その場しのぎの謝罪なんていりません!

風見ゆうみ

文字の大きさ
19 / 31

18  五大公爵家の令嬢と令息たち ③

しおりを挟む
 くしゃくしゃになった封筒を受け取り頭を下げる。

「ありがとうございます、バロン兄様」
「礼を言われることじゃない」
「バロン! 大事なものなのに、しわくちゃになっているじゃないか!」

 お兄様に怒られたバロン兄様は不服そうな顔をして言い返す。

「中身が無事なんだから別にいいだろ! かたいこと言うなって!」
「お前が言うと軽く聞こえるんだよ! 反省しろ」
「領民の前では無口な公爵令息で通ってるから安心しろって」
「……本当かよ。それに、領民の前ではちゃんとしているからって大事なものをぞんざいに扱って良いわけじゃないぞ」

 お兄様とバロン兄様の話を黙って聞いていると、ワイアットが他の人たちと同じように封筒を私に差し出して話しかけてくる。

「私の父から預かったものです。ソフィーに預けておきます。父は、これからもあなたの味方につくと言っていました」
「ありがとう、ワイアット。それに、ララベル、ジュート、バロン兄様、本当にありがとう」

 頭を下げてお礼を言うと、お兄様と目が合った。

「もちろんお兄様にも感謝しています。当主様方には、お礼の手紙を送るようにするわ」

 胸に抱えた封筒を手で優しく撫でながら言うと、バロン兄様が言う。

「王家の問題は五大公爵家だけじゃなく、みんなで考える必要があるからな。なのに、現在の当主でもなく、次期当主でもないソフィー1人に任せようとすんのが初めから間違ってんだよ。あ、別にソフィーが頼りないとか言うわけじゃねぇからな」
「ありがとうございます、バロン兄様」

 お礼を言うと、バロン兄様は気にするなと言わんばかりに手を横に振ってから、ララベルに尋ねる。

「そういや、ケイティがララベルの家に養女になってたら、どうなってたんだろうな」
「ありえませんわ! そんなことになっていたら、ケイティの存在ごと消して差し上げます」
「そっかあ。それなら、ケイティを今からでもララベルの家の養女にしない?」

 ジュートがおっとりした口調で言うと、ララベルが叫ぶ。

「あんな汚らわしい女を家に入れるだなんて考えられませんわ!」
「その勢いでケイティを精神的に潰してやれよ」
「そんなことをおっしゃるのなら、バロン兄様がケイティを妹にしてさしあげたらどうです?」
「ケイティは俺とフィアンのことを嫌っているからな。ゴリラ兄弟とか言われたことあんだよ。あながち間違ってねぇけど」

 バロン兄様がけらけら笑うのを呆れた顔で見ていたワイアットが口を開く。

「ちょうど五大公爵家の次期当主が集まっているようですので、ソフィーも含め、これからのことを話し合いたいのですがかまいませんか」
「元々、俺はソフィーとこれからのことについて話がしたかったから来たんだ」

 お兄様が頷いてから立ち上がる。

「もう少し広い場所に移動するか。ここでは6人も座って話せないからな」
「そうですわね。でも、バロン兄様はずっと立っておいたら良いかと思いますわ」

 ララベルに話をふられたバロン兄様が眉根を寄せる。

「何でそんな意地悪なことを言うんだよ」
「さっき、身の毛もよだつような話をされたのは、どこのどなたですか!」

 ララベルが叫んだと同時に、外から声が聞こえてきた。

「おい、ソフィア! 醜い顔を見せろ! 今回も貴様の家までやって来ているんだから感謝しろ! 早く出てこい!」

 聞こえてきたのはゼント様の声だった。
 
「どういうことだ、ソフィー」
「わかりません。前は火をつけに来てましたけど、今日は違うみたいですね」

 お兄様の質問に答えて小さく息を吐いてから、テーブルの上に上書の入った封筒を置く。

 そして、声が聞こえてきた方向の窓に近づいた。

 すると、窓の向こうでゼント様とケイティが寄り添って立っているのが見えた。
 もしかして、また、ここでイチャつくつもりなの?

 ワンパターンすぎるでしょう。

「ソフィアめ! 俺にフラれたことを後悔するがいい! ケイティ、愛しているぞ!」
「私もです、ゼント様ぁ」

 二人は見つめ合い、抱き合ったかと思うと唇を重ね、そのまま深いキスに移行した。

「何だあれは……」

 いつの間にか、お兄様が後ろに立っていて、呆然とした表情で呟いた。

「おお、サカってるな!」
「気持ち悪い」
「王太子ともあろう方が…」

 バロン兄様、ジュート、ワイアットの順で、二人を見た感想が飛んできた。

「見たくもないものを見せられましたわね」

 いつの間に出したのかわからないけれど、さっきまで持っていなかった扇で口元を隠して、ララベルが呟いた。

 ララベルが二人を見る目はまるで、汚物を見るようなものだ。

「……ん? え、あ、きゃあぁぁっ!」

 ケイティが私たちの視線に気付き、悲鳴を上げてゼント様の身体を突き飛ばした。

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...