも彼女が嫌いだった。

 顔を合わせれば喧嘩をしていたし、子供の頃は酷い時には取っ組み合いの喧嘩になって、慌てて止めに入ったことがある。

「みんな同じだな。俺も父上から預かってきた。それから、こっちがお祖父様から」

 お兄様はシャツのポケットから、封筒を2通取り出して、私に渡してくれた。

 こんなにも一気に地位のある人たちからの手紙を受け取るなんてことはない。
 
 一体、どういう内容のものなのかしら。
 
「差し支えなければ教えてもらいたいんですけど、どんなことが書かれているのでしょうか」
「……僕も初めて見たよ。父上が言っていたけど、こんなことって前代未聞らしい」

 私の疑問に、ジュートが答えてくれたけれど、いまいち意味がわからない。
 理解していない私に気がついたお兄様が教えてくれたのは、普通ではありえない話だった。

「そ、そんな。上書というだけで驚きですのに、緊急事態の時にしか使われないものだなんて、この上書には魔法がかかってるんですね」
「ああ。さすがの王太子殿下もこの意味は理解するだろう。代々、伝わっているものだからな」
「もし、陛下がこの手紙の意味がわからないようだったら、ソフィーが彼に意味を説明してあげてよ」

 お兄様の言葉をジュートが補足したところで、メイドがまた来客を告げてきた。

「またなの? 今日はお客様が多いわね」

 呟いてから、中に通すようにメイドに伝えると、ワイアットが中に入ってきた。
 狭い部屋の中は、ララベルの侍女もいるから、もうすでにキャパオーバーになりそうだった。

 申し訳ないけれど、侍女たちには外で待ってもらうようにお願いしようと考えていると入ってきたのは、ワイアットだけではないことに気がついた。

「よう! 皆、お揃いじゃねぇか! 元気そうで良かった良かった」

 部屋に入ってくるなり、笑顔でそう言ったのは、五大公爵家の一つである、ガロア家の嫡男のバロン兄様だった。
 彼はお兄様の一つ年下だけど、背はお兄様よりももっと大きい。
 彼は次期公爵というより、格闘家といわれたほうが納得できる見た目だ。

 見た目通りに豪快な性格だけど裏表もあり、私たちの前では言葉を崩しておしゃべりが大好きなのに、他の人の前では途端に無口になる。
 そんなバロン兄様は私に近寄ってきて声をかけてきた。

「ソフィー、大変だったな。それにしても、あの女、思ってた以上にヤバい女だったんだな。ヤバいのは、ゼント殿下もそうだが」
「バロン兄様、ごめんなさい。私のせいで」
「ソフィー! 私のせいでというのはおやめなさい」

 私が話している途中で、ララベルから不満の声が飛んできた。
 これ以上、ネガティブになるな、と言ってくれているみたい。
 だから、口に出そうとしていた言葉を変える。

「ええっと、あの、私の見立てが甘かったの。これ以上、被害を出さないために、バロン兄様にも力を貸してもらいたいんだけど」
「言われなくても力を貸すに決まってんだろ。あ、それ、俺も持ってきてんぞ」

 私が胸に抱きかかえていた封筒を見て、バロン兄様は上着のポケットから、よれよれになった封筒を取り出して、私に差し出してきた。

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